
問4 刺激と反応の間の媒介変数として習慣強度を設定し、行動を説明し た人物に該当するものを1 つ選べ。
① B. F. Skinner
② C. L. Hull
③ E. C. Tolman
④ E. R. Guthrie
⑤ J. B. Watson
正解は、
② C. L. Hull
詳細解説
C. L. Hull(クラーク・L・ハル)は、行動理論において**「習慣強度」**(habit strength)という概念を用いて、刺激(S)と反応(R)の関係を媒介する変数として行動を説明したことで知られています。ハルの理論は、学習のメカニズムを数理モデルで表現し、特に「S-R理論」として行動主義における刺激と反応の関係を体系化した点が特徴です。
1. C. L. Hullの理論の基礎
ハルの理論の中心には、**動因低減説(drive reduction theory)**があります。これは、生物の行動が「動因(drive)」によって駆動され、動因を低減させることが行動の強化につながるとする考え方です。この理論では、行動の強度(頻度や持続時間)は以下の要素に左右されるとされています:
- 動因の大きさ:生物がどれほどの欲求を感じているか。
- 習慣強度(habit strength):過去の経験や学習に基づく反応の強さ。
ここでいう「習慣強度」とは、特定の刺激に対してある反応を繰り返すことで、その反応の傾向が強化され、将来的に再びその刺激に出会った際に同じ反応をする可能性が高くなることを意味します。
2. 習慣強度と媒介変数の役割
ハルは、学習過程で「刺激(S)→反応(R)」の直接的な関係だけでなく、刺激と反応の間に存在する媒介変数を重視しました。習慣強度は、この媒介変数の一つとして、以下のように行動の予測に役立ちます。
- 繰り返しによる学習強化:特定の行動が繰り返されるほど、習慣強度が増大し、刺激に対する反応の確率が高まる。
- 動因との相互作用:動因が強いとき、習慣強度も強化されやすく、反応がより確実に生じる。
ハルの数理モデルでは、これらの関係を式で表現し、行動の予測に活用しました。彼の理論では**「反応ポテンシャル(reaction potential)」**という概念も導入され、これは習慣強度と動因の積として計算され、反応の発生確率を予測する数値として機能します。
3. 他の選択肢の検討
他の選択肢も学習理論に関連する有名な心理学者たちですが、習慣強度を媒介変数として刺激と反応を説明するのはC. L. Hullが特異的です。
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B. F. Skinner - スキナーはオペラント条件づけで知られ、強化と罰を通じて行動を形成するという考え方を提唱しました。彼は行動の発生において「刺激と反応」というよりは「行動とその結果(強化・罰)」の関係を重視していました。
 
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E. C. Tolman - トールマンはサイン・ゲシュタルト理論を提唱し、認知地図などの概念を通して、行動には目的があり、認知的なプロセスが関与するという考え方を主張しました。彼の理論はハルの行動主義とは異なり、媒介変数としての「認知マップ」や「期待」を重視しました。
 
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E. R. Guthrie - ガスリーは「一度で学習が形成される」という一回学習説を提唱しました。彼の理論では、特定の刺激と反応が一度結びつくことで学習が成立するとし、強化や動因を媒介変数とはみなしませんでした。
 
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J. B. Watson - ワトソンは行動主義の創始者で、特に古典的条件づけに焦点を当てました。彼は行動の研究において内的変数を極力排除し、直接観察できる行動のみを重視していたため、媒介変数を想定しない立場でした。
 
4. ハルの理論の意義と影響
C. L. Hullの行動理論は、学習のプロセスに数理モデルを適用するという点で心理学の歴史に大きな影響を与えました。特に、以下のような点で意義が挙げられます:
- 心理学における実証主義の推進:ハルの理論は、行動を数式で予測するという実証的アプローチを取り、心理学をより科学的な分野へと進展させました。
- 後の行動主義への影響:ハルの理論は後の行動主義の発展に寄与し、後にスキナーのオペラント条件づけ理論にも影響を与えました。また、動因低減説は、モチベーション研究においても応用されました。
- 認知心理学への移行のきっかけ:ハルの理論の限界が指摘されたことも、後に認知心理学の発展へとつながります。