公認心理師試験に備えての個人的な学習ノートです。「10分で心理学・臨床心理学の歴史をおさらいする」のがこのページのテーマ。
「公認心理師出題基準(平成30年版)」では、「心理学・臨床心理学の全体像」の
(1)心理学・臨床心理学の成り立ち
にあるキーワードを中心に取り上げます。
心理学前史
「心理学の過去は長いが歴史は短い」と述べたのは、「忘却曲線」などで知られるエビングハウスさんでした。
心理学(psychology)とは
心理学(psychology)という言葉は、"psyche(精神、魂)"と "logos(論理、言葉)"から生まれました。古代ギリシャの哲学者まで遡ることができるそうです。
日本語の「心理学」という用語は、幕末から明治初期の啓蒙家であった西周(にしあまね)が、"mental philosophy"という言葉の訳として用いたのが始まりです。この人は、「哲学」「意識」「知識」「概念」「理性」「芸術」「科学」と言った訳語も考案しています。
ヒポクラテスとガレノスの四気質論
「医学の祖」とされる古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、「ヒポクラテスの誓い」でも知られています。
自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。
といった「誓い」は、公認心理師の倫理規程(守秘義務など)にも関連していますね。
アリストテレス『魂について』
古代ギリシャの哲学しゃアリストテレス(前384−前322)は、「プシュケーについて」という著作で、植物や動物の心、人間の心の性質について述べました。この本のタイトルには、『霊魂論』とか『心とは何か』『魂について』といった約があります。
デカルトの心身二元論
近代の哲学者デカルトさん(1596−1650)は、心と身体は分離して存在しているという「心身二元論」を唱えました。心を持つのは人間だけで、動物は機械のようなものだと考えました。
タブラ・ラサとしての心ージョン・ロックの経験論哲学
ジョン・ロック(1632-1704)は、人の心は白紙(あるいは白板:タブラ・ラサ)のようなものだという「経験説」を唱えました。
tabula rasaという表現は、アリストテレスくらいまで遡ることができるそうです。
近代心理学の誕生
19世紀は、物理学が非常に発展しました。他の学問も、物理学に習って自然科学としての立場を確かなものにしようと試みます。近代心理学も、そのような中で生まれました。
心理学史では、精神物理学を提唱したフェヒナーや、光の三原色の理論を発展させたヘルムホルツ(生理学者であり、物理学者でもあった人です)などの名前がよく登場します。
ヴントと実験心理学
ヴント(1832-1920)については、次のページが詳しいです。
心理学史のマスターナラティブ(支配的な語り)は以下のようなものです。 「フェヒナー(Fechner, G. T.)の精神物理学を前史としてヴントによって近代心理学が成立し,その後に行動主義・精神分析・ゲシュタルト心理学という三大批判潮流があらわれた。第二次世界大戦後になると心理学の中心がアメリカに移ったこともあり,行動主義・精神分析が隆盛を極める。しかし,これらの科学主義を批判した第三の心理学として人間性心理学が登場,また,認知心理学も行動主義の研究対象の狭さを批判して新しい潮流を作っている」
とまとめられてるので(この物語はハーバード大学のボーリングが作ったのだそう)、試験勉強としてはこれくらいの理解でいいのかな。
ゲシュタルト心理学
ヴントの構成主義・要素主義的な心理学を批判して、人間の精神を全体性や構造として捉えようとした心理学派。ゲシュタルト(Gestalt)とは、ドイツ語で「形態」あるいは「全体性をもったまとまりのある構造」といった意味合いだそうです。
ヴェルトハイマーやケーラー、コフカ、レヴィンといった研究者が知られています。
「ゲシュタルト心理学がよいデザインに必須のわけ」という動画の説明がわかりやすかったです。
Gestalt Psychology and Why It's Essential for Good Design
ゲシュタルト心理学の原理(図と地、全体性など)は、フレデリック・パールズらのゲシュタルト療法という心理療法ににも応用されています。
行動主義の心理学
ヴントの心理学をはじめとして伝統的な心理学は人間の「意識」を対象としていました。
アメリカのJ.B.ワトソンは、「心理学は意識ではなく、客観的に観察可能な行動を対象としなければならない」と主張し、行動主義の心理学を提唱しました。
環境によってすべてが決まると主張し、「赤ん坊を与えてくれたなら、どんな種類の人間にだって育ててみせよう」と述べました。
赤ちゃんに「恐怖症」を条件付けしたアルバート坊やの実験などでも知られていますね。
J.B. Watson and the Little Albert phobia experiments
新行動主義
ワトソンの行動主義は、パブロフの古典的条件付けの研究に基づいていました。そこで扱われるのは、生体の生理的な反射の学習です。
一方、トールマン、ハル、スキナーといった研究者は、環境からの刺激に対する生体(人や動物)の行動を重視し、オペラント条件付けの研究を進めました。
オペラント実験箱(スキナーボックス)の中で鳩がボタンをつついたり、ネズミがレバーを押したりするあれですね。
精神分析学
ジグムント・フロイトが創始した精神分析療法は、転移の分析などを通して、被分析者が無意識を意識化することを促す治療法です。
さまざまな流儀が生まれており、「力動的心理療法」と総称されています。欲求とそれを抑えようとする(折り合いをつけようとする)防衛などの心の動きのダイナミクスを探索する心理療法、といったくらいの意味合いでしょうか。
知能検査と個人差研究
ダーウィンのいとこのゴールトンが心理学における個人差研究を始めました。進化論の影響を受けつつ、個人差や遺伝の研究、優生学などの研究をしています。優生学との関係で、批判的な見地から言及されることも多いのですが、個人のデータをたくさん収集して統計的に捉えるというアプローチの基礎を作った人です。
アルフレッド・ビネーは、フランスの文部大臣からの要請で1905年にシモンと共同で「ビネー・シモン知能尺度」を作成しました。
ビネーの知能検査の流れを組む、「鈴木ビネー」や「田中ビネー」といった検査が日本でも開発されています。
認知心理学
「心」という現象は目では捉えられないので、いろいろなメタファーを介してアプローチされてきました。神々や精霊なども、心を捉えるためのメタファーとして理解することができます。
時計やからくり人形などが発明されると、人間の身体や心もゼンマイ仕掛けで動く何か、と考えられるようになります。
フロイトは、蒸気機関をモデルにして、心のダイナミクスを説明しました。
コンピューターはもともと人間の精神機能をモデルに、それを拡張する方向で発明されました。けれども逆に、人間の心もコンピューターのようなものだと捉える視点も生まれてくることになります。
認知心理学(cognitive psychology)は、情報処理という観点から、人間や動物の認知活動を研究しようとします。対象となるのは、知覚、記憶、学習、推論、思考、問題解決といった人間の高次の認知機能です。
アメリカで開発された最初期のコンピューター、ENIAC(エニアック)
認知神経科学
認知神経科学(cognitive neuroscience)とは、心や行動の神経的な基盤を研究する領域です。
神経心理学も近いフィールドですが、こちらは脳の損傷が人間の精神にどのような影響を与えるかということが主なテーマになっていますね。
試験に出そうな神経心理学的検査(HDS-RやMMSE、ADASなど)は、次が参考になりました。
神経心理学的検査 - J-Stage
科学者−実験者モデル
科学者ー実践者モデル(the Scientist -Practitioner Model)は、「研究者か臨床家か」という二者択一ではなく、そのどちらもバランスよく習得することが重要だということを主張しています。
- 心理学の基礎分野の知識を習得すること
- 実習などを通じて臨床心理学の専門的な知識や技術を身に付けること
- 科学的な研究方法や統計的なデータの扱い方を学ぶこと
- 臨床心理のインターンシップを実施すること
- 実証研究に基づく博士号学位論文を義務付けること
など。
[PDF]実証的臨床心理学教育における科学者実践家モデル の役割
精神力動アプローチ
カウンセリングや心理療法には大別すると3つのアプローチがあるとされています。
- 精神力動アプローチ
- 認知行動アプローチ
- 人間性(体験的)アプローチ
ですね。
フロイトの精神分析に発する精神力動アプローチは、人間の心の構造やメカニズムを仮定して治療を試みます。
精神保健福祉士の過去問では、例えば丸ばつ問題で次のような問いが出題されていました。第16回(平成25年度) 精神保健福祉士国家試験 心理学理論と心理的支援
◾︎ 精神分析療法では、クライエントの自己洞察を深めるため、過去の外傷体験に関する暴露療法がよく用いられる。
まあ、こんな感じの問題なのでしょうね。
認知行動アプローチ
行動療法や認知療法などのアプローチです。行動療法は、古典的条件付けやオペラント条件付けなどの学習理論に基づいて、行動の修正を試みる方法です。
認知療法は、思考と行動、感情の関連を捉え、認知の歪みにを修正することを試みるアプローチです。
人間性アプローチ
ロジャーズのパーソンセンタードアプローチや、ジェンドリンのフォーカシング、パールズのゲシュタルトセラピーなどなど。
過去の体験よりも、「いまここ」での体験を重視し、人間のポジティブで成長を求める側面に焦点を当てます。
実存主義心理学やトランスパーソナル心理学、ポジティブ心理学などとも関連しています。
「ストレングス・アプローチ」(強み志向アプローチ)とも共通点があります。
社会構成主義
人間は誰でも自分が持っている知識や世界観の枠組みで物事を理解しようとしている、それは専門家も同じで、「客観的で正しい世界」がどこかにあるわけじゃない。現実というのは、各々の考え方や見方の相互作用によって社会的に構成されているのだ、というのが「社会構成主義」の考え方です。多分そんな感じ。
近代的な、モダンな考え方では、「世界には客観的な現実や真実がある」ということが前提です。また、表面的な世界の背後には、隠された(本当の)構造が存在しているということも仮定されています(深層心理学も同じパラダイムなんでしょうね)。
ところが、ポストモダンな考え方では、このような真実や客観性は担保されません。
M.ホワイトやD.エプストンは、家族療法にこの社会構成主義の視点を取り入れました。
精神保健福祉士の過去問に、次のような問題があるようです。
問題21 社会問題の捉え方に関する次の記述のうち, 構築主義的なアプローチとして, 正しいものを1つ選びなさい。
1 社会がどうあるべきかについては, 多くの人々に共有されている規範が存在するので, これに反するものが社会問題と認識される。
2 社会は統一されたシステムを成しているので, その目標達成にとってマイナスに働く事象は, 社会問題と認識される。
3 社会問題とは, 客観的に実在し誰の日にも明らかな現実として存在するものである。
4 社会問題とは, 専門家でなければ可視化できないような, 現代社会におけるリスクのことである。
5 社会問題とは, 自明なものとして存在するのではなく, 人々が主張することを通して認識される問題である。
正解はリンク先をご参照ください。
ナラティブアプローチ
社会構成主義に基づいたカウンセリングや医療などのアプローチの代表が「ナラティブアプローチ」と呼ばれるものです。「物語アプローチ」といった意味の言葉で、「現実は(どこかに客観的に存在するのではなく)人々の間で構成される」という立場を取ります。
「無知のアプローチ」(治療者があらかじめ何かの真実を知っているわけではない)や、「いま、ここ」における対話が重視されます。
同じく精神保健福祉士の過去問がありました。ナラティブ、は正解の選択肢ではないようですけど。