
はじめに:令和7年版ブループリントの重要性
令和7年版 公認心理師試験出題基準・ブループリント(第8回公認心理師試験対応。)
公認心理師試験対策フラッシュカード
作成しました。どうぞご利用ください。
公認心理師試験とは
公認心理師試験は、公認心理師法第5条に基づき、「公認心理師として必要な知識及び技能」について行われる国家試験です 。この資格は、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といった多様な分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって業務を行う専門家を認定するものです 。公認心理師の業務には、心理に関する支援を要する者の心理状態の観察・分析、心理に関する相談・助言・指導、関係者への援助、心の健康に関する知識の普及教育・情報提供などが含まれます。
ブループリントとは何か、なぜ重要なのか
「ブループリント(公認心理師試験設計表)」とは、公認心理師試験の出題範囲とレベルを項目によって整理したものであり、試験委員が出題に際して準拠する基準です。その重要性は以下の点に集約されます。
- 出題範囲とレベルの明確化: ブループリントは、公認心理師試験で問われる知識と技能の到達度を確認するために、試験範囲を具体的な項目で示しています。これにより、受験者は学習すべき内容を明確に把握することができます。
- 試験委員が出題に際して準拠する基準: 試験委員は、公認心理師試験の妥当な内容、範囲、適切なレベルを確保するため、このブループリントに基づいて出題を行います。これは、試験の公平性と質の担保に不可欠な指針となります。
- 出題割合の指針: ブループリントには、各大項目ごとの出題割合が示されており、試験の設計表としての役割も果たします。これにより、心理職へのニーズが高まっている近年の状況や社会変化に伴う国民の心の健康の保持増進に必要な分野、頻度や緊急性の高い分野が優先的に出題されることになります。受験者はこの出題割合を参考に、効率的な学習計画を立てることが可能です。
令和7年版の変更点と注目ポイント
令和7年版のブループリントは、公認心理師試験出題基準・ブループリントとして、一般財団法人公認心理師試験研修センターから発行されています。
ブループリントには、各大項目とそれに対応する出題割合が明記されています。例えば、「公認心理師としての職責の自覚」「問題解決能力と生涯学習」「多職種連携・地域連携」は合わせて約6%、「心理学・臨床心理学の全体像」は約3%、「心理学における研究」は約2%、「心理学に関する実験」は約2%といった具体的な数値が示されています。
特に注目すべきは、「心理状態の観察及び結果の分析」が約8%、「心理に関する支援(相談、助言、指導その他の援助)」が約9%、「健康・医療に関する心理学」が約9%、「福祉に関する心理学」が約9%、「教育に関する心理学」が約9%と、公認心理師の主要業務に関連する項目が高い割合を占めている点です。これは、実践的な知識と技能が重視されていることを示唆しています。
また、ブループリントでは、各項目の具体的な内容を示す「小項目」が「概念及び用語の例」として記載されています。ただし、出題はこの記載事項に限定されず、法律、政省令等に規定される事項や、厚生労働白書などの公刊物に記載されている事項からも出題される可能性があります。したがって、受験者はブループリントの網羅性を理解しつつ、幅広い関連知識を習得することが重要です。
医学用語は日本医学会医学用語辞典Web版、心理学に関する用語は複数の用語辞典で共通していることを考慮して定められているため、専門用語の正確な理解が求められます。
第1章:ブループリントの基本を理解する
1.1 公認心理師試験の概要
- 公認心理師法の位置づけ: 公認心理師試験は、公認心理師法第5条に基づいて実施される国家試験です。この法律は、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といった幅広い分野において、心理学の専門知識と技術を用いて業務を行う公認心理師の資格を定めるものです。
- 公認心理師の業務内容(4つの業務): 公認心理師法第2条では、公認心理師の業務が以下の4つの項目で示されています。
- 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
- 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
1.2 ブループリントの構成と利用法
ブループリントは、公認心理師試験の学習指針として非常に重要な役割を果たします。その構成と利用法を理解することで、効率的かつ効果的な学習が可能になります。
- 大項目、中項目、小項目の関係性: ブループリントは、試験の出題内容を階層的に整理しています。
- 大項目: 「公認心理師カリキュラム等検討会」の報告書(平成29年5月31日)に記載された到達目標の項目を指します。一部については、内容を明確にする観点から改変が加えられています。
- 中項目: 大項目と同様に、「公認心理師カリキュラム等検討会」の報告書に記載された到達目標の下位項目です。こちらも、内容を明確にするために一部改変されています。
- 小項目: 中項目の内容に属する概念や用語の具体例が記載されています。ただし、出題はこれらの記載事項に限定されるものではなく、法律や政省令に規定される事項、厚生労働白書などの公刊物からも出題される可能性があります。
- 出題割合の考え方: ブループリントでは、各大項目ごとに出題割合が規定されています。これは、公認心理師試験の設計表として機能し、心理職に対するニーズの高まりや社会変化に伴う国民の心の健康の保持増進に必要な分野、頻度や緊急性の高い分野から優先的に出題されることを示しています。出題割合の記載がない中項目以下の事項については、試験委員会の判断で出題されることになっています。
- 医学用語・心理学用語の扱い: ブループリントで使用されている専門用語には明確な基準が設けられています。
- 医学用語: 日本医学会医学用語辞典Web版の内容を考慮して定められています。
- 心理学に関する用語: 複数の用語辞典で共通していることが考慮され、選定されています。 この基準により、用語の解釈に一貫性が保たれています。
- 括弧は、一部を除き、以下のルールに基づいて使用した。試験委員の判断で、括弧内・外の語を単独又は併記して使用できる。
- ( ): 直前の語の説明又は例示
- 【例】空間(運動、奥行き)の知覚
- < >: 直前の語と同義
- 【例】ソーシャル・スキルズ・トレーニング <SST>
- [ ]: ( )やく > の中に ( ) やく >がある場合の大きな括り
- 【例】生物心理社会モデル [biopsychosocial model<BPS>]
第2章:大項目別徹底解説と学習アドバイス
ここでは、ブループリントの大項目ごとに詳細な解説と学習のポイントを記述します。各項目には、ブループリントに記載されている小項目(概念及び用語の例)を網羅的に含めます。
2.1 公認心理師としての職責の自覚 (約6%)
(1) 公認心理師の役割
公認心理師としての役割を理解する上で、その基盤となるのが「公認心理師法」と、その中で定められている「公認心理師の定義」です。これらは、公認心理師がどのような専門職であり、社会の中でどのような役割を果たすべきかを明確にしています。
- 公認心理師法:公認心理師法は、2017年9月15日に施行された法律で、心理職初の国家資格である公認心理師を定めるものです。この法律は、国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的としています。公認心理師は、この法律に基づいて資格が付与され、その業務を行うことが義務付けられています。公認心理師法は、公認心理師の資格取得要件、業務内容、秘密保持義務、信用失墜行為の禁止といった倫理規定などを定めており、専門職としての責任と役割を法的に位置づけています。
- 公認心理師の定義:公認心理師法第2条において、公認心理師は「保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる業務を行うことを業とする者」と定義されています。この定義には、公認心理師が専門的知識と技術を基盤とし、多岐にわたる分野で活動する専門家であることが示されています。特に、その業務内容は以下の4つが挙げられています:
- 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
- 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
- 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
これらの定義と業務内容は、公認心理師が単に個人の心理的問題に対応するだけでなく、その関係者や地域全体、さらには社会全体の心の健康増進に貢献する包括的な役割を担っていることを示しています。したがって、公認心理師としての職責の自覚とは、これらの法的定義と業務内容を深く理解し、常に倫理的かつ専門的な視点をもって業務に臨むことを意味します。
(2) 公認心理師の法的義務及び倫理
公認心理師は、その専門性と国民の心の健康に深く関わる職務の性質上、法的な義務と高い倫理観が求められます。これは、公認心理師法によって明確に規定されており、専門職としての信頼性を維持し、支援を要する者を守るために不可欠な要素です。
- 信用失墜行為の禁止: 公認心理師法第40条は、「公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない」と定めています。これは、公認心理師の品位を保ち、社会からの信頼を失わないようにするための重要な義務です。個人の行為が公認心理師全体の信用に影響を及ぼす可能性があるため、常に職業倫理に基づいた行動が求められます。
- 秘密保持義務: 公認心理師法第41条では、「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」と規定されています。これは、支援を要する者が安心して心理に関する相談や支援を受けられるよう、そのプライバシーを厳重に保護するための最も基本的な義務です。得られた情報は、本人の同意がある場合や法令に基づく場合を除き、外部に開示することは固く禁じられています。
- 関係者等との連携等: 公認心理師法第42条では、「公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等の分野の関係者との連携を保ち、その業務が円滑に行われるよう努めなければならない」とされています。これは、公認心理師が単独で問題を解決するのではなく、多職種と連携し、協力体制を築くことの重要性を示しています。支援を要する者の状況は複雑であることが多く、多様な専門職との連携を通じて、より包括的かつ効果的な支援を提供することが期待されます。
- 資質向上の責務: 公認心理師法第43条は、「公認心理師は、国民の心の健康の保持増進に寄与するため、その資質の向上を図るよう努めなければならない」と規定しています。心理学や関連分野の知識は日々進歩しており、公認心理師には常に最新の知識や技術を学び、自己の専門性を高める努力が求められます。研修会への参加、学会での発表、スーパービジョンを受けることなどが、この責務を果たすための具体的な方法として挙げられます。
- 倫理的ジレンマ: 倫理的ジレンマとは、公認心理師が業務を行う上で、複数の倫理原則や価値観が衝突し、いずれかの選択肢を選んでも何らかの倫理的問題が生じる状況を指します。例えば、秘密保持義務と支援を要する者の生命の安全確保という二つの倫理原則が衝突する場合などがこれにあたります。このような状況では、単に規則に従うだけでなく、専門職としての高い倫理的判断力と、多角的な視点からの検討が求められます。
- 多重関係: 多重関係とは、公認心理師が支援を要する者との間で、専門的な関係以外に、友人、ビジネスパートナー、親族といった複数の関係を持つことを指します。このような関係は、公認心理師の客観的な判断を妨げたり、支援を要する者の利益を損なったりする可能性があり、倫理的に問題視されます。例えば、支援を要する者が友人の紹介であったり、経済的な利害関係が発生するような状況は避けるべきです。多重関係は、信頼関係の歪みや搾取のリスクを高めるため、極力避けるべきとされています。
(3) 要支援者等の安全の確保と要支援者の視点
公認心理師の重要な職責の一つに、心理に関する支援を要する者(以下「要支援者」という)およびその関係者の安全を確保し、常に要支援者の視点に立って支援を行うことがあります。これは、心理的な問題が深刻化した場合に、生命や身体の危険が生じる可能性があるため、特に重視される側面です。
- リスクアセスメント: リスクアセスメントとは、要支援者の抱える問題が、本人や他者の安全にどのような危険を及ぼす可能性があるかを評価することです。これには、自殺や自傷行為のリスク、他害行為のリスク、虐待を受けている、または虐待を行っているリスクなどが含まれます。アセスメントの過程では、過去の行動、現在の心理状態、周囲の環境、利用可能なサポート資源などを総合的に評価し、危険性の程度を判断します。適切なリスクアセスメントを行うことで、早期に危険を察知し、必要な介入へと繋げることができます。
- 危機介入: 危機介入は、要支援者が深刻な心理的危機に直面し、その通常の対処能力を超えている状況において、迅速かつ集中的に行われる支援です。例えば、自殺企図後、重度のパニック発作、大きな精神的ショックを受けた直後などがこれにあたります。危機介入の目的は、まず要支援者の安全を確保し、混乱した心理状態を安定させ、現状の危機を乗り越えるための具体的な援助を提供することです属する。その際には、安全な環境の確保、感情の受容と共感、情報収集、具体的な問題解決策の検討、適切な専門機関への連携などが含まれます。
- 自殺予防: 自殺予防は、要支援者が自殺の危機にある場合に、その命を守るための支援活動です。これには、自殺念慮の有無や具体的な計画の確認、自殺のリスク要因(精神疾患、過去の自殺企図、社会的孤立など)と保護要因(支援者の存在、生きがい、希望など)の評価が含まれます。公認心理師は、要支援者の話を傾聴し、自殺念慮を真剣に受け止め、希望の兆しを見つける手助けをします。また、家族や医療機関、地域の関係機関と連携し、継続的な支援体制を構築することが不可欠です。
- 虐待への対応: 虐待は、身体的、心理的、性的、経済的な暴力やネグレクトなど多岐にわたり、要支援者の心身に深刻な影響を及ぼします。公認心理師は、虐待の兆候を察知した場合、その事実確認に努めるとともに、要支援者の安全を最優先に考えます。児童虐待の場合は児童相談所への通告、高齢者虐待の場合は市町村の高齢者虐待対応窓口への通報など、関係法令に基づいた適切な対応が求められます。虐待からの回復支援では、トラウマケアや自己肯定感の回復に向けた心理的支援、安全な環境の確保、社会資源への接続などが含まれます。
(4) 情報の適切な取扱い
公認心理師は、その業務の性質上、要支援者の非常に個人的かつ機微な情報を取り扱います。そのため、情報の適切な取扱いは、支援の質と要支援者からの信頼を確保するために極めて重要です。
- 秘密保持義務: 公認心理師には、その業務に関して知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らしてはならないという法的義務があります。これは公認心理師でなくなった後も同様に課せられます。この義務は、要支援者が安心して心理的な問題について相談できる環境を保障するために不可欠です。
- 個人情報の保護: 秘密保持義務と関連して、要支援者の個人情報を適切に管理し保護することは公認心理師の重要な責務です。個人情報保護法などの法令に基づき、氏名、住所、連絡先、心理状態、支援内容など、個人を特定しうる情報の収集、利用、保管、提供には厳格な配慮が求められます。
- 専門家間の情報共有: 支援を要する者へのより質の高い支援を提供するためには、多職種連携が不可欠であり、その一環として専門家間で情報共有が必要となる場合があります。しかし、情報共有は要支援者の同意を原則とし、必要最小限の範囲で行われるべきです。共有する情報の範囲や目的、共有相手について、事前に要支援者へ十分に説明し、理解と同意を得ることが重要です。
- 業務に関する記録の適切な保管: 公認心理師は、支援の過程や内容を正確に記録し、その記録を適切に保管する義務があります。記録は、支援の継続性や評価、そして万一の際の検証に不可欠な資料となります。記録の保管方法(物理的・電子的)、保管期間、廃棄方法については、個人情報保護の観点から厳重な管理が求められます。
- インフォームド・コンセント: インフォームド・コンセントとは、支援を開始する前や特定の介入を行う際に、要支援者に対して、支援の目的、内容、方法、予測される効果、リスク、代替案、秘密保持の範囲、費用などについて十分に説明し、その上で要支援者が自らの意思で同意を得ることです。これは、要支援者の自己決定権を尊重し、倫理的な支援を行う上での基本原則となります。
- プライバシー保護: 要支援者のプライバシーは、その人の意思に基づき、個人的な情報や領域が不当に侵害されない権利です。公認心理師は、秘密保持義務や個人情報保護の徹底を通じて、要支援者のプライバシーを最大限に尊重し、保護するよう努めなければなりません。これには、支援を行う場所や方法、情報を取り扱う際の環境設定など、様々な側面での配慮が含まれます。
(5) 保健医療、福祉、教育その他の分野における公認心理師の具体的な業務
公認心理師は、その専門的知識と技術を活かし、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といった幅広い分野で多岐にわたる業務を行います。以下にその主要な業務内容を詳述します。
- 心理検査: 要支援者の心理状態や特性を客観的に把握するために、様々な心理検査を実施します。これには、知能検査、パーソナリティ検査、発達検査、神経心理学的検査などが含まれます。検査結果を分析し、要支援者の状況理解を深め、適切な支援計画の立案に役立てます。
- 心理療法: 要支援者の心の健康問題の解決や、精神的な成長を促すために、心理学的な理論と技法に基づいた介入を行います。心理療法には、認知行動療法、精神分析的心理療法、人間性心理学的アプローチ、家族療法、集団療法など様々な種類があり、要支援者の状態やニーズに合わせて選択・適用されます。
- チーム医療: 医療現場において、医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど、多様な専門職が連携して患者の治療とケアにあたる「チーム医療」の一員として参画します。公認心理師は、患者の心理的側面からのアセスメントやケア、家族への支援などを通じて、チーム全体の治療効果の向上に貢献します。
- 多職種連携: 医療分野に限定されず、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といったあらゆる分野において、それぞれの専門職(例:ソーシャルワーカー、教師、弁護士、産業医など)と密接に連携します。要支援者の問題を多角的に捉え、各専門職の知見や資源を統合することで、より包括的で質の高い支援を実現します。
- カウンセリング: 要支援者の抱える悩みや問題に対し、傾聴を基本とし、共感的理解と受容の姿勢をもって向き合います。要支援者自身が問題解決能力を高め、自己理解を深めることをサポートし、具体的な助言や指導を通じて、心の健康の回復や維持、成長を促します。カウンセリングは、心理療法と重なる部分もありますが、より広範な悩みや問題に対応します。
これらの業務を通じて、公認心理師は個人の心の健康の支援にとどまらず、社会全体の心の健康の保持増進に貢献するという重要な役割を担っています。
2.2 問題解決能力と生涯学習 (約6%)
(1) 自己課題発見と解決能力
公認心理師にとって、「問題解決能力」は、支援を要する個人や集団が抱える課題に対応する上で不可欠な資質です。この能力は、単に目の前の問題を解決するだけでなく、自身の専門性や業務における課題を自ら発見し、解決へと導く力も含まれます。その根幹をなすのが「心理職のコンピテンシー」の理解と習得です。
- 心理職のコンピテンシー: コンピテンシーとは、特定の職務や状況において効果的・高業績に繋がる行動特性や能力の集合体を指します。心理職、特に公認心理師においては、単なる知識の有無だけでなく、その知識をいかに実践の場で応用し、効果的な介入に繋げられるかが問われます。心理職のコンピテンシーには、以下のような多岐にわたる能力が含まれます。
- アセスメント能力: 要支援者の心理状態、問題の背景、環境要因などを多角的に評価し、的確な情報収集と分析を行う能力です。
- 介入・支援計画立案能力: アセスメントに基づき、要支援者のニーズに合致した具体的な支援目標を設定し、効果的な介入方法を計画する能力です。
- カウンセリング・心理療法実施能力: 心理学的な理論と技法を用いて、要支援者との間に信頼関係を築き、心理的支援を実践する能力です。
- 倫理的判断能力: 倫理綱領や法的義務に基づき、複雑な状況下で適切な倫理的判断を下す能力です。秘密保持、多重関係の回避、インフォームド・コンセントの徹底などが含まれます。
- 多職種連携・協働能力: 医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働など、多様な分野の専門職と円滑に連携し、協働して支援を進める能力です。
- 自己認識・自己管理能力: 自身の専門性、強み、限界を客観的に把握し、ストレス管理や感情調整を行いながら、専門職としての心身の健康を維持する能力です。
- 研究・科学的思考能力: 最新の研究知見を取り入れ、自身の実践を客観的に評価し、科学的根拠に基づいた支援を行う能力です。
- 教育・啓発能力: 心の健康に関する知識を、要支援者や関係者、一般の人々に分かりやすく伝え、普及する能力です。
これらのコンピテンシーは、公認心理師が専門職として成長し、多様な場面で効果的に機能するための基盤となります。自己課題発見とは、これらのコンピテンシーの中で自身がさらに向上させるべき点を見つけ出すことであり、解決能力とは、その課題に対し自ら学習や訓練を行い、克服していくプロセスを指します。
(2) 生涯学習への準備
公認心理師は、取得した資格に満足することなく、専門職として常に成長し続けることが求められます。そのためには、「生涯学習」の視点を持ち、自身の専門性を継続的に高めていく準備が不可欠です。この準備を支える概念として、「心理職の成長モデル」と「スーパービジョン」があります。
- 心理職の成長モデル: 心理職の成長モデルは、専門家としての発達段階や、その過程で経験する課題と成長の促進要因を理論化したものです。例えば、初心者から熟練者へと至る過程で、知識の習得、技術の洗練、倫理的判断力の向上、自己認識の深化などが段階的に進むと考えられます。このモデルを理解することで、公認心理師は自身の現在地を把握し、次のステップへと進むための具体的な目標を設定することができます。また、成長の過程で直面する困難を予測し、それを乗り越えるための戦略を立てる上での指針となります。
- スーパービジョン: スーパービジョンは、経験豊富な心理専門職(スーパーバイザー)が、若手や経験の浅い心理職(スーパーバイジー)に対して、その業務遂行能力の向上を目的として行う指導・助言・評価のプロセスです。スーパービジョンは、以下の三つの機能を持つとされています。
学習アドバイス: 自己評価と継続的な学習の重要性を理解することが求められます。自身の専門職としての成長を意識し、心理職の成長モデルを参照しながら、スーパービジョンを積極的に活用する姿勢が重要です。理論的な知識だけでなく、実践を通して得られる経験をどのように学びへと繋げるかを常に考えましょう。
2.3 多職種連携・地域連携 (約6%)
多職種連携・地域連携の意義及びチームにおける公認心理師の役割
現代社会の複雑な課題に対応するため、公認心理師は単独で支援を行うのではなく、多様な専門職や地域資源と協力する「多職種連携・地域連携」が不可欠です。これにより、支援を要する個人や家族に対して、より包括的かつ継続的な支援を提供することが可能になります。公認心理師は、この連携の中で重要な役割を担います。
- 保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働との連携:
- 保健医療: 医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師などと連携し、患者の心理的側面からのアセスメント、精神疾患の理解、治療への心理的サポート、疾患に伴う心理的問題への介入を行います。チーム医療の一員として、患者の全体的な回復を目指します。
- 福祉: ソーシャルワーカー、介護支援専門員などと連携し、障害者、高齢者、児童などの生活支援、社会参加の促進、権利擁護、虐待対応などに取り組みます。生活困窮、孤立、ひきこもりといった問題に対し、心理的側面からサポートを提供し、社会資源への接続を支援します。
- 教育: 教師、スクールソーシャルワーカー、養護教諭などと連携し、いじめ、不登校、発達障害などの児童生徒の心理的課題に対応します。教職員へのコンサルテーション、保護者への支援、心の健康教育の推進を通じて、子どもたちの健全な発達を支援します。
- 司法・犯罪: 警察官、検察官、弁護士、保護観察官、刑務官などと連携し、非行少年や犯罪者の心理的アセスメント、更生支援、被害者支援などを行います。司法面接への協力や、精神鑑定時の心理学的情報提供など、専門的な知見を提供します。
- 産業・労働: 産業医、保健師、人事担当者などと連携し、職場のメンタルヘルス対策、ハラスメント対応、休職・復職支援、キャリア支援などを行います。ストレスチェック制度の活用や、働き方改革への提言など、働く人々の心の健康と生産性の向上に貢献します。
- 家族との連携: 要支援者の回復や生活の質の向上には、家族の理解と協力が不可欠です。公認心理師は、家族の抱える心理的負担や葛藤に寄り添い、家族カウンセリングや心理教育を通じて、家族関係の改善や、より良いサポート体制の構築を支援します。
- 自己責任と自分の限界: 多職種連携を進める上で、公認心理師は自身の専門性と責任範囲を明確に認識し、過度な介入や専門外の業務には踏み込まないことが重要です。自身の能力や経験の限界を理解し、必要に応じて他の専門職に適切に繋ぐ「リファーラル」を行う責任があります。これにより、質の高い支援が維持され、要支援者への不利益を避けることができます。
- 支援に関わる専門職と組織: 多職種連携は、個々の専門職だけでなく、それぞれの専門職が所属する組織間の連携も含まれます。病院、福祉施設、学校、相談機関、企業、行政機関などがそれぞれの役割を果たしながら、共通の目標に向かって協力する体制を築くことが求められます。公認心理師は、組織間のスムーズな情報共有や協働を促進する役割も担います。
- アドバンス・ケア・プランニング <ACP>: アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)は、将来の医療やケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有するプロセスのことです。公認心理師は、要支援者が自身の価値観や希望を明確にし、意思決定を行う際の心理的サポートを提供します。特に終末期や重篤な疾患を持つ場合に、不安や葛藤を軽減し、尊厳ある意思決定を支える上で重要な役割を果たします。
学習アドバイス: 各分野における公認心理師の具体的な役割を理解するために、それぞれの専門職がどのような業務を行っているかを把握し、公認心理師がどのように連携していくべきかを具体例を通して学ぶことが重要です。また、自身の専門性の範囲と限界を常に意識する姿勢を養いましょう。
2.4 心理学・臨床心理学の全体像 (約3%)
この項目では、心理学と臨床心理学がどのように発展してきたのか、そして人の心の基本的な仕組みがどうなっているのかを概観します。
(1) 心理学・臨床心理学の成り立ち
心理学は、心の働きや行動を科学的に探求する学問であり、その歴史の中で様々な学派が生まれてきました。臨床心理学は、その心理学の知識を心の健康問題の解決に応用する分野です。
- 要素主義、ゲシュタルト心理学、精神分析学、行動主義、新行動主義:
- 要素主義: 心の働きを感覚や感情などの基本的な要素に分解して理解しようとするアプローチです。W.ヴントの内観法などが代表的です。
- ゲシュタルト心理学: 心や行動は個々の要素の寄せ集めではなく、全体として意味を持つまとまり(ゲシュタルト)として捉えるべきだと主張しました。知覚における「全体は部分の総和以上である」という考え方が有名です。
- 精神分析学: S.フロイトによって創始され、無意識の心の働きや幼少期の経験が、個人の性格形成や精神疾患に大きな影響を与えると考えました。夢分析や自由連想法などが用いられます。
- 行動主義: J.B.ワトソンらが提唱し、心理学の対象を観察可能な行動に限定し、刺激と反応の関係性を重視しました。学習理論の発展に大きな影響を与えました。
- 新行動主義: 行動主義の考え方を基礎としつつ、認知的な要因(例:目標、期待)を行動の理解に取り入れようとした点で、純粋な行動主義から発展しました。
- 認知心理学、認知神経科学:
- 認知心理学: 情報処理アプローチとも呼ばれ、人間の心をコンピュータのように情報を処理するシステムとして捉え、知覚、記憶、思考、言語などの認知過程を研究します。
- 認知神経科学: 認知心理学と神経科学が融合した分野で、認知機能の神経基盤、すなわち脳のどの部位がどのように認知活動に関わっているかを、脳機能イメージング(fMRIなど)や脳損傷研究などを通じて探求します。
- 科学者-実践者モデル <scientist-practitioner model>: ブループリントに示されているこのモデルは、臨床心理学の専門家が、単に実践を行うだけでなく、科学者としての研究能力も兼ね備えるべきだという考え方です。すなわち、最新の研究知見を実践に応用し、同時に自らの実践から得られた知見を研究へと還元するという、科学と実践の統合を重視します。
- 生物心理社会モデル [biopsychosocial model<BPS>]: 人間の健康や疾患を理解する上で、生物学的要因(遺伝、脳機能など)、心理学的要因(思考、感情、行動など)、社会文化的要因(家族関係、社会的支援、文化など)の三側面が相互に影響し合っていると捉える包括的なモデルです。臨床現場でのアセスメントや介入において、多角的な視点を持つことの重要性を示します。
- 心理力動アプローチ、認知行動アプローチ、人間性アプローチ:
- 心理力動アプローチ: 精神分析学の理論を基礎とし、無意識の葛藤や過去の対人関係パターンが現在の心の状態に影響を与えていると考え、それらを探索することで心の変容を目指します。
- 認知行動アプローチ: 認知行動療法に代表されるアプローチで、不適応な思考パターン(認知)や行動が問題を生み出していると考え、それらを修正することで問題の解決を図ります。
- 人間性アプローチ: ロジャーズの来談者中心療法などが代表的で、人間の自己成長力や自己実現傾向を重視します。受容、共感、一致といったカウンセラーの態度を通じて、クライエント自身の成長を促します。
- ナラティブ・アプローチ、社会構成主義:
(2) 人の心の基本的な仕組みとその働き
心理学は、人間の心の様々な側面を研究対象とします。
- 感覚、知覚:
- 感覚: 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など、五感を通して外界からの情報を受け取る基本的なプロセスです。
- 知覚: 受け取った感覚情報を脳が解釈し、意味のあるものとして認識するプロセスです。例えば、光の刺激を「りんごの赤」として認識するなど、感覚情報に意味を与えます。
- 記憶、学習、言語、思考:
- 記憶: 情報を符号化し、貯蔵し、必要に応じて取り出す心の働きです。短期記憶、長期記憶、手続き記憶など多様な種類があります。
- 学習: 経験を通して知識やスキル、行動が変化していくプロセスです。古典的条件づけやオペラント条件づけなどがあります。
- 言語: コミュニケーションのための記号システムであり、思考や認識にも深く関わります。言語の理解や産出のメカニズムが研究対象です。
- 思考: 推論、問題解決、意思決定など、情報を操作して結論を導き出したり、新しいアイデアを生み出したりする高次の認知機能です。
- 動機づけ、感情、情動:
- 動機づけ: 行動を方向づけ、持続させる内的な要因です。欲求や目標達成への意欲などが含まれます。
- 感情: 喜び、悲しみ、怒り、恐れなど、特定の出来事に対する主観的な体験であり、身体的な反応や行動の傾向を伴います。
- 情動: 感情よりも生理的反応が強く、より短時間で生じる、強い感情の表出を指すことがあります。
- 個人差: 人間がそれぞれ持つ個性や特性の違いを指します。知能、パーソナリティ、気質など、様々な側面での個人差が研究対象となります。
- 社会行動: 個人が他者との相互作用の中で示す行動を指します。対人関係、集団行動、社会的影響などが含まれます。
- 発達: 生涯にわたる心身の変化と成長のプロセスを指します。乳幼児期から老年期まで、各発達段階における認知、感情、社会性の変化が研究されます。
学習アドバイス: 心理学の主要な学派と思考の流れを時系列で理解し、それぞれの学派が心の何を重視し、どのように研究したのかを明確にしましょう。また、心の基本的な働きについては、用語の定義だけでなく、それが日常生活のどのような現象と関連しているかを具体的にイメージしながら理解を深めることが重要です。
2.5 心理学における研究 (約2%)
心理学は、人間の心と行動を科学的に理解するための学問であり、その探求には厳密な研究手法とデータ分析が不可欠です。この項目では、心理学研究の基本的な側面を概観します。
(1) 心理学における実証的研究法
心理学研究は、客観的なデータに基づき、仮説を検証する実証的なアプローチを採ります。
- 心理学における研究倫理: 心理学研究では、参加者の権利と福祉を最優先に考える研究倫理が非常に重要です。これには、インフォームド・コンセント(研究参加の同意を事前に得る)、プライバシーの保護、情報の匿名化・機密保持、研究参加の自由(いつでも撤回可能)、デブリーフィング(研究終了後に研究の目的などを説明する)などが含まれます。倫理規定に反する研究は許されません。
- 実験法、調査法、観察法、検査法、面接法:
- 実験法: 研究者が特定の要因(独立変数)を操作し、それが別の要因(従属変数)にどのような影響を与えるかを、他の要因を統制しながら調べる方法です。因果関係の特定に適しています。
- 調査法: 質問紙やアンケートを用いて、多数の対象者から意識、意見、態度などのデータを収集する方法です。大規模な集団の傾向を把握するのに適しています。
- 観察法: 対象の行動を直接的、あるいは間接的に観察し、データを収集する方法です。自然な行動をありのままに捉えることができ、行動の文脈を理解するのに役立ちます。
- 検査法: 標準化された心理検査(知能検査、パーソナリティ検査など)を用いて、個人の心理的特性を測定する方法です。客観的な数値データを得ることができます。
- 面接法: 研究者が対象者と直接対話し、情報を収集する方法です。構造化面接、半構造化面接、非構造化面接などがあり、対象者の主観的な経験や深い感情を探るのに適しています。
- 実践的研究法: 心理学の研究は、純粋な理論的探求だけでなく、実際の社会や臨床現場における問題解決に直接役立つ「実践的研究」も含まれます。これは、特定の介入プログラムの効果検証や、現場の課題を解決するためのデータ収集と分析など、応用的な側面を持つ研究を指します。
(2) 心理学で用いられる統計手法
心理学で収集されたデータは、統計手法を用いて分析され、仮説の検証や意味の解釈が行われます。
- 分散分析、因子分析、重回帰分析、構造方程式モデリング、多変量解析:
- 分散分析 (ANOVA): 3つ以上の平均値の間に統計的に有意な差があるかを検定する手法です。
- 因子分析: 多数の変数の中に潜在する共通の因子(構成概念)を見つけ出し、データの構造を単純化する手法です。
- 重回帰分析: 複数の独立変数を用いて、一つの従属変数を予測する統計手法です。
- 構造方程式モデリング (SEM): 観測されたデータから、複数の潜在変数間の複雑な因果関係や相関関係を同時に分析する多変量解析の手法です。
- 多変量解析: 複数の変数を同時に分析する統計手法の総称で、上記の因子分析や重回帰分析、SEMなども含まれます。
- テスト理論、メタ分析:
- テスト理論: 心理検査の信頼性や妥当性を科学的に評価するための理論です。古典的テスト理論や項目反応理論などがあります。
- メタ分析: 複数の先行研究の結果を統計的に統合し、より強力な結論を導き出す研究手法です。特定の介入の効果量を客観的に評価する際などに用いられます。
(3) 統計に関する基礎知識
統計手法を適切に用いるためには、基本的な統計概念の理解が不可欠です。
- 尺度水準、度数分布、代表値、散布度:
- 尺度水準: データがどのような性質を持つかを示す分類です。名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度の4種類があります。
- 度数分布: データが各値または各区間にどれくらいの頻度で出現するかを示した分布です。ヒストグラムなどで視覚化されます。
- 代表値: データの中心的な傾向を示す値です。平均値、中央値、最頻値などがあります。
- 散布度: データのばらつきの程度を示す値です。範囲、分散、標準偏差などがあります。
- 相関係数: 二つの変数間の関係の強さと方向を示す指標です。-1から+1までの値を取り、正の相関、負の相関、無相関があります。
- 仮説検定、点推定、区間推定、ノンパラメトリック検定:
- 仮説検定: 統計的な仮説(例:2つの集団の間に差はない)を立て、収集したデータに基づいてその仮説を棄却するかどうかを判断するプロセスです。
- 点推定: 標本から得られたデータを用いて、母集団の未知のパラメータ(例:平均値)を単一の値で推定することです。
- 区間推定: 標本から得られたデータを用いて、母集団の未知のパラメータが特定の範囲内(信頼区間)に存在する確率を推定することです。
- ノンパラメトリック検定: 母集団の分布に関する特定の仮定(例:正規分布)を必要としない統計的検定手法です。データが正規分布に従わない場合や、順序尺度・名義尺度のデータに用いられます。
- 確率と確率分布、標本分布:
- 確率: ある事象が起こる可能性の度合いを示す数値です。
- 確率分布: 変数が取りうる値と、それぞれの値をとる確率を示したものです。正規分布や二項分布などがあります。
- 標本分布: 母集団から複数の標本を抽出し、それぞれの標本から計算された統計量(例:標本平均)がどのような分布をするかを示したものです。
学習アドバイス: 研究法と統計は、心理学の理論を理解し、実践に活かすための土台となる重要な分野です。苦手意識を持つ人が多いですが、それぞれの用語の定義と、それがどのような状況で使われるのかという「適用」を理解することが重要です。具体的な研究事例やデータ分析の例に触れることで、より実践的な理解を深めることができます。
2.6 心理学に関する実験 (約2%)
心理学における実験は、特定の要因(変数)間の因果関係を解明するために、厳密な統制の下で行われる研究方法です。そのプロセスは、計画から報告に至るまで、いくつかの重要な段階に分かれます。
(1) 実験計画の立案
実験の成功は、その計画の質に大きく左右されます。綿密な計画が、信頼性と妥当性の高い結果を得るための基盤となります。
- 文献研究、リサーチ・クエスチョン、仮説、目的、手続:
- 文献研究: 実験を行う前に、関連する先行研究を幅広く調査します。これにより、研究の空白領域を見つけたり、既存の理論や知見を深めたりするための基礎知識を習得します。
- リサーチ・クエスチョン(研究疑問): 文献研究を通じて、何を明らかにしたいのかを具体的な疑問の形で明確にします。これは、実験の方向性を決定する上で最も重要な出発点となります。
- 仮説: リサーチ・クエスチョンに対する暫定的な答えであり、実験によって検証される具体的な予測です。一般的に、「もしXならばYである」という形式で記述されます。
- 目的: 実験を通じて何を達成したいのか、どのような知見を得たいのかを明確にします。仮説と密接に関連し、実験全体の方向性を示します。
- 手続: 実験がどのように実施されるかを詳細に記述したものです。これには、実験のフェーズ、タスクの実施方法、独立変数と従属変数の定義、統制の方法などが含まれ、他の研究者が同じ実験を再現できるように具体的に記述されます。
- 実験参加者:
- 実験に参加する対象者をどのように選定するか、その人数、属性(年齢、性別など)、倫理的な配慮(インフォームド・コンセントの取得、プライバシー保護)などを計画します。無作為抽出やランダム割り当てといった手法が用いられることもあります。
- 刺激、材料、装置:
- 刺激: 実験において操作される変数(独立変数)として、参加者に提示される情報や状況を指します。例えば、特定の音、画像、文章、課題などが刺激となり得ます。
- 材料: 実験で使用する物品やデータシート、質問紙などを指します。これらは、刺激の提示やデータの記録に必要なものです。
- 装置: 実験の実施に必要な機器や環境を指します。例えば、反応時間を測定するためのコンピュータ、音響設備、特定の物理的環境を再現するための装置などが含まれます。
(2) 実験データの収集とデータ処理
計画に基づきデータを収集し、分析可能な形に整理します。
- 実験法、調査法、観察法、検査法、面接法: これらの方法は、データの収集手段として実験計画の一部に組み込まれることがあります。実験の文脈では、従属変数を測定するためにこれらの手法が用いられます。例えば、実験操作後の心理状態を質問紙(調査法)で測ったり、行動の変化を観察法で記録したりします。
- データ解析: 収集された生データを、統計的手法を用いて分析可能な形式に変換し、整理する過程です。これには、データの入力、クリーニング(異常値の除去など)、集計などが含まれます。
(3) 実験結果の解釈と報告書の作成
データ分析の結果を解釈し、その知見を学術的に報告することで、研究のサイクルが完結します。
- 結果、考察:
- 結果: データ解析によって得られた統計的な事実を客観的に記述する部分です。図表などを活用し、簡潔かつ明確に提示されます。ここでは、データが何を語っているかのみを述べ、解釈は含めません。
- 考察: 得られた結果が、当初立てた仮説を支持するかどうかを論じ、その意味合いや先行研究との関連性、研究の限界、今後の課題などを多角的に検討する部分です。
- 引用方法と引用文献:
- 研究報告書では、先行研究や引用した文献の内容を明確にするために、適切な引用方法を用いることが義務付けられています。心理学分野では、APAスタイル(American Psychological Association style)が広く用いられます。
- 「引用文献」のセクションでは、本文中で引用したすべての文献の完全な情報をリストアップします。これにより、読者は参照元を容易に確認し、研究の信頼性を担保することができます。
学習アドバイス: 実験のプロセス全体を順序立てて理解し、各段階における専門用語とその役割を把握することが重要です。特に、独立変数と従属変数の関係、統制の概念、そして結果の客観的な記述と考察での意味付けの違いを明確に理解しましょう。
2.7 知覚及び認知 (約2%)
「知覚」と「認知」は、私たちが外界を理解し、思考し、行動するための基盤となる心の働きです。この項目では、感覚器官から得られた情報がどのように処理され、意味づけられるのか、そしてその過程で生じる様々な機能とその障害について探ります。
(1) 人の感覚・知覚の機序及びその障害
感覚は外界の物理的エネルギーを受容するプロセスであり、知覚はその感覚情報に意味を与えるプロセスです。
- 心理物理学: 物理的な刺激量と、それによって生じる心理的な感覚量との関係を科学的に研究する分野です。例えば、音がどれくらい大きくなると人間がその変化を知覚できるか、といった閾値の研究などがあります。
- 明るさと色の知覚、空間(運動、奥行き)の知覚、物体とシーンの知覚:
- 明るさと色の知覚: 光の強度や波長が、どのように明るさや様々な色として知覚されるかを扱います。
- 空間(運動、奥行き)の知覚: 視覚情報から、物体の動き(運動知覚)や、物体の位置関係、遠近感(奥行き知覚)をどのように把握するかを研究します。
- 物体とシーンの知覚: 個々の要素から全体的な物体や、その物体が存在する場面(シーン)をどのように認識し、意味を付与するかを扱います。
- 音と音声の知覚: 音波の物理的特性(周波数、振幅)が、高さや大きさ、音色としてどのように知覚されるか、また、言語音である音声がどのように認識され、理解されるかを研究します。
- 味覚、嗅覚、触覚: 化学物質や物理的接触が、それぞれ味、匂い、触感としてどのように感覚器で受容され、知覚されるかを扱います。
- 体性感覚、自己受容感覚、多感覚統合:
- 体性感覚: 皮膚を通して感じる圧覚、痛覚、温覚、冷覚などの感覚です。
- 自己受容感覚: 身体の位置や動き、筋肉の伸び具合などを感知する感覚で、平衡感覚や運動感覚を含みます。
- 多感覚統合: 複数の感覚情報(例えば、視覚と聴覚)が脳内でどのように統合され、より豊かで一貫した知覚体験を生み出すかを扱います。
- 知覚の可塑性: 経験や学習によって知覚の仕方が変化する能力です。例えば、新しい環境に適応したり、特定の技能を習得したりする過程で知覚の精度が向上する現象などがあります。
- 脳機能計測技術: 脳活動を測定し、知覚や認知機能との関連を調べる技術です。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)や脳波(EEG)などが代表的で、脳のどの部位が、いつ、どのように活動しているかを明らかにします。
- 知覚・認知機能の障害: 脳損傷や疾患などにより、知覚や認知の機能が損なわれる状態です。例えば、失認(対象を認識できない)、半側空間無視(空間の片側を認識できない)などがあります。
(2) 人の認知・思考の機序及びその障害
知覚された情報は、さらに記憶され、思考や推論に用いられ、意思決定へと繋がります。
- ワーキングメモリ、短期記憶、長期記憶:
- ワーキングメモリ: 情報を一時的に保持し、同時に操作する能力です。計算や読解など、日常生活の多くの認知活動に関わります。
- 短期記憶: 比較的短時間(数秒から数十秒)情報を保持するシステムです。
- 長期記憶: 情報を長期間(数分から一生涯)保持するシステムです。エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶など多様な種類があります。
- 自伝的記憶、展望記憶、日常記憶:
- 自伝的記憶: 個人の過去の経験や出来事に関する記憶です。
- 展望記憶: 将来行うべき行動に関する記憶(例:薬を飲むことを覚えている)です。
- 日常記憶: 日常生活でよく使う知識や出来事に関する記憶です。
- 推論(演繹的推論、帰納的推論):
- 推論: 既知の情報から新しい結論を導き出す思考プロセスです。
- 演繹的推論: 一般的な法則や前提から、個別の具体的な結論を導き出す推論です(例:すべての人間は死ぬ。ソクラテスは人間である。ゆえにソクラテスは死ぬ)。
- 帰納的推論: 個別の観察事実から、一般的な法則や原理を導き出す推論です(例:観察した白鳥はすべて白い。ゆえにすべての白鳥は白い)。
- 注意、意識:
- 思考: 概念を形成し、判断し、推論し、問題を解決するために情報を操作する精神活動の総称です。
- 問題解決: 特定の目標を達成するために、障害を乗り越えるための戦略を立て、実行するプロセスです。
- 意思決定: 複数の選択肢の中から、最適なものを選ぶプロセスです。
 
- 注意: 複数の情報の中から特定の情報に焦点を当て、選択的に処理する能力です。選択的注意、分割的注意などがあります。
- 意識: 自分自身や周囲の環境を認識している状態であり、思考や感情を自覚する高次の認知機能です。
- 物体認知: 視覚情報から、目の前にある対象が何であるかを認識するプロセスです。
- 思考、問題解決、意思決定:
- 潜在記憶、プライミング:
- 潜在記憶: 意識的に思い出すことは難しいが、行動やパフォーマンスに影響を与える記憶です(例:自転車の乗り方)。
- プライミング: 先行する刺激の提示が、その後の刺激の処理や反応に影響を与える現象です。例えば、特定の単語を見た後で、関連する単語の処理が速くなる現象などがあります。
- 記憶障害: 記憶の機能が損なわれる状態です。新しいことを覚えられない(前向性健忘)や、過去の記憶を思い出せない(逆向性健忘)など、様々なタイプがあります。
学習アドバイス: 感覚器官から脳への情報処理のメカニズムを、具体的な現象や日常的な体験と結びつけて理解しましょう。知覚、記憶、思考、注意といった各認知機能の定義とその相互関連性を明確に把握することが重要です。また、それぞれの機能が障害された場合にどのような症状が現れるのかも合わせて学習しましょう。
2.8 学習及び言語 (約2%)
「学習」とは、経験によって行動や知識が比較的に永続的に変化する過程を指し、「言語」は人間特有の複雑なコミュニケーションシステムです。この項目では、これら二つの重要な心の働きについて、その機序と関連概念を掘り下げます。
(1) 人の行動が変化する過程
学習は多岐にわたり、単純な反射から複雑な認知活動まで、様々なレベルで生じます。
- 初期学習(刻印づけ、臨界期、生得的解発機構):
- 刻印づけ(Imprinting): 生後まもない動物に見られる、特定の対象(例:親)に対して急速かつ不可逆的に愛着行動が形成される学習の一種です。
- 臨界期(Critical Period): 特定の学習や発達が、その期間中にのみ効果的に生じる、または強く影響を受ける時期を指します。この期間を過ぎると、学習が困難になったり、正常な発達が阻害されたりする可能性があります。
- 生得的解発機構(Innate Releasing Mechanism: IRM): 動物が生得的に持っている特定の刺激(解発刺激)に反応して、特定の行動パターン(固定動作パターン)を引き起こすメカニズムです。
- 古典的条件づけ(Classical Conditioning): I.パブロフによって発見された学習の形式で、元々反応を引き起こさない中性刺激が、反応を引き起こす無条件刺激と対提示されることで、中性刺激単独で反応を引き起こすようになるプロセスです。例として、パブロフの犬の実験(ベルの音と唾液分泌)があります。
- オペラント条件づけ(Operant Conditioning): B.F.スキナーが提唱した学習の形式で、自発的な行動(オペラント行動)の後に続く結果(報酬や罰)によって、その行動の頻度が増加したり減少したりするプロセスです。例として、スキナー箱でのラットのレバー押し行動の学習があります。
- 恐怖条件づけ、嫌悪条件づけ:
- 恐怖条件づけ: 中性刺激と恐怖反応を引き起こす刺激が対提示されることで、中性刺激単独で恐怖反応を引き起こすようになる古典的条件づけの一種です。PTSDなどの精神疾患との関連が指摘されています。
- 嫌悪条件づけ: 特定の行動や刺激に対して嫌悪的な結果を伴わせることで、その行動や刺激を避けるように学習させることです。
- 馴化(Habituation)、鋭敏化(Sensitization):
- 馴化: 繰り返し提示される刺激に対して、反応が徐々に減少していく現象です。例えば、新しい環境の騒音に慣れて気にならなくなることなどです。
- 鋭敏化: 繰り返し提示される刺激や、強く嫌悪的な刺激によって、反応がむしろ強くなる現象です。
- 般化(Generalization)、弁別(Discrimination)、転移(Transfer):
- 般化: 学習した反応が、元の刺激と似た刺激に対しても生じる現象です。
- 弁別: 複数の似た刺激の中から、特定の刺激にのみ反応するようになる学習です。
- 転移: ある状況で学習した知識やスキルが、別の状況での学習やパフォーマンスに影響を与えることです。正の転移(促進的)と負の転移(阻害的)があります。
- 逃避学習(Escape Learning)、回避学習(Avoidance Learning):
- 逃避学習: 嫌悪刺激が提示された後で、その刺激から逃れるための行動を学習することです。
- 回避学習: 嫌悪刺激が提示される前に、その刺激の提示を予期して、それを避けるための行動を学習することです。
- 試行錯誤(Trial and Error)、洞察学習(Insight Learning)、潜在学習(Latent Learning)、社会的学習(観察、モデリング):
- 試行錯誤: 目標達成のために様々な行動を試み、成功した行動を学習していくことです。
- 洞察学習: 問題解決において、それまでバラバラだった情報が急につながり、突然解決策をひらめくようにして学習が成立することです。
- 潜在学習: 特定の報酬がなくても学習が生じ、後になってその学習成果が行動に現れることです。
- 社会的学習(Social Learning): 他者の行動を観察し、それを模倣することで学習することです。アルバート・バンデューラが提唱した「観察学習」や「モデリング」が含まれます。
- 学習の生物学的基礎: 学習は、脳内の神経細胞間の結合(シナプス)の変化など、生物学的なメカニズムによって支えられています。神経伝達物質や脳の特定の領域が学習過程に深く関与していることが明らかにされています。
(2) 言語の習得における機序
言語は、思考、コミュニケーション、社会生活の基盤となる複雑なシステムです。その習得過程は、心理学の主要な研究テーマの一つです。
- 意味論、語用論、統語論、音韻論、形態論: 言語学の主要な研究分野で、言語の様々な側面を扱います。
- 意味論(Semantics): 言葉や文が持つ意味を研究します。
- 語用論(Pragmatics): 言葉が実際に使用される文脈における意味や、話者の意図、聞き手との関係性などを研究します。
- 統語論(Syntax): 文の構造や、単語が文中でどのように並べられるかを研究します。
- 音韻論(Phonology): 言語における音の体系や、音がどのように機能するかを研究します。
- 形態論(Morphology): 単語の内部構造や、単語がどのように形成されるかを研究します。
- 認知言語学、社会言語学:
- 認知言語学(Cognitive Linguistics): 言語を人間の認知能力や心的プロセスと関連付けて研究します。
- 社会言語学(Sociolinguistics): 言語と社会の関係性、すなわち社会的な要因(地域、階層、性別など)が言語の使用や変化にどのように影響するかを研究します。
- ナラティブ、談話、会話、コミュニケーション:
- ナラティブ(Narrative): 個人の経験や出来事を語る「物語」のことで、自己理解や他者との関係構築に深く関わります。
- 談話(Discourse): 文章や会話など、一連の言語表現のまとまりを指します。
- 会話(Conversation): 二人以上の間で行われる口頭での相互作用です。
- コミュニケーション(Communication): 情報や意味を送り手から受け手へと伝達するプロセス全般を指します。言語だけでなく、非言語的な要素も含まれます。
- N. Chomsky の言語理論 (普遍文法、生成文法、言語獲得装置):
- N. Chomsky(ノーム・チョムスキー): 言語学者であり、人間が言語を習得する生得的な能力を重視した「生成文法」を提唱しました。
- 普遍文法(Universal Grammar): 全ての人間が生まれつき持っている、あらゆる言語に共通する文法的な原理の集合体であるとチョムスキーは考えました。
- 生成文法(Generative Grammar): 限られた数の規則から無限の文を生成できる文法システムであり、人間が言葉を理解し、話す能力の根底にあるとされます。
- 言語獲得装置(Language Acquisition Device: LAD): チョムスキーが提唱した、人間が生まれつき備えているとされる言語獲得のための生得的なメカニズムです。
- 言語学習理論、社会語用論的アプローチ:
- 言語学習理論: 行動主義的な観点から、言語が模倣と強化によって学習されると考える理論です。
- 社会語用論的アプローチ: 言語学習が社会的な相互作用やコミュニケーションの文脈の中で生じることを重視するアプローチです。
- 言語獲得支援システム: 言語獲得に困難を抱える子どもや大人に対して、言語能力の発達を促すための様々な支援システムやプログラムを指します。
- 語彙獲得(共同注意、認知的制約):
- 語彙獲得: 子どもが新しい単語とその意味を習得するプロセスです。
- 共同注意(Joint Attention): 子どもと大人が同じ対象に注意を向けることで、言葉とその対象を関連付けて学習する重要なメカニズムです。
- 認知的制約: 子どもが言語学習を行う際に、特定の制約(例:全体性制約、分類制約)があることで、効率的に単語の意味を推測できるという考え方です。
- 言語発達過程: 子どもが生まれてから成長するまでの間に、発声、単語、文法、コミュニケーション能力などがどのように段階的に発達していくかを示します。
- 失語症(Wernicke 失語、Broca 失語): 脳の損傷によって言語機能が障害される状態です。
- Wernicke 失語: ウェルニッケ野の損傷により、言葉の理解が困難になり、流暢だが意味をなさない発話を特徴とします。
- Broca 失語: ブローカ野の損傷により、発話が非流暢で、努力を要する特徴を持ちますが、言葉の理解は比較的保たれます。
- ディスレクシア (読字障害): 知的な遅れや感覚器の障害がないにもかかわらず、文字の読み書きに著しい困難を抱える特定の学習障害の一つです。
学習アドバイス: 各学習理論の提唱者と具体的な例をセットで覚え、言語発達の主要な概念を理解しましょう。特に、行動主義的な学習観と認知的な学習観の違い、そしてチョムスキーの言語生得説は頻出です。それぞれの概念が具体的な現象とどう結びつくかを意識して学習すると良いでしょう。
2.9 感情及び人格 (約2%)
「感情」と「人格」は、人間の行動や心のあり方を理解する上で中心的なテーマです。この項目では、感情が生じるメカニズムや、個人の独自性である人格がどのように形成され、表現されるのかについて探ります。
(1) 感情に関する理論と感情喚起の機序
感情は、特定の出来事や状況に対する主観的な体験であり、身体的・生理的な反応や行動の傾向を伴います。
- 感情 (affect)、情動(emotion)、気分(mood)、主観的情感(feeling):
- 感情(affect): より広範な概念で、情動、気分、感情表現全般を指すことがあります。
- 情動(emotion): 特定の出来事によって引き起こされる、比較的短時間で強度の高い心理・生理的反応です。
- 気分(mood): 情動よりも持続時間が長く、強度が低い、全体的な心的状態です。
- 主観的情感(feeling): 感情の主観的な側面、つまり「~と感じる」という個人的な体験です。
- 感情の進化的基盤: 感情が、生存や種の繁栄に有利な適応機能として進化してきたという考え方です。例えば、恐怖は危険から身を守るために、怒りは脅威を排除するために役立つとされます。
- 感情の神経生理的基盤: 感情が生じる際に、脳の特定領域(例:扁桃体、前頭前野)や神経伝達物質(例:セロトニン、ドーパミン)がどのように関与するかを研究します。
- 末梢神経説、中枢神経説、二要因理論:
- 末梢神経説(ジェームズ=ランゲ説): 感情体験は、身体の生理的変化(例:心拍数の上昇、発汗)が先に起こり、その変化を知覚することで感情が生じるという説です。
- 中枢神経説(キャノン=バード説): 感情体験と身体の生理的変化は、脳の視床が刺激されることによって同時に生じるという説です。
- 二要因理論(シャクター=シンガーの二要因説): 感情は、生理的覚醒(身体的変化)と、その覚醒の認知的な解釈(状況の評価)という二つの要因が組み合わさることで生じるという説です。
- 次元論: 感情を、快-不快、覚醒-鎮静といった少数の連続的な次元の組み合わせで表現しようとする考え方です。
- 基本感情理論: 全ての文化に共通する、普遍的な少数の基本感情(例:喜び、悲しみ、怒り、恐れ、嫌悪、驚き)が存在するという考え方です。
- 認知的評価理論: 感情は、特定の出来事に対する個人の認知的な評価(アプレイザル)によって引き起こされるという考え方です。同じ出来事でも、その評価の仕方によって異なる感情が生じるとします。
- 感情の社会的構成主義理論: 感情は、個人の内的な生理的プロセスだけでなく、社会的・文化的な文脈の中で構成されるという考え方です。感情の表現や体験の仕方が文化によって異なることを重視します。
- 感情の心理的構成主義理論: 感情は、基本感情のように独立したカテゴリとして存在するのではなく、より基本的な心理的プロセス(例:核となる情動、認知、状況の認識など)が組み合わさって「構成」されるという考え方です。
- ソマティック・マーカー仮説: A.ダマシオが提唱したもので、意思決定の際に、過去の経験から生じた身体的な感覚(ソマティック・マーカー)が無意識のうちに影響を与え、意思決定を助けるという仮説です。
(2) 感情が行動に及ぼす影響
感情は、単なる内的な体験にとどまらず、私たちの思考、行動、対人関係に多大な影響を与えます。
- 感情の表出(顔表情・発声・姿勢・行為傾向): 感情は、顔の表情、声のトーン、身体の姿勢、そして具体的な行為傾向(例:怒りによる攻撃行動)として外に現れます。これらの表出は、他者とのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たします。
- 表情知覚: 他者の顔表情を認識し、そこから相手の感情を読み取る能力です。社会的な相互作用において不可欠なスキルです。
- 感情と認知・情報処理バイアス: 感情の状態が、情報処理の仕方や認知に影響を与える現象です。例えば、不安な気分の時はネガティブな情報に注意が向きやすくなる(注意バイアス)といったものです。
- 感情と社会・文化: 感情の体験、表現、解釈は、個人の属する社会や文化によって異なる場合があります。感情の表示規則(ディスプレイ・ルール)などがこれにあたります。
- 感情の発達: 感情の体験、表現、理解、そして感情制御の能力が、生涯にわたってどのように変化・成熟していくかを研究します。
- 感情の個人差(感情特性): 人によって感情の感じ方や反応の仕方に違いがあることを指します。感情の強度、持続性、表出の頻度などが含まれます。
- 感情と心身の健康: 感情の状態が身体的な健康に影響を与える関係性です。ストレスやネガティブな感情が免疫機能の低下や心身症に繋がることなどが知られています。
- 感情の病理・障害: 感情の制御が困難になったり、特定の感情が極端に現れたりすることで、日常生活に支障をきたす状態です。うつ病や不安症などがこれにあたります。
- 感情制御、感情知性:
- 感情制御(Emotion Regulation): 感情の体験、表出、生理的反応を調節するプロセスです。
- 感情知性(Emotional Intelligence): 自分自身の感情を理解し、管理する能力、他者の感情を認識し、共感する能力、そして感情を効果的に活用して人間関係を築く能力を指します。
- 感情と動機づけ: 感情が行動を促す動機となる関係性です。例えば、喜びの感情が特定の行動を繰り返す動機となったり、不安が回避行動を促したりします。
- ポジティブ感情 (拡張一形成理論): B.フレドリクソンが提唱した理論で、喜び、興味、感謝などのポジティブ感情が、思考や行動のレパートリーを「拡張」させ、長期的には心理的資源を「形成」し、個人の成長やウェルビーイングに貢献するという考え方です。
(3) 人格の概念及び形成過程
人格(パーソナリティ)とは、個人を特徴づける比較的安定した思考、感情、行動のパターンを指します。
- 人格、パーソナリティ、性格、気質:
- 人格(Personality): 個人を特徴づける全体的かつ安定した心理的特性の集合体であり、その人の行動様式や他者との関わり方を決定づける基盤となります。
- 性格: 人格の一部として、特定の状況における行動の傾向や特徴を指すことが多いです。
- 気質(Temperament): 生まれつき持っている感情や行動の基本的な傾向で、比較的早期に現れ、生物学的な基盤が強いとされます。
- 人格と認知、感情、行動: 人格は、個人の認知(思考、情報処理)、感情(感情の体験と表出)、行動(具体的な行動様式)の三側面が相互に影響し合いながら形成され、機能します。
- 状況論、相互作用論、社会的認知理論:
- 状況論(Situationalism): 個人の行動は、その置かれた状況によって大きく決定されるという考え方です。
- 相互作用論(Interactionism): 個人の行動は、人格特性と状況要因が相互に影響し合うことで決定されるという考え方です。
- 社会的認知理論: A.バンデューラらが提唱し、学習は観察によって生じ、行動、個人要因(認知など)、環境要因が相互に影響し合いながら人格が形成されるという理論です。
- 一貫性論争(人間-状況論争): 人間の行動が、その人の「人格特性」によって一貫して決定されるのか、それともその時々の「状況」によって大きく左右されるのか、という点に関する心理学における議論です。
- ストレス脆弱性: ストレスに対する個人の感受性の高さを示します。特定の遺伝的、生物学的、心理的、社会的要因が、ストレスに対する脆弱性を高め、精神疾患の発症リスクを高めると考えられます。
- レジリエンス(Resilience): 困難や逆境に直面した際に、それを乗り越え、適応し、成長する心の力のことです。ストレス脆弱性と対をなす概念として、心の健康を維持する上で重要視されます。
- 人格の形成過程(連続性と変化、遺伝要因、環境要因): 人格は、生涯にわたって形成され、変化し続けますが、その中には安定した「連続性」と、経験による「変化」の両側面があります。形成には、親からの遺伝的な要因と、生育環境、社会的経験などの環境要因が複雑に絡み合います。
- 自尊感情(self-esteem): 自分自身の価値や能力に対する肯定的な評価や感情のことです。心の健康や幸福感に大きく影響します。
(4) 人格の類型、特性
人格を理解するためのアプローチとして、大きく「類型論」と「特性論」があります。
- 類型論、特性論:
- 類型論: 人格をいくつかの明確なタイプ(類型)に分類しようとするアプローチです。例えば、クレッチマーの体型と性格の関連性、ユングの類型論(内向型・外向型)などがあります。
- 特性論: 人格を、個人が持つ様々な特性(例:外向性、誠実性)の組み合わせとして捉え、各特性の程度を測定しようとするアプローチです。
- 5因子モデル、6因子モデル (HEXACO):
- 5因子モデル(Big Five): 特性論の代表的なモデルで、人格を構成する基本的な5つの特性(外向性、神経症傾向、開放性、誠実性、調和性)を提唱します。
- 6因子モデル (HEXACO): 5因子モデルに「正直さ-謙虚さ」という新しい特性を加えたモデルです。
- 語彙アプローチ、ナラティブ・アプローチ、人間性心理学的アプローチ:
- 語彙アプローチ: 日常言語に表れる形容詞や名詞を分析することで、人格特性を抽出するアプローチです。5因子モデルの基礎となりました。
- ナラティブ・アプローチ: 個人の語る「人生の物語」を通じて人格を理解しようとするアプローチです。
- 人間性心理学的アプローチ: 人間が本来持っている自己実現の傾向や、個人の主観的体験を重視して人格を理解しようとします。
- 個人差、測定、検査、尺度、アセスメント:
- 個人差: 前述の通り、人格における個人の違いを指します。
- 測定、検査、尺度: 人格特性を客観的に把握するために、質問紙法などの様々な心理検査や尺度(特定の特性を測るための項目群)が用いられます。
- アセスメント: 心理検査や面接、観察などを通じて、個人の人格特性や心理状態を総合的に評価するプロセスです。
- パーソナリティ障害: 特定の人格特性が極端に偏り、持続的で、社会生活や対人関係に著しい支障をきたす精神疾患の一種です。DSM-5など診断基準で分類されます。
学習アドバイス: 感情理論と人格理論は多岐にわたるため、主要な理論(提唱者、主な概念)と概念を整理して理解しましょう。特に、感情の主要理論(ジェームズ=ランゲ、キャノン=バード、シャクター=シンガー)、人格の類型論と特性論、そして主要な人格モデル(5因子モデルなど)は重要です。それぞれの概念が、実際の人の行動や心理状態とどのように関連しているかを具体的に考えながら学習を進めると理解が深まります。
2.10 脳・神経の働き (約2%)
脳と神経系は、人間の思考、感情、行動の全てを司る、極めて複雑なシステムです。公認心理師にとって、これらの構造と機能、そしてその障害が心の働きにどう影響するかを理解することは、適切なアセスメントと支援を行う上で不可欠です。
(1) 脳神経系の構造と機能
人間の脳神経系は、大きく中枢神経系と末梢神経系に分けられます。
- 中枢神経 (ニューロン、シナプス、グリア、脳脊髄液)、末梢神経:
- 中枢神経系は、脳と脊髄から構成され、情報の統合と指令の発信を担います。
- 末梢神経系は、中枢神経系から体の各部位(筋肉、腺、感覚器など)へ情報を伝え、また体の各部位からの情報を中枢神経系に伝える神経の総称です。
- 機能局在(大脳皮質、辺縁系、視床、視床下部): 脳の特定の部位が特定の機能(認知、感情、行動など)を担っているという考え方です。
- 大脳皮質は、思考、言語、知覚、随意運動など、高次の認知機能を司る脳の最も外側の層です。
- 辺縁系は、感情、記憶、動機づけなどに関わる脳の領域の集合体です。
- 視床は、感覚情報の中継地点であり、大脳皮質への情報伝達を調整します。
- 視床下部は、体温調節、摂食、飲水、睡眠、性行動など、基本的な生命維持機能と内分泌系の調整を行います。
- 自律神経(交感神経、副交感神経): 末梢神経系の一部で、意識的な制御なしに体の内臓機能(心拍、呼吸、消化など)を調整します。
- 交感神経は、ストレス時や活動時に優位になり、「闘争・逃走」反応を準備します。
- 副交感神経は、リラックス時や休息時に優位になり、体の回復を促します。
- 睡眠、摂食行動、情動行動、性行動、サーカディアンリズム: これらは視床下部やその他の脳領域が深く関わる、基本的な生理的・行動的機能です。
- 睡眠は、脳と体が休息し回復する周期的な状態です。
- 摂食行動は、食物摂取に関わる行動であり、食欲や満腹感の調節を含みます。
- 情動行動は、感情に伴う行動的表出です。
- 性行動は、生殖に関わる行動であり、ホルモンや脳の報酬系が関与します。
- サーカディアンリズムは、約24時間周期で繰り返される生物学的リズムで、睡眠・覚醒サイクルなどがこれにあたります。
- 神経伝達物質(受容体、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン、オピオイド類): ニューロン間で情報を伝達する化学物質です。
(2) 記憶、感情等の生理学的反応の機序
心の働きは、脳の活動や身体の生理的変化として現れます。
- 意識、知覚、記憶、感情: これらは脳の高次機能であり、複雑な神経ネットワークの活動によって生じます。
- 体温、皮膚電位図、筋電図、心電図: これらは感情やストレス反応など、心理的状態に伴って変化する生理指標です。
- 体温は、感情的な興奮やストレスによって変化することがあります 。
- 皮膚電位図(GSR/EDA)は、皮膚の電気伝導度の変化を記録し、情動的覚醒の指標となります。
- 筋電図(EMG)は、筋肉の活動電位を記録し、表情や身体の緊張度合いを測定します。
- 心電図(ECG)は、心臓の電気活動を記録し、心拍数や心拍変動は感情反応と関連します。
- 脳波、事象関連電位、局所脳血流変化: これらは脳活動を直接的または間接的に測定する技術です。
(3) 高次脳機能の障害と必要な支援
脳損傷や疾患により、高次の認知機能が損なわれることがあり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
- 失語、失行、失認: これらは高次脳機能障害の代表的な症状です。
- 失語は、脳の損傷によって言語を理解したり、話したり、読んだり、書いたりする能力が障害されることです。
- 失行は、麻痺がないにもかかわらず、目的のある運動や動作がうまく行えないことです。
- 失認は、感覚器官に異常がないにもかかわらず、対象物や人、音などを認識できないことです。
- 記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害: これらも高次脳機能障害の主要な症状群です。
- 記憶障害は、新しいことを覚えられない、過去の出来事を思い出せないなどの記憶の問題です。
- 遂行機能障害は、計画を立てる、目標を設定する、問題を解決する、複数のタスクを同時にこなすなどの能力が損なわれることです。
- 注意障害は、集中力が続かない、複数のことに注意を向けられない、すぐに気が散るなどの注意に関する問題です。
- 社会的行動障害は、感情のコントロールが難しい、状況にそぐわない行動を取る、他者の気持ちを理解できないなど、社会的な行動や対人関係に関する問題です。
- 高次脳機能障害の原因: 脳血管障害(脳卒中)、頭部外傷、脳炎、脳腫瘍、低酸素脳症など、様々な原因によって脳に損傷が生じることで引き起こされます。
- リハビリテーション、生活訓練、就労移行支援: 高次脳機能障害を持つ人々への支援は、多岐にわたります。
学習アドバイス: 脳の各部位の機能と、それが心の働きにどう影響するかを理解することが重要です。特に、中枢神経系と末梢神経系の構成要素、主要な脳部位の機能局在、神経伝達物質の役割は基礎知識として必須です。また、高次脳機能障害の種類とその症状、そしてそれに対する具体的な支援方法を関連付けて学習しましょう。
2.11 社会及び集団に関する心理学 (約2%)
社会及び集団に関する心理学は、個人が他者や集団、社会、文化の中でどのように行動し、思考し、感情を抱くのかを探求する分野です。公認心理師は、支援を要する個人が置かれた社会的な文脈を理解するために、この分野の知識が不可欠です。
(1) 対人関係並びに集団における人の意識及び行動についての心の過程
人々は社会の中で孤立して存在するのではなく、他者と関わり、集団に属することで、その意識や行動は多様に変化します。
- 個人内過程、集団過程:
- 個人内過程: 個人が自己や他者、社会をどのように認識し、解釈するかといった、個人内部で生じる心理的なプロセスを指します。
- 集団過程: 集団内で生じる相互作用や力動、例えば集団意思決定、集団凝集性、集団極性化などを指します。
- コミュニケーション、ソーシャル・スキル:
- コミュニケーション: 情報や感情、意図などを他者に伝え、受け取るプロセスです。言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションがあります。
- ソーシャル・スキル: 他者と円滑な人間関係を築き、社会生活を適切に送るために必要な対人行動の技術です。挨拶、傾聴、自己主張、葛藤解決などが含まれます。
- 対人ストレス: 他者との関係の中で生じる心理的な負担や緊張のことです。人間関係の不和、社会的評価への不安、役割期待のプレッシャーなどが原因となります。
- 親密な対人関係: 家族、友人、恋人など、相互に深い感情的な結びつきを持つ関係です。信頼、共有、相互依存などが特徴です。
- 社会的影響: 他者の存在や行動、集団規範などが個人の行動や態度に与える影響のことです。同調、服従、説得などが含まれます。
- 社会的ジレンマ: 個人の合理的な選択が、集団全体にとっては非合理的な結果をもたらしてしまう状況です。共有地の悲劇や囚人のジレンマなどが例として挙げられます。
- 社会的アイデンティティ、内集団、外集団:
- 社会的アイデンティティ: 個人が特定の集団に属していることから得られる自己の認識や感情のことです。
- 内集団: 個人が所属していると感じる集団(例:自分の家族、自分の学校)。
- 外集団: 個人が所属していないと感じる集団(例:他の家族、他の学校)。
- ソーシャル・ネットワーク、ソーシャル・サポート:
- ソーシャル・ネットワーク: 個人が持つ人間関係のつながり全体のことです。
- ソーシャル・サポート: 個人が社会的関係から得られる、精神的、物質的、情報的な支援のことです。ストレスの緩衝効果があるとされます。
- 集合現象: 多くの人々が一時的に集まった際に生じる、通常とは異なる行動や心理状態のことです。暴動、パニック、うわさなどが含まれます。
- 集団、組織:
- 集団: 共通の目標や規範を持ち、相互に作用し合う複数の個人のまとまりです。
- 組織: 特定の目的を達成するために、明確な構造と役割分担を持つ比較的安定した集団です。
(2) 人の態度及び行動
個人の社会的な側面は、その態度や行動に反映されます。
- 社会的自己、自己過程、態度、帰属:
- 社会的自己: 他者や社会との相互作用を通じて形成される自己の概念です。
- 自己過程: 自己概念の形成、維持、変容に関わる様々な心理的プロセスです。
- 態度: 特定の対象(人、物、事柄)に対する好意的または非好意的な評価や傾向です。認知、感情、行動の側面を持ちます。
- 帰属: 他者の行動や出来事の原因を推論する心の働きです。内的帰属(能力や性格に原因を求める)と外的帰属(状況や環境に原因を求める)があります。
- ステレオタイプ、メタステレオタイプ:
- ステレオタイプ: 特定の集団に対する過度に単純化された固定的なイメージや信念です。
- メタステレオタイプ: 自分自身や自分の属する集団が、外集団からどのようにステレオタイプされているかを認識することです。
- 社会的感情、社会的動機:
- 社会的感情: 他者との関係の中で生じる感情です(例:嫉妬、羞恥、罪悪感)。
- 社会的動機: 他者との関係や社会的な承認を求める心の働きです。
- 社会的認知、対人認知、印象形成、社会的推論:
- 社会的認知: 社会的な情報(他者、集団、状況など)をどのように処理し、理解するかという認知過程全般を指します。
- 対人認知: 他者の性格、意図、感情などを認識し、理解するプロセスです。
- 印象形成: 他者から得られる限られた情報に基づいて、その人の全体的なイメージを作り上げるプロセスです。
- 社会的推論: 社会的な情報に基づいて、判断や結論を導き出す思考プロセスです。
- 対人魅力: 人が他者に対して好意や魅力を感じる要因(類似性、近接性、身体的魅力など)を研究します。
- 自己呈示、自己開示:
- 自己呈示: 他者から特定のイメージで見られるように、自分の行動や言動を調整することです。
- 自己開示: 自分自身の個人的な情報、感情、思考などを他者に打ち明けることです。
- 社会的交換: 人間関係が、コストと報酬の交換によって維持されるという考え方です。
- 協力と競争、援助と攻撃:
- 協力: 共通の目標達成のために、複数の個人が協働することです。
- 競争: 複数の個人が、限られた資源や目標を巡って対立することです。
- 援助: 他者を助ける行動のことです。利他的行動などが含まれます。
- 攻撃: 他者に身体的または心理的な危害を加える行動のことです。
(3) 家族、集団及び文化が個人に及ぼす影響
個人は、家族、地域社会、そして文化といった広範なシステムの中に存在し、それらの影響を強く受けながら発達し、行動します。
- 結婚、夫婦関係、家族関係: 家族は個人の発達と幸福の最も基本的な環境です。結婚の機能、夫婦間のコミュニケーション、親子関係、兄弟姉妹関係など、家族内部の力動が個人の心理に与える影響を研究します。
- 育児、養育信念、家族の情動的風土:
- 育児: 子どもの成長と発達を支援する親の行動全般を指します。
- 養育信念: 親が育児に関して持つ考え方や価値観です。
- 家族の情動的風土: 家族内で共有される感情的な雰囲気や相互作用のパターンです。家族の機能や個人の心の健康に影響を与えます。
- 不適切な養育(心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト): 子どもの健全な発達を阻害する養育行動です。
- 心理的虐待: 言葉による脅し、無視、拒否など、子どもの心を傷つける行為です。
- 身体的虐待: 身体に外傷を与える行為です。
- 性的虐待: 子どもに対する性的な行為やそれを示唆する行為です。
- ネグレクト: 必要な養育(食事、衣類、住居、医療、教育など)を提供しないことです。
- 家庭内暴力<DV>、夫婦間暴力<IPV>:
- 家庭内暴力(DV: Domestic Violence): 家庭内で発生する暴力全般を指し、身体的、精神的、性的、経済的な暴力などが含まれます。
- 夫婦間暴力(IPV: Intimate Partner Violence): 恋人関係や婚姻関係にあるパートナー間での暴力に特化した表現です。
- 家族システム論: 家族を単なる個人の集まりではなく、相互に影響し合う一つのシステムとして捉える考え方です。個人の問題も、家族システム全体の機能不全として理解しようとします。
- 家族療法: 家族システム論に基づき、家族の相互作用パターンに介入することで、家族全体の機能改善や個人の問題解決を図る心理療法です。
- 生態学的システム論: U.ブロンフェンブレンナーが提唱した発達理論で、個人を取り巻く環境を、マイクロシステム(直接的な環境)、メゾシステム(マイクロシステム間のつながり)、エクソシステム(間接的な環境)、マクロシステム(文化、社会の価値観)といった階層的なシステムとして捉え、これらの相互作用が個人の発達に影響を与えるとします。
- 個人主義、集団主義、文化的自己観:
- 個人主義: 個人が自立し、自己の目標や権利を重視する文化的な価値観です。
- 集団主義: 集団の調和や目標を重視し、個人の利益よりも集団への貢献を優先する文化的な価値観です。
- 文化的自己観: 文化によって自己の捉え方(独立的な自己か、相互依存的な自己かなど)が異なることです。
- 異文化適応、異文化間葛藤:
- 異文化適応: 異なる文化環境に順応していくプロセスです。
- 異文化間葛藤: 異なる文化を持つ人々との間で生じる価値観や行動様式の衝突です。
学習アドバイス: 社会心理学と集団力学の主要な概念を把握し、身近な社会現象や日々の人間関係と関連付けて理解を深めましょう。特に、集団行動のメカニズム、対人関係の理論、そして家族や文化が個人に与える影響は、公認心理師の実践において非常に重要な視点となります。
2.12 発達 (約5%)
「発達」とは、人が誕生から死に至るまでの間に経験する、心身の変化と成長のプロセスを指します。公認心理師は、対象者の発達段階を理解し、その発達課題や特性に応じた支援を提供するために、発達心理学の知識が不可欠です。
(1) 認知機能の発達及び感情・社会性の発達
子どもの認知能力や感情、社会性がどのように育っていくかを理解することは、発達支援の基礎となります。
- J. Piaget の発達理論、L. S. Vygotsky の発達理論:
- J. Piaget(ジャン・ピアジェ)の発達理論: 子どもが能動的に環境と相互作用することで、認知構造(シェマ)を構成していくという「認知発達段階説」を提唱しました。感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の4段階に分けられます。
- L. S. Vygotsky(レフ・ヴィゴツキー)の発達理論: 社会的相互作用と文化が子どもの認知発達に大きな影響を与えるという「社会文化的発達理論」を提唱しました。特に「最近接発達領域(Zone of Proximal Development: ZPD)」の概念は、学習支援における他者(熟練者)の役割の重要性を示します。
- 知能指数、知能の構造(多重知能):
- 知能指数(IQ): 精神年齢と生活年齢の比、または偏差値として算出される、個人の知的能力の指標です。
- 知能の構造(多重知能): H.ガードナーが提唱した「多重知能理論」では、知能は単一の能力ではなく、言語的知能、論理数学的知能、空間的知能、身体運動的知能、音楽的知能、対人的知能、内省的知能、博物学的知能など、独立した複数の領域から構成されると考えます。
- 乳児に対する実験法(選好注視法、馴化・脱馴化法、期待違反法): 言語を話せない乳児の認知能力を測定するために用いられる実験手法です。
- 選好注視法: 乳児がより長く注視する方を好んでいるとみなし、弁別能力や興味の対象を調べます。
- 馴化・脱馴化法: 同じ刺激を繰り返し提示して反応が減衰する「馴化」の後、新しい刺激を提示して反応が回復する「脱馴化」が生じれば、乳児が刺激の違いを弁別していると判断します。
- 期待違反法: 乳児が物理法則に反するような予測外の事象に対し、より長く注視することから、乳児が物理的な世界の規則を理解していることを推測します。
- 心の理論、メンタライゼーション:
- 心の理論(Theory of Mind): 他者や自分自身が、信念、意図、欲求といった「心」を持っていることを理解する能力です。他者の行動を心の状態から推測できるようになることで、社会的な相互作用が可能になります。
- メンタライゼーション: 自分や他者の行動の背景にある心の状態(思考、感情、意図など)を想像し、理解する能力です。
- 共感性、向社会的行動、協調性:
- 共感性: 他者の感情や経験を理解し、それに共鳴する能力です。
- 向社会的行動: 他者を助けたり、社会に貢献したりする行動です。
- 協調性: 他者と協力して目標を達成する能力です。
- 自己制御、実行機能:
- 自己制御: 自分の思考、感情、行動をコントロールし、目標達成に向けて調整する能力です。
- 実行機能: 目標指向的な行動を計画し、実行し、評価するために必要な高次認知機能の総称です。計画力、ワーキングメモリ、抑制コントロールなどが含まれます。
- 感情制御、感情知性:
- 感情制御: 感情の体験、表出、生理的反応を調節する能力です。
- 感情知性: 自分や他者の感情を認識し、理解し、管理し、活用する能力です。
- 道徳性、規範意識:
- 道徳性: 何が善で何が悪か、何が正しく何が間違っているかを判断する能力や、その判断に基づく行動の傾向です。
- 規範意識: 社会や集団のルール、約束事を理解し、それを守ろうとする意識です。
(2) 自己と他者の関係の在り方と心理的発達
自己と他者との関係性は、個人の心理的発達に深く影響します。
- アタッチメント、内的作業モデル:
- アタッチメント(愛着): J.ボウルビィが提唱した、乳幼児が特定の養育者との間に形成する情緒的な絆のことです。安全基地としての役割を果たします。
- 内的作業モデル(Internal Working Model: IWM): 幼少期のアタッチメント経験に基づいて形成される、自己、他者、そして自己と他者の関係性に関する認知的なスキーマです。その後の対人関係に影響を与えます。
- 気質と環境:
- 気質: 生まれつき持っている感情や行動の基本的な傾向で、比較的早期に現れ、生物学的な基盤が強いとされます(例:活動性、反応性)。
- 気質と環境: 気質は環境との相互作用を通じて、パーソナリティへと発達していきます。環境が気質に適合するかどうかが重要です。
- 相互規定的作用モデル<transactional model>: 個人の発達は、個人自身の特性と、その個人を取り巻く環境が、双方向的かつ継続的に影響し合いながら進行するという考え方です。
- 社会化と個性化:
- 社会化: 個人が社会のルール、価値観、文化を学習し、社会に適応していくプロセスです。
- 個性化: 社会化の過程で、個人が自己の独自性を確立し、自律性を高めていくプロセスです。
- 対人関係の発達 (仲間関係、友人関係、異性関係): 発達段階に応じて、家族関係だけでなく、友人、仲間、そして異性との関係性が変化し、個人の社会性や自己概念の形成に影響を与えます。
- 自己概念、自己意識、自我同一性:
- 自己概念: 自分自身についての知識や信念、評価のまとまりです。
- 自己意識: 自分を対象として意識することです。
- 自我同一性(アイデンティティ): E.H.エリクソンが提唱した概念で、青年期に特に重要な発達課題とされ、自分が何者であるか、何を信じ、どこへ向かうのかといった、一貫した自己の感覚を指します。
- ジェンダーとセクシャリティ (性的指向、ジェンダーアイデンティティ):
- 向社会性、非社会性、反社会性:
- 向社会性: 他者を助けたり、協力したりする肯定的な行動傾向です。
- 非社会性: 社会的な交流や関心を示すことが少ない状態です。
- 反社会性: 社会の規範やルールに反する行動を取る傾向です。
(3) 生涯における発達と各発達段階での特徴
発達は特定の時期に限定されるものではなく、人の一生を通じて継続するプロセスです。
- 生涯発達の遺伝的基盤: 個人の発達が、遺伝的な要因によってどのように基礎づけられているかを示します。
- ライフサイクル論: 人生を複数の発達段階に分け、それぞれの段階で共通して経験する課題や移行期に焦点を当てます。E.H.エリクソンの発達段階説などが代表的です。
- 胎児期、乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、中年期、老年期: 生涯発達における主要な発達段階であり、それぞれに身体的、認知的、社会性に関する特徴的な発達課題と変化があります。
- 恋愛、結婚、家族形成: 成人期以降に多くの人が経験するライフイベントであり、自己と他者の関係性、社会的役割、アイデンティティに大きな影響を与えます。
- 職業意識とライフコース選択、キャリア発達:
- 職業意識とライフコース選択: どのような職業に就き、どのように人生の道を歩むかという意識と選択です。
- キャリア発達: 個人の職業生活だけでなく、生涯にわたる仕事や役割、学習などを含む広義のキャリア形成のプロセスです。
- 親としての発達: 親になることで生じる役割の変化、責任、心理的な成長のプロセスです。
- 中年期危機: 中年期に、自身の人生や達成度について再評価を行い、心理的な葛藤や転換期を迎えることです。
- 生成継承性<generativity>: E.H.エリクソンが提唱した、中年期の発達課題の一つで、次世代の育成や社会貢献を通じて自己の存在意義を見出すことです。
(4) 非定型発達
一般的な発達の軌道とは異なる特性を持つ発達を指し、その理解と適切な支援が求められます。
- 神経発達症群/神経発達障害群: 脳機能の発達における特性によって生じる、行動や認知、社会性における多様な困難を総称する診断群です。
- 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害<ASD>: 社会的コミュニケーションと相互作用の困難、限定された反復的な行動や興味・活動を主な特徴とする神経発達症です。
- 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害<AD/HD>: 不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達症です。
- 限局性学習症/限局性学習障害<SLD>: 知的能力全般に遅れはないものの、読み、書き、算数のうち特定の領域に著しい困難を示す学習障害です。
- 発達性協調運動症/発達性協調運動障害: 日常生活や学業において、運動技能の発達が期待される水準よりも著しく遅れている状態です。
- 知的能力障害: 知的機能と適応行動の両方に有意な制限がある状態です。
- アタッチメント障害 (反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害): 養育者との安定したアタッチメント形成が阻害されたことによって生じる、対人関係や情動調節の困難を特徴とする障害です。
- 反応性アタッチメント障害: 他者との感情的な交流が乏しく、引きこもりがちになる傾向があります。
- 脱抑制型対人交流障害: 見知らぬ人に対しても無差別になれなれしく接するなど、社会的抑制に欠ける傾向があります。
- 早産、低出生体重児: 標準的な妊娠期間より早く生まれたり、体重が少ない状態で生まれたりした場合、発達上のリスクを抱えることがあります。
- 成長障害<FTT>(器質性、非器質性): 乳幼児期に体重増加が著しく不良な状態です。身体的な原因(器質性)がないにもかかわらず生じる場合(非器質性)は、養育環境や心理的な要因が関与している可能性があります。
- 可視的差異: 外見上の特徴が一般的なものと異なること(例:ダウン症候群の顔貌特徴)を指します。
- 非定型発達に対する介入及び支援: 非定型発達の特性を理解し、個別のニーズに応じた教育的・心理的・社会的支援を行うことです。早期療育、特別支援教育、ソーシャル・スキルズ・トレーニング、ペアレント・トレーニングなどが含まれます。
(5) 高齢者の心理社会的課題と必要な支援
長寿化が進む現代社会において、高齢者の心理的健康とウェルビーイングの維持は重要な課題です。
- 平均寿命、健康寿命、加齢のメカニズム:
- 平均寿命: その年に生まれた乳児が平均して何年生きられるかを示したものです。
- 健康寿命: 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を示したものです。
- 加齢のメカニズム: 生物学的な老化の過程や、それに伴う身体的・精神的な変化です。
- 加齢による心身機能の変化、終末低下:
- 加齢による心身機能の変化: 身体機能(視力、聴力、運動能力など)や認知機能(処理速度、記憶力など)の低下、および精神的な変化です。
- 終末低下(Terminal Drop): 死期が近づくにつれて、認知機能が急激に低下する現象です。
- 社会的離脱、活動持続、補償を伴う選択的最適化、社会情動的選択性理論:
- 社会的離脱理論(Disengagement Theory): 高齢になると社会から徐々に離れていくことが自然であり、個人も社会もそれに適応しようとするという考え方です。
- 活動持続理論(Activity Theory): 高齢期においても、社会的活動や役割を維持し続けることが幸福感に繋がるという考え方です。
- 補償を伴う選択的最適化(Selective Optimization with Compensation: SOC): P.バルテスが提唱した理論で、加齢に伴い能力が低下しても、活動を選択・最適化し、不足分を補償することで、うまく適応できるという考え方です。
- 社会情動的選択性理論(Socioemotional Selectivity Theory): L.カーシュテンセンが提唱した理論で、人は時間の展望が短くなるにつれて、情緒的に意味のある人間関係や活動を重視するようになるという考え方です。
- 喪失と悲嘆、独居・孤独、ソーシャルサポート(ソーシャル・コンボイ):
- 喪失と悲嘆(Grief): 親しい人との死別など、重要なものを失った際に生じる心理的苦痛や反応です。
- 独居・孤独: 高齢者の増加に伴い、一人暮らしや社会的な孤立が課題となることがあります。
- ソーシャルサポート: 個人が社会的関係から得られる、精神的、物質的、情報的な支援のことです。
- ソーシャル・コンボイ(Social Convoy): 生涯を通じて個人を支える人間関係のネットワークを、あたかも車列(コンボイ)のように移動する同行者と捉える概念です。
- 認知症、日常生活動作<ADL>、介護、被介護:
- 認知症: 脳の疾患によって、記憶、思考、判断などの認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態です。
- 日常生活動作(ADL: Activities of Daily Living): 食事、着替え、入浴、排泄、移動など、日常生活を送る上で基本的な動作のことです。認知症の進行度を測る指標の一つです。
- 介護: 高齢者や障害を持つ人々が日常生活を送る上で必要となる支援や世話です。
- 被介護: 介護を受ける立場にあることを指します。
- QOL<quality of life>、ウェルビーイング、エイジング・パラドックス<aging paradox>:
- QOL(Quality of Life: 生活の質): 個人の人生における満足度や幸福度、充実度を総合的に評価する概念です。
- ウェルビーイング(Well-being): 身体的、精神的、社会的に良好な状態であり、個人が充実感や幸福感を抱いている状態を指します。
- エイジング・パラドックス<aging paradox>: 一般的に加齢はネガティブな側面が多いと考えられがちですが、高齢者の多くが比較的高い幸福感や満足度を報告するという現象です。
- フルエイジング(Successful Aging: 健やかな老い): 加齢に伴う変化に適応し、健康を維持しながら、社会参加を続け、充実した人生を送ることを目指すことです。
- 高齢者就労: 健康な高齢者が社会参加の一環として、働き続けることを指します。
- 社会的参加: 高齢者が地域活動、ボランティア、趣味の会などに積極的に参加することです。
- 老年的超越(Gerotranscendence): L.トルンスタムが提唱した、老年期に生じる発達段階です。物質主義的な価値観から離れ、宇宙や生命との一体感を深め、より精神的な側面を重視するようになるという考え方です。
学習アドバイス: 生涯発達の視点を持ち、各発達段階の課題と支援を具体的に理解しましょう。非定型発達は重点項目であり、主要な神経発達症の特性とその支援方法を確実に押さえる必要があります。また、高齢者の心理社会的課題については、単なる身体機能の低下だけでなく、社会参加や精神的な充足感といった側面にも注目して学習しましょう。
2.13 障害者(児)の心理学 (約3%)
障害者(児)の心理学は、身体的、知的、精神的な困難を抱える人々の心理的特性、社会生活上の課題、そしてそれらに対する適切な支援方法を理解するための分野です。公認心理師は、障害を持つ人々が社会の中でその人らしく生活できるよう、専門的な視点から多角的な支援を提供します。
(1) 身体障害、知的障害及び精神障害
障害を理解するための国際的な枠組みや診断基準、そして関連法規は、支援の出発点となります。
- 国際障害分類<CIDH>、国際生活機能分類<ICF>:
- 国際障害分類<ICIDH>(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps): 1980年にWHO(世界保健機関)が発表した障害の分類です。障害を「機能障害(Impairment)」「能力障害(Disability)」「社会的不利(Handicap)」の三つのレベルで捉えました。
- 国際生活機能分類<ICF>(International Classification of Functioning, Disability and Health): 2001年にICIDHに代わってWHOが発表した分類です。障害を単なる機能の欠損と捉えるのではなく、「健康状態」「身体機能・構造」「活動」「参加」「環境因子」「個人因子」といった多面的な要素が相互に影響し合うものとして捉え、ポジティブな側面も含む「生活機能」という視点を導入しました。
- 精神疾患の診断分類・診断基準(ICD-10、DSM-5): 精神疾患の診断と分類のために国際的に広く用いられている基準です。
- ICD-10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th Revision): WHOが作成した疾病および関連保健問題の国際統計分類です。精神および行動の障害も含まれています。
- DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Edition): アメリカ精神医学会(APA)が作成した精神疾患の診断・統計マニュアルです。
- アセスメント、発達障害:
- アセスメント: 障害者(児)の特性、能力、ニーズ、生活状況などを多角的に評価するプロセスです。心理検査、面接、行動観察などを通じて行われます。
- 発達障害: 生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、行動や認知、社会性などに特性が見られる障害の総称です。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症などが含まれます。
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律<障害者総合支援法>、発達障害者支援法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>:障害を持つ人々の支援に関わる主要な法律です。
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律<障害者総合支援法>:障害者(児)の日常生活や社会生活を総合的に支援するための各種サービス(障害福祉サービス、地域生活支援事業など)を定めた法律です。
- 発達障害者支援法:発達障害のある人々の早期発見、早期支援、地域生活支援、就労支援などを定めた法律です。
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>:精神障害者の医療、保護、社会復帰の促進、自立と社会参加の支援などを定めた法律です。
(2) 障害者(児)の心理社会的課題と必要な支援
障害を持つ人々は、社会の中で様々な心理社会的課題に直面することがあります。それらに対し、公認心理師は多様な支援を提供します。
- 障害者(児)の基本的権利、合理的配慮:
- 障害者(児)の基本的権利: 障害を持つ人々も、他の全ての人々と同様に、尊厳を持って生活し、社会に参加する権利を有するという考え方です。障害者権利条約(国連)などに明記されています。
- 合理的配慮: 障害のある人が、他の人々と平等に権利を行使できるよう、個別の状況に応じて過度な負担にならない範囲で、社会生活における障壁を取り除くための調整や変更を行うことです。
- リハビリテーション、療育、特別支援教育:
- リハビリテーション: 障害を持つ人々が、身体的、精神的、社会的に可能な限り自立し、社会参加できるようになることを目指す総合的な支援です。
- 療育: 障害のある子どもたちの発達を促し、社会生活への適応能力を高めるための医療、教育、福祉を統合した支援です。
- 特別支援教育: 障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて、適切な教育を行うことです。通常の学級での支援(通級指導)や特別支援学級、特別支援学校など、多様な学びの場があります。
- 就労支援、ソーシャル・スキルズ・トレーニング<SST>:
- 就労支援: 障害を持つ人々が、職業訓練、就職活動のサポート、職場定着支援などを通じて、社会の中で働き続けることができるようサポートするものです。
- ソーシャル・スキルズ・トレーニング<SST>(Social Skills Training): 対人関係を円滑に進めるための具体的なスキル(あいさつ、自己紹介、感情表現、葛藤解決など)を、ロールプレイングなどを通じて習得する訓練です。
- 応用行動分析、認知行動療法、TEACCH:
- 応用行動分析(Applied Behavior Analysis: ABA): 行動の原理(強化、罰、消去など)を、社会的に重要な行動の改善に応用する科学的なアプローチです。自閉スペクトラム症の子どもへの療育で広く用いられます。
- 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT): 不適応な思考パターン(認知)や行動を修正することで、精神的な問題の解決を図る心理療法です。
- TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children): 自閉スペクトラム症の特性を深く理解し、視覚的な手がかりの活用や構造化された環境設定を通じて、自立と社会参加を支援する包括的なプログラムです。
- ペアレント・トレーニング: 障害のある子どもの親に対して、子どもの行動理解や、望ましい行動を促すための具体的な関わり方を学ぶプログラムです。親のストレス軽減や、親子の関係改善にも寄与します。
学習アドバイス: 各障害の特性と、それに応じた支援法、関連法規(特に障害者総合支援法、発達障害者支援法、精神保健福祉法)を確実に覚える必要があります。ICFのような新しい障害観も理解し、多様な支援方法の適用について具体例と関連付けて学習しましょう。
2.14 心理状態の観察及び結果の分析 (約8%)
「心理状態の観察及び結果の分析」は、公認心理師の業務の根幹をなす重要なプロセスです。要支援者の抱える問題を正確に理解し、適切な支援計画を立案するためには、多様な情報源から得られたデータを統合的に分析する能力が求められます。この項目は出題割合も高く、深い理解が必要です。
(1) 心理的アセスメントに有用な情報(生育歴や家族の状況等)とその把握の手法等
心理的アセスメントは、要支援者の全体像を把握するために多岐にわたる情報を収集し、分析するプロセスです。
- テストバッテリー、アセスメント:
- テストバッテリーとは、単一の心理検査だけでなく、複数の異なる心理検査(例:知能検査、パーソナリティ検査、神経心理学的検査など)を組み合わせて実施することです。これにより、要支援者の心理的特性を多角的に、より網羅的に把握することが可能になります。
- アセスメントは、テストバッテリーを含む、要支援者の心理状態、特性、問題の背景、強み、ニーズなどを包括的に評価するプロセス全体を指します。
- ケース・フォーミュレーション、機能分析:
- ケース・フォーミュレーションとは、収集した情報に基づいて、要支援者の問題の発生・維持メカニズム、原因、関連要因などを包括的に仮説化し、支援目標と介入計画を立てるための枠組みです。個々の要支援者に合わせた、その人特有の問題の理解図を作成します。
- 機能分析は、行動療法や認知行動療法において用いられるアセスメント手法で、特定の行動(問題行動)の直前の状況(先行条件)、行動そのもの、行動の直後に生じる結果(結果条件)の関係性を分析し、行動の機能(なぜその行動が起きるのか)を特定します。
- インフォームド・コンセント: 支援を開始する前や、心理検査、面接などの具体的な介入を行う際に、要支援者に対して、その目的、内容、方法、予測される効果、リスク、秘密保持の範囲、費用などを十分に説明し、要支援者自身の自由な意思に基づいた同意を得ることです。自己決定権の尊重の基本となります。
- 診断的評価、精神疾患の診断分類・診断基準<ICD-10、DSM-5>:
- 診断的評価は、要支援者の心理状態が特定の精神疾患の診断基準に合致するかどうかを評価するプロセスです。精神科医が行う医学的診断と連携し、心理学的な側面から診断を補完します。
- **精神疾患の診断分類・診断基準<ICD-10、DSM-5>**は、精神疾患の診断を行う上で世界的に用いられる標準的な分類システムです。
- 半構造化面接、インテーク面接、査定面接:
- 半構造化面接は、事前に設定された質問項目やテーマがあるものの、要支援者の話の流れや反応に応じて柔軟に質問を深掘りしていく面接形式です。構造化面接と非構造化面接の中間に位置し、必要な情報を網羅しつつ、要支援者の個別性を深く理解することができます。
- インテーク面接は、支援の最初の段階で行われる面接です。要支援者からの相談内容を把握し、支援のニーズや目的を確認し、支援の可能性や適切な支援機関へのリファーラル(紹介)を検討します。
- 査定面接は、要支援者の心理状態、問題の背景、適応状況などを詳細に評価するために行われる面接です。心理検査の結果と合わせて、包括的なアセスメントの中心となります。
- 司法面接: 子どもが被害者となる虐待や性犯罪などの事件において、子どもが心的負担なく、正確な証言を引き出すために行われる、専門的な知識と技術を要する面接技法です。法的な証拠収集の目的と、子どもの心理的保護の双方に配慮しながら実施されます。
- 生物心理社会モデル [biopsychosocial model<BPS>]: 人間の健康や疾患を理解する上で、生物学的要因(遺伝、脳機能、身体疾患など)、心理学的要因(思考、感情、行動、パーソナリティなど)、社会文化的要因(家族関係、社会的支援、文化、経済状況など)の三側面が相互に影響し合っていると捉える包括的なモデルです。アセスメントにおいては、このモデルに基づいて多角的な視点から要支援者の問題を理解することが重要です。
(2) 関与しながらの観察
公認心理師は、面接や支援の場面で、要支援者との関わりの中でその行動や表情、言動などを注意深く観察します。
- 自然観察法、実験観察法:
- 自然観察法は、要支援者が日常生活を送る自然な状況下で、その行動や相互作用を観察する方法です。例えば、学校での子どもの行動や、家族間のコミュニケーションの様子などをそのままの状態で観察します。
- 実験観察法は、特定の状況や課題を設定し、その状況下での要支援者の行動や反応を観察する方法です。例えば、特定の課題を与えた際の集中力や問題解決のプロセスを観察するなど、ある程度統制された環境下で行われます。
(3) 心理検査の種類、成り立ち、特徴、意義及び限界
心理検査は、個人の心理的特性を客観的・標準的に測定するための重要なツールです。
- 質問紙法、投影法、描画法、作業検査法:
- 質問紙法は、あらかじめ用意された質問項目に対して、要支援者が回答する形式の検査です。客観的な数値データが得やすく、広範囲の情報を効率的に収集できます(例:MMPI、YG性格検査)。
- 投影法は、曖昧な刺激(例:インクの染み、絵)を提示し、要支援者がそれに意味を投影させることで、無意識的な感情や葛藤、パーソナリティ特性を探る検査です(例:ロールシャッハテスト、TAT)。
- 描画法は、絵を描いてもらうことで、要支援者の心理状態やパーソナリティ、対人関係などを把握する検査です(例:HTPテスト、バウムテスト)。
- 作業検査法は、単純な作業を一定時間行わせ、その作業量や誤り、作業パターンなどから、性格特性や行動傾向を評価する検査です(例:内田クレペリン検査)。
- 神経心理学的検査: 脳の特定の機能(記憶、注意、遂行機能、言語、視空間認知など)の障害の有無や程度を評価するための検査です。脳損傷や認知症の診断、リハビリテーション計画の立案に役立ちます。
- 知能検査、発達検査:
- 知能検査は、個人の知的能力(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度など)を総合的に測定する検査です(例:WAIS、WISC)。
- 発達検査は、子どもの発達段階(運動、認知、言語、社会性など)を評価し、発達の遅れや偏りの有無を把握する検査です(例:新版K式発達検査)。
(4) 心理検査の適用、実施及び結果の解釈
心理検査を適切に活用するためには、その専門的な知識と技術が必要です。
- 実施上の留意点: 心理検査を実施する際には、標準化された手順を厳守すること、検査環境を整えること、要支援者の状態や動機づけに配慮すること、ラポール(信頼関係)を築くことなどが重要です。また、検査者が倫理規定を遵守し、資格を持った者が行う必要があります。
- 心理検査の結果の解釈: 検査結果は単なる数値や記号としてではなく、要支援者の全体像や背景、他の情報と照らし合わせて統合的に解釈する必要があります。検査の限界や、要支援者のその日の体調、検査への態度なども考慮に入れます。
(5) 生育歴等の情報、行動観察、心理検査の結果等の統合と包括的な解釈
アセスメントの最終段階では、面接で得られた生育歴や家族状況、行動観察による情報、そして各種心理検査の結果など、異なる情報源から得られたデータを統合し、要支援者の問題と特性について包括的な理解を形成します。これは、その後の支援計画の立案に直結する最も重要なプロセスです。
(6) 適切な記録、報告、振り返り等
アセスメントの過程と結果は、正確に記録され、関係者に適切に報告される必要があります。
- アセスメント結果のフィードバック: 心理検査やアセスメントの結果を、要支援者本人やその家族、関係者に対して分かりやすく説明することです。専門用語を避け、要支援者の理解度に合わせて、今後の支援に繋がる形で情報を提供します。これは、要支援者の自己理解を深め、支援への主体的な参加を促す上で非常に重要です。
- 適切な記録、報告、振り返り: アセスメントのプロセス、得られた情報、解釈、結論、そして今後の支援計画などを詳細に記録します。これらの記録は、支援の継続性、専門家間の情報共有、そして自己の専門性向上(振り返り)に不可欠です。報告書は、目的と対象に合わせて適切に作成され、秘密保持に配慮しながら共有されます。
学習アドバイス: アセスメントは公認心理師の中心的業務であり、出題割合も高いため、各種検査の特徴や解釈、面接技法を深く理解しましょう。それぞれのツールの長所と短所、そして臨床現場での具体的な適用例をイメージしながら学習を進めることが有効です。複数の情報源を統合的に解釈する視点を持つことが重要です。
2.15 心理に関する支援(相談、助言、指導その他の援助) (約9%)
「心理に関する支援」は、公認心理師の業務の中核を成し、要支援者の抱える心理的な問題に対し、専門的な知識と技術を用いて、相談、助言、指導、その他の援助を行うことを指します。この項目は、公認心理師が現場で実践する多様な支援方法とその基盤となる考え方を深く理解しているかを問うものであり、出題割合も高いため、重点的な学習が必要です。
(1) 代表的な心理療法並びにカウンセリングの歴史、概念、意義及び適応
心理療法とカウンセリングは、要支援者の心の健康を回復・増進させるための主要な介入手段です。
- 心理療法: 心理療法は、心理学的な理論と技法に基づいて、心の病や問題を抱える人々の苦痛を軽減し、適応能力を高め、自己成長を促すことを目的とした専門的な治療的介入です。多様なアプローチが存在し、それぞれ異なる人間観や問題観に基づいています。
- 心理力動理論、認知行動理論、人間性アプローチ、集団療法:
- 心理力動理論: ジークムント・フロイトの精神分析に端を発し、無意識の葛藤や幼少期の経験が現在の心理的問題に影響を与えていると捉えます。過去の経験や無意識の動機を探索し、洞察を深めることで問題解決を目指します。
- 認知行動理論: 不適応な思考パターン(認知)や行動が心理的問題を引き起こしていると考え、それらを修正することで問題の解決を図ります。具体的な行動の変容や、思考の歪みの修正に焦点を当てます。
- 人間性アプローチ: カール・ロジャーズの来談者中心療法などが代表的で、人間の自己成長力や自己実現傾向を重視します。カウンセラーの共感的理解、無条件の肯定的配慮、自己一致(純粋性)といった態度を通じて、クライエント自身の成長を促すことを目指します。
- 集団療法: 複数人を対象として、集団力学や相互作用を活用しながら行われる心理療法です。集団内での体験を通して、自己理解を深めたり、対人関係スキルを向上させたりすることを目指します。
(2) 訪問による支援や地域支援の意義
公認心理師の支援は、来談形式だけでなく、要支援者の生活の場に出向いたり、地域全体を視野に入れたりするアプローチも重要です。
- アウトリーチ(多職種による訪問支援): 要支援者が自ら支援機関にアクセスすることが困難な場合に、心理師や他の専門職が要支援者の自宅や地域に出向いて支援を提供することです。これにより、支援が必要な人に届きやすくなり、より現実的な文脈で支援を行うことが可能になります。
- 緩和ケア、終末期ケア(グリーフケアを含む。):
- 緩和ケア: がんなどの生命を脅かす病気を持つ患者とその家族に対し、身体的苦痛だけでなく、心理的、社会的、スピリチュアルな苦痛を和らげ、生活の質(QOL)を向上させることを目的としたケアです。
- 終末期ケア: 生命の終末期にある人々に対し、尊厳を保ちながら穏やかに最期を迎えられるよう支援するケアです。
- グリーフケア: 死別などによる深い悲嘆(グリーフ)を抱える人々に対し、その感情を理解し、健康的な悲嘆プロセスを支える支援です。
- 自殺予防: 自殺の危険性が高い要支援者に対し、その命を守るための緊急的・継続的な支援を行います。自殺念慮の評価、危機介入、安全確保、関係機関との連携、家族支援などが含まれます。
- 災害時における支援: 地震や豪雨などの災害発生時、被災者の心的外傷(トラウマ)や精神的苦痛を軽減し、心の健康を維持するための心理的支援です。心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド)や継続的な心のケアが重要となります。
- 地域包括ケアシステム: 高齢者が住み慣れた地域で、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に提供される体制を構築することを目指すシステムです。公認心理師もこのシステムの中で、高齢者の心の健康支援に貢献します。
- コミュニティ・アプローチ、コンサルテーション:
(3) 要支援者の特性や状況に応じた支援方法の選択、調整
支援は、画一的に行われるのではなく、要支援者一人ひとりの個別性を尊重し、最適化される必要があります。
- 援助要請: 要支援者が自らの意思で支援を求める行動のことです。公認心理師は、援助要請の背景にある感情やニーズを理解し、尊重することが重要です。
- カウンセリング、転移、逆転移:
- カウンセリング: 要支援者の抱える悩みや問題に対し、対話を通じて解決をサポートする専門的な対人援助です。
- 転移: 要支援者が、過去の重要な人物(例:親)に対する感情や態度を、無意識のうちにカウンセラーに向ける現象です。
- 逆転移: カウンセラーが、要支援者に対して、自身の過去の経験や感情を無意識のうちに投影し、特定の感情や反応を抱く現象です。これらを認識し、適切に扱うことがカウンセリングの質を高める上で重要ですし、倫理的な問題にもつながりえます。
- エビデンスベイスト・アプローチ: 科学的な研究によって効果が実証された介入方法や理論(エビデンス)に基づいて、支援の計画と実施を行うことです。これにより、支援の質の向上と効果の最大化を目指します。
- 生物心理社会モデル [biopsychosocial model<BPS>]: 要支援者の問題を、生物学的(身体、遺伝)、心理学的(思考、感情、行動)、社会学的(環境、文化、人間関係)の三つの側面から総合的に理解し、アセスメントと介入を行う枠組みです。
- エンパワメント: 要支援者自身が持つ力や資源を最大限に引き出し、自己決定能力や問題解決能力を高めることを支援することです。要支援者が主体的に問題に取り組み、自らの人生をコントロールできるようになることを目指します。
- ナラティブ・アプローチ、ストレングス:
- ナラティブ・アプローチ: 要支援者の抱える問題や経験を、その人が語る「物語(ナラティブ)」として捉え、その物語の再構築を通じて問題解決を図るアプローチです。問題に焦点を当てるのではなく、要支援者の語りを重視します。
- ストレングス: 要支援者が持つ強み、資源、能力、美点など、ポジティブな側面を指します。問題を解決するためには、弱点だけでなく、ストレングスを活かす視点が重要です。
(4) 良好な人間関係構築のためのコミュニケーション
支援の基盤となるのは、公認心理師と要支援者の間に築かれる信頼関係です。
- 共感的理解、傾聴、作業同盟:
- 共感的理解: 要支援者の感情や考えを、その人の立場に立って理解しようとすることです。
- 傾聴: 要支援者の話を注意深く、積極的に聞くことです。単に言葉を聞くだけでなく、非言語的なメッセージや隠された意味にも耳を傾けます。
- 作業同盟: カウンセラーとクライエントが、共通の目標に向かって協力し、協働する関係性のことです。信頼に基づいたこの関係が、効果的な支援の基盤となります。
(5) 心理療法及びカウンセリングの適用の限界
心理療法やカウンセリングは強力なツールですが、その効果には限界もあります。
- 効果研究、メタ分析:
- 効果研究: 心理療法やカウンセリングが、特定の症状や問題に対してどれほどの効果があるかを科学的に検証する研究です。
- メタ分析: 複数の独立した効果研究の結果を統計的に統合し、より客観的かつ包括的な効果量を算出する分析手法です。これにより、特定の心理療法の全体的な有効性を評価できます。
- 動機づけ面接: 変化への抵抗がある要支援者に対して、内的な動機づけを引き出し、行動変容を促すための面接技法です。共感、不協和の展開、抵抗への対処、自己効力感の支持などを通じて行われます。
- 負の相補性<negative-complementarity>: 対人関係において、一方が極端な行動を取ると、もう一方がその行動をさらに強化するような行動(例えば、依存的な行動に対して過保護な行動で応じる)を取ることで、不健全な関係性が固定化されてしまう状態を指します。カウンセリングにおいて、このようなパターンを認識し、介入することが重要となります。
(6) 要支援者等のプライバシーへの配慮
要支援者からの信頼を得るためには、プライバシーの保護が不可欠です。
- 個人情報の保護に関する法律<個人情報保護法>:個人情報の適正な取り扱いを定めた法律です。公認心理師は、この法律に基づき、要支援者の個人情報を収集、利用、保管、提供する際に厳格な配慮が求められます。
- 個人の尊厳と自己決定の尊重、インフォームド・コンセント:
- 個人の尊厳と自己決定の尊重: 要支援者を一人の人間として尊重し、その意思や選択を最大限に尊重する姿勢です。支援の過程において、要支援者自身が主体的に意思決定できるようサポートします。
- インフォームド・コンセント: 前述の通り、支援や介入の前に、目的、内容、リスクなどを十分に説明し、要支援者の同意を得るプロセスです。これは、自己決定の尊重の具体的な現れです。
学習アドバイス: 各心理療法の理論と技法、そして適用範囲と限界を理解しましょう。特に、心理療法とカウンセリングの多様性を把握し、それぞれの特徴を比較して理解することが重要です。また、地域連携と多職種連携を意識した支援や、倫理的な問題(転移、逆転移、多重関係、秘密保持など)への対応についても、具体的なケースを想定しながら学習を進めましょう。
2.16 健康・医療に関する心理学 (約9%)
健康・医療に関する心理学は、身体の健康と心の状態がどのように相互に影響し合うかを研究し、医療現場や地域保健活動において心理的な側面から支援を行う分野です。公認心理師は、疾病の予防、治療、リハビリテーション、そして患者とその家族のQOL向上に貢献します。
(1) ストレスと心身の疾病との関係
ストレスは、心身に様々な影響を及ぼし、時には疾病の発症や悪化に繋がることがあります。
- 生活習慣と心の健康 (生活習慣病、ストレス反応): 不適切な食生活、運動不足、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣は、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、心の健康にも影響を及ぼします。ストレスが長期的に続くと、心拍数の増加、血圧の上昇、免疫機能の低下などの「ストレス反応」が生じ、これが生活習慣病の悪化や精神的な不調に繋がることがあります。
- ライフサイクルと心の健康: 人生には、就職、結婚、出産、子育て、昇進、定年退職、死別など、様々なライフイベントがあります。これらのライフイベントは、多くの場合ストレスを伴い、心の健康に大きな影響を与える可能性があります。各ライフステージで特有の心理的課題と、それに対応する心の健康の保持増進策を理解することが重要ですされます。
- ストレス症状(うつ症状、依存、燃え尽き症候群<バーンアウト>を含む。): ストレスが過剰になったり、長期化したりすると、様々な心身の症状が現れます。
- うつ症状: 気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、意欲低下、不眠、食欲不振などです。
- 依存: アルコール、薬物、ギャンブル、インターネットなどへの過度な執着と使用で、コントロールが困難になる状態です。ストレス対処のために依存に陥るケースもあります。
- 燃え尽き症候群<バーンアウト>:仕事などに対する過度のストレスや疲労により、意欲喪失、感情の枯渇、無力感などが生じる状態です。特に、対人援助職で多く見られます。
- 心身症(タイプA型行動パターン、アレキシサイミア<失感情症>を含む。): 心身症は、心理的・社会的ストレスが身体症状として現れる疾患で、身体的な病態が認められるにもかかわらず、その発症や経過に心理的要因が深く関与していると診断されるものです。
- タイプA型行動パターン: 競争心が強く、せっかちで、常に時間に追われているような行動パターンで、心臓病との関連が指摘されています。
- アレキシサイミア<失感情症>:自分の感情を認識したり表現したりすることが苦手な状態です。感情を適切に処理できないことが、心身の不調に繋がりやすいとされます。
- 予防の考え方 (Caplan モデル): G.キャプランが提唱した精神保健の予防モデルは、問題を未然に防ぐためのアプローチです。
- 一次予防: 問題の発生そのものを予防すること(例:ストレスマネジメント教育、心の健康に関する情報提供)です。
- 二次予防: 問題を早期に発見し、早期に介入することで、重症化を防ぐこと(例:早期スクリーニング、早期相談)です。
- 三次予防: 問題が重症化した後に、機能回復や再発防止、生活の質の向上を目指すこと(例:リハビリテーション、社会復帰支援)です。
(2) 医療現場における心理社会的課題と必要な支援
医療現場では、身体的な治療だけでなく、患者やその家族が抱える心理的・社会的な課題への対応が求められます。
- 精神疾患: 医療現場、特に精神科では、うつ病、統合失調症、不安症、パーソナリティ障害など様々な精神疾患の診断と治療が行われます。公認心理師は、心理的アセスメントや心理療法を通じて、これらの疾患を持つ患者を支援します。
- 遺伝性疾患、遺伝カウンセリング: 遺伝が関わる疾患を持つ患者や家族は、診断や治療、将来への不安など、様々な心理的負担を抱えます。遺伝カウンセリングは、遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが、患者や家族に遺伝に関する情報を提供し、心理的支援を行いながら、彼らが自らの意思で意思決定できるようサポートします。公認心理師は、その心理的側面から関与することがあります。
- がん、難病: がんや難病といった重篤な病気を持つ患者は、病気による身体的苦痛だけでなく、診断の衝撃、治療の副作用、再発・進行への不安、生活の変化など、多様な心理社会的苦痛に直面します。公認心理師は、患者の感情を支え、不安や抑うつへの介入、疼痛コントロールへの心理的アプローチ、家族支援などを行います。
- 後天性免疫不全症候群<AIDS>: HIV感染症やAIDSを持つ人々は、病気自体の問題に加え、スティグマ(偏見や差別)、秘密保持の困難さ、将来への不安など、特有の心理社会的課題を抱えます。公認心理師は、心理的カウンセリングや情報提供を通じて、これらの課題への対処を支援します。
- 医療倫理、医療安全、感染対策: 医療現場における倫理的な問題(例:インフォームド・コンセント、自己決定権、プライバシー)は、公認心理師の業務にも深く関わります。また、医療安全は、医療事故を未然に防ぎ、患者の安全を確保するための取り組みであり、ヒューマンエラーの心理学的分析なども含まれます。感染対策も、患者と医療従事者の安全を守る上で重要です。
- チーム医療と多職種連携の実践: 医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、医療ソーシャルワーカーなど多様な専門職が連携し、患者中心の医療を提供することです。公認心理師は、患者の心理的側面からのアセスメントや介入、家族支援を通じて、チームの一員として貢献します。
- リエゾン精神医学<精神科コンサルテーション>:リエゾン精神医学は、精神科以外の診療科に入院・通院している患者に対して、精神科医や公認心理師が精神医学的・心理的なコンサルテーション(相談・助言)を行う分野です。身体疾患に伴う精神症状や、心理的要因が身体疾患に影響している場合などに、専門的な視点から支援を行います。
- QOL&<quality of life>:生活の質を意味し、患者の身体的健康だけでなく、精神的、社会的、経済的、スピリチュアルな側面を含めた、その人らしい充実した生活を送れているかを総合的に評価する概念です。公認心理師は、患者のQOL向上を重要な目標として支援を行います。
(3) 保健活動における心理的支援
地域社会での保健活動においても、公認心理師は住民の心の健康の保持増進に貢献します。
- 発達相談: 乳幼児期から児童期にかけての子どもの発達の遅れや偏り、行動上の問題などに関する相談に応じ、保護者への助言や適切な機関への紹介を行います。
- うつ、自殺対策、職場復帰支援:
- うつ: 地域住民のうつ病やうつ症状に対する相談、早期発見、心理的支援、専門機関への連携などを行います。
- 自殺対策: 自殺のハイリスク者への介入、ゲートキーパー養成、地域での啓発活動などを通じて、自殺を未然に防ぐ取り組みを行います。
- 職場復帰支援: 休職した労働者が職場に円滑に復帰できるよう、心理的な側面からサポートします。復職後の再発予防に向けた支援も含まれます。
- 依存症(薬物、アルコール、ギャンブル): 薬物、アルコール、ギャンブルなどへの依存問題を抱える個人や家族に対し、カウンセリング、心理教育、自助グループへの紹介などを通じて、回復を支援します。
- 認知症高齢者、ひきこもり:
- 認知症高齢者: 認知症の診断を受けた高齢者やその家族に対し、心理的アセスメント、症状への対処法、介護者の心理的負担軽減、地域での生活支援などを行います。
- ひきこもり: 社会参加を拒否し、長期間にわたり自宅に閉じこもる状態にある個人やその家族に対し、居場所づくり、相談支援、社会復帰に向けた心理的サポートなどを提供します。
- 妊娠・出産・育児: 妊娠中の女性の不安、産後うつ、育児ストレスなど、妊娠・出産・育児に伴う様々な心理的課題に対する支援を行います。
(4) 災害時等の心理的支援
災害発生時には、被災者の心の健康を守るための迅速かつ専門的な心理的支援が求められます。
- 被災者の心身の反応: 災害に遭った人々は、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、不安症などの精神的な問題だけでなく、不眠、食欲不振、身体的症状などの心身の反応を示すことがあります。
- 被災者への支援、心理的応急処置<サイコロジカル・ファーストエイド>:
- 被災者への支援: 災害発生直後から長期にわたる心のケアを提供します。安全の確保、ニーズの把握、情報提供、傾聴、感情の安定化、専門機関への接続などが含まれます。
- 心理的応急処置<サイコロジカル・ファーストエイド>:災害や危機的出来事の直後に行われる、心理的な支援の初期段階です。訓練を受けた支援者が、被災者に寄り添い、安全感の提供、落ち着きを取り戻す手助け、情報収集と提供、社会的支援への接続を促します。
- 医療・保健領域の災害支援チーム: 災害発生時に被災地へ派遣され、医療や保健に関する支援活動を行う専門家チームです。公認心理師もDMAT(災害派遣医療チーム)やDPAT(災害派遣精神医療チーム)の一員として活動します。
- 支援者のケア: 災害現場で活動する医療従事者や支援者は、過酷な状況下で二次受傷(他者の苦痛に接することで自身も心的ダメージを受けること)のリスクに晒されます。公認心理師は、これらの支援者のメンタルヘルスを維持するためのケア(ストレスマネジメント、デブリーフィングなど)も行います。
学習アドバイス: ストレスと疾病の関係、医療現場特有の課題、保健活動や災害時の支援について具体例と共に理解しましょう。各分野での公認心理師の役割や、具体的な支援方法を把握することが重要ですげられています。特に、チーム医療や多職種連携における心理職の貢献について深く考察しましょう。
2.17 福祉に関する心理学 (約9%)
福祉に関する心理学は、人々が尊厳を保ち、その人らしい生活を送れるよう支援する福祉の場で、公認心理師が果たす役割と必要な知識・技能を扱います。高齢者、障害者、子どもなど、多様な対象者が抱える心理社会的課題を理解し、適切な支援を提供することが求められます。
(1) 福祉現場において生じる問題とその背景
福祉の現場では、対象者の特性や社会状況に起因する様々な問題に直面します。
- 障害者福祉の対象と問題(身体障害、知的障害、発達障害、精神障害、高次脳機能障害):
- 身体障害: 身体機能の一部または全体に永続的な障害がある状態です。移動やコミュニケーション、日常生活動作に困難を抱えることがあります。
- 知的障害: 知的機能と適応行動の両方に発達期から有意な制限がある状態です。学習や社会生活への適応に支援を要します。
- 発達障害: 生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、行動や認知、社会性などに特性が見られる障害の総称です。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症などが含まれます。
- 精神障害: 精神疾患によって、思考、感情、行動などに長期的な支障をきたし、社会生活に困難を抱える状態です。
- 高次脳機能障害: 脳の損傷によって、記憶、注意、遂行機能、言語、社会的行動などの高次認知機能に障害が生じる状態です。
- 児童福祉の対象と問題(要保護児童、養育困難、児童虐待):
- 要保護児童: 保護者のない児童、または保護者に監護させることが不適当と認められる児童を指します。
- 養育困難: 保護者が、経済的・精神的・身体的な理由などから、子どもの養育を適切に行うことが困難な状況です。
- 児童虐待: 保護者が子どもに対して行う、身体的、心理的、性的虐待やネグレクトを指し、子どもの心身の健全な発達を阻害する行為です。
- 高齢者福祉の対象と問題(MCI、認知症、要介護、閉じこもり、フレイル):
- MCI(軽度認知障害): 認知機能の一部に軽度の低下があるものの、日常生活には支障がない状態です。認知症の前段階とされ、早期発見と介入が重要です。
- 認知症: 脳の疾患によって、記憶、思考、判断などの認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態です。
- 要介護: 身体上または精神上の障害により、日常生活において常時介護を必要とする状態です。
- 閉じこもり: 高齢者が社会との交流を断ち、自宅に引きこもる状態です。活動性の低下や孤立に繋がり、心身の健康を損なうリスクがあります。
- フレイル: 加齢に伴って、身体的・精神的・社会的な活力が低下し、要介護状態となる危険性が高い状態です。早期の介入で進行を予防できる可能性があります。
- 社会福祉の歴史と動向・基本理念: 社会福祉は、社会的に弱い立場にある人々を支援し、社会全体の幸福と安定を目指す取り組みです。その歴史は貧困対策から始まり、戦後の経済成長を経て、多様な福祉サービスの提供へと発展してきました。基本理念としては、個人の尊厳の尊重、ノーマライゼーション(障害の有無にかかわらず誰もが地域で普通に暮らすこと)、自立支援、社会参加の促進などが挙げられます。
- 社会福祉を担う機関・施設: 児童相談所、福祉事務所、地域包括支援センター、高齢者施設、障害者支援施設、保育所、放課後児童クラブなど、多岐にわたる機関や施設が社会福祉サービスを提供しています。それぞれの機関・施設が持つ機能と役割を理解することが重要です。
- 関連する家庭・社会状況(少子高齢化、超高齢社会、貧困・低所得、一人親世帯、単身世帯、地域関係の希薄化、離婚・再婚家庭、外国籍の子ども、夫婦間暴力<IPV>): これらの社会状況は、福祉サービスのニーズを高め、複雑化させる背景となっています。
- 少子高齢化、超高齢社会: 介護ニーズの増加、生産年齢人口の減少など、社会保障制度に大きな影響を与えます。
- 貧困・低所得: 生活困窮、教育格差、健康問題など、様々な福祉課題を引き起こします。
- 一人親世帯、単身世帯: 経済的・精神的サポートの不足、社会的孤立のリスクが高まります。
- 地域関係の希薄化: 相互扶助機能の低下、孤立死のリスクなど、地域コミュニティの課題となっています。
- 離婚・再婚家庭、外国籍の子ども: 家族関係の複雑化、文化や言語の壁など、特有の心理社会的課題を抱えることがあります。
- 夫婦間暴力<IPV>: 夫婦やパートナー間での暴力は、被害者だけでなく子どもにも深刻な影響を与えます。
(2) 福祉現場における心理社会的課題と必要な支援方法
福祉現場では、個別の支援対象者が抱える心理的課題と、それらに対する多様な支援方法が求められます。
- 倫理的問題(尊厳、権利擁護・アドボカシー、意思決定支援・意見表明権):
- 尊厳: 支援対象者を一人の人間として尊重し、その価値や権利を認めることです。
- 権利擁護・アドボカシー: 支援対象者の権利が侵害されないよう擁護し、その意思や利益を代弁することです。
- 意思決定支援・意見表明権: 支援対象者が自らの意思で重要な決定を行えるよう、情報提供や選択肢の整理、感情の整理などをサポートすることです。特に、知的障害や認知症のある方の場合、その意思を最大限に尊重し引き出す支援が重要です。
- 本人の心理社会的課題 (抑うつ、不安、孤立、ひきこもり、閉じこもり、生活困窮、独居困難、施設入所体験、親との分離体験): 支援を必要とする人々が抱える心理的困難は多岐にわたります。これらは個別の支援目標を設定する上で重要な要素となります。
- 家族・関係者の心理社会的問題(育児ストレス、介護うつ、燃え尽き症候群<バーンアウト>、離職・人手不足、二次的外傷): 支援対象者を支える家族や支援者自身もまた、心理的負担を抱えることがあります。公認心理師は、これらの家族・関係者への支援も視野に入れる必要があります。
- 育児ストレス: 子育てに伴う心理的・身体的負担です。
- 介護うつ: 家族の介護を行うことによる精神的負担から生じるうつ状態です。
- 燃え尽き症候群<バーンアウト>: 過度のストレスや疲労により、意欲喪失、感情の枯渇などが生じる状態です。
- 離職・人手不足: 福祉現場における慢性的な課題であり、支援の質の低下や支援者の負担増に繋がります。
- 二次的外傷: 支援者が、他者のトラウマティックな経験に接することで、自身も心的ダメージを受けることです。
- 福祉現場における支援の基本(ソーシャル・インクルージョン、エコロジカル・モデル<生態学的モデル>、多職種連携・協働、コンサルテーション、コラボレーション):
- ソーシャル・インクルージョン: 誰もが社会のあらゆる活動に参加し、排除されない社会を目指す考え方です。
- エコロジカル・モデル<生態学的モデル>:個人をその周囲の環境システム(家族、学校、地域、文化など)との相互作用の中で捉え、問題の原因と支援方法を考えるモデルです。
- 多職種連携・協働: 医師、ソーシャルワーカー、介護士、教師など、多様な専門職が連携し、それぞれの専門性を活かして支援対象者を包括的にサポートすることです。
- コンサルテーション: 心理専門職が、他の専門職や機関に対して、心理的な知見を提供し、その支援能力の向上を助ける活動です。
- コラボレーション: 複数の専門職や機関が、共通の目標に向かって対等な立場で協力し合うことです。
- 心理的アセスメント(発達、メンタルヘルス、家族関係、認知機能): 福祉現場においても、支援対象者の発達段階、精神状態、家族間の力動、認知機能などを把握するための心理的アセスメントが重要です。適切なアセスメントが、個別支援計画の基盤となります。
- 心理的手法を用いた支援 (カウンセリング、ソーシャル・スキルズ・トレーニング<SST>、認知リハビリテーション、心理教育、回想法、遊戯療法、芸術療法、家族支援・家族療法):
- カウンセリング: 対話を通じて、要支援者の悩みや問題の解決をサポートします。
- ソーシャル・スキルズ・トレーニング<SST>:対人関係を円滑に進めるための具体的なスキルを習得する訓練です。
- 認知リハビリテーション: 記憶、注意、遂行機能などの認知機能の改善を目指す訓練です。
- 心理教育: 精神疾患や心理的問題に関する正しい知識を、本人や家族に提供し、理解を深めてもらうことで、対処能力を高め、スティグマを軽減することを目指します。
- 回想法: 高齢者支援で用いられ、過去の経験を回想し語り合うことで、精神の安定や自己肯定感の向上を図る手法です。
- 遊戯療法: 子どもを対象に、遊びを通じて感情を表現したり、心の葛藤を解決したりする心理療法です。
- 芸術療法: 絵画、音楽、ダンスなどの芸術表現を通じて、自己表現を促し、心の回復を図る心理療法です。
- 家族支援・家族療法: 家族全体の機能改善や、家族関係の円滑化を目指す支援や心理療法です。
- 施設・制度を活用した支援[社会的養護(施設養護・里親制度)、子育て支援、セルフヘルプグループ、地域包括支援センターとの連携、就労支援、生活保護、配偶者暴力相談支援センター]:
- 社会的養護: 保護者のいない、または保護者から適切な養育を受けられない子どもを社会が養育する制度です。施設養護(児童養護施設など)と里親制度があります。
- 子育て支援: 妊娠・出産から子育て期全般にわたる親への相談・情報提供、一時預かりなど、多様な支援を指します。
- セルフヘルプグループ: 共通の課題や経験を持つ人々が自発的に集まり、相互に支え合うグループです。
- 地域包括支援センターとの連携: 地域包括ケアシステムの中心的な役割を担う地域包括支援センターと連携し、高齢者やその家族への支援を行います。
- 就労支援: 障害者や生活困窮者などが社会の中で働き続けることができるようサポートします。
- 生活保護: 生活に困窮する国民に対し、最低限度の生活を保障する制度です。
- 配偶者暴力相談支援センター: 配偶者からの暴力(DV)に悩む被害者の相談に応じ、保護や自立を支援する機関です。
(3) 虐待、認知症に関する必要な支援
福祉現場で特に重要視されるテーマとして、虐待と認知症への対応があります。
- 虐待の定義・分類・動向と背景: 虐待は、児童虐待、高齢者虐待、障害者虐待など、様々な対象に存在し、身体的、心理的、性的、ネグレクト、経済的など多様な形態があります。その定義、分類、発生動向、そして背景にある社会経済的要因や個人の特性を理解することが、適切な対応の出発点となります。
- 虐待対応の仕組みと通告・相談: 虐待が疑われる、または発見された場合、児童相談所や市町村の担当部署への通告・相談が義務付けられています。通告後の調査、保護、支援計画の策定といった一連の仕組みを理解することが重要です。
- 虐待が与える心理・発達的影響(心的外傷後ストレス障害 PTSD>、愛着・アタッチメントの課題、脳や心身の発達への影響): 虐待は、被害者の心身に深刻かつ長期的な影響を及ぼします。
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD): 虐待のような強いトラウマ体験の後に生じる、再体験、回避、感情麻痺、過覚醒などの症状です。
- 愛着・アタッチメントの課題: 安定した養育関係が築かれなかった場合、他者との関係構築に困難を抱えることがあります。
- 脳や心身の発達への影響: 慢性的ストレスやトラウマが、脳の発達(特に前頭前野や扁桃体など)や、身体の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
- 被虐待児(者)への支援 [被虐待児(者)への心理療法、生活の中の治療、リービングケア、教育機関・関係機関との連携]:
- 被虐待児(者)への心理療法: トラウマケア、感情調整スキルの習得、自己肯定感の回復などを目的とした心理療法を行います。
- 生活の中の治療: 日常生活の場(例:児童養護施設)全体を治療的な環境として捉え、職員との関わりや日々の活動を通じて心理的な回復を促すアプローチです。
- リービングケア: 施設退所後の生活を見据え、自立に必要なスキルや社会資源への接続を支援するものです。
- 教育機関・関係機関との連携: 学校や地域の子ども食堂など、様々な機関と連携し、被虐待児の学習や社会生活への適応を支援します。
- 虐待者の心理と支援・再発予防: 虐待を行う側の心理的背景(ストレス、孤立、発達的課題、精神疾患など)を理解し、再発を防ぐための心理的支援やソーシャルサポート、ペアレント・トレーニングなどを提供します。
- 家族支援・親子関係再構築支援: 虐待ケースでは、虐待関係からの分離と、安全が確保された中での親子関係の再構築を支援することが重要です。
- 虐待の発生予防と在宅支援: 虐待を未然に防ぐための地域住民への啓発活動や、子育て支援、困難を抱える家庭への早期介入などを行います。また、在宅での支援(訪問支援、アウトリーチなど)を通じて、虐待のリスクを低減します。
- 認知症の概念・定義・分類・動向: 認知症が、脳の疾患によって記憶、思考、判断などの認知機能が持続的に低下し、日常生活に支障をきたす状態であることを理解します。アルツハイマー型認知症、血管性認知症などの分類があり、その発生動向や社会的な影響についても学びます。
- 代表的な認知症疾患(Alzheimer 型認知症、血管性認知症、Lewy小体型認知症、前頭側頭型認知症、治療可能な認知症):
- Alzheimer 型認知症: 認知症の最も多いタイプで、脳の神経細胞が変性・脱落することで進行性の認知機能低下が生じます。
- 血管性認知症: 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって生じる認知症です。
- Lewy小体型認知症: レビー小体という特殊なタンパク質が脳内に蓄積することで、認知機能障害に加え、パーキンソン症状や幻視などが現れることがあります。
- 前頭側頭型認知症: 前頭葉や側頭葉の萎縮により、人格変化や脱抑制、常同行動などが顕著に現れる認知症です。
- 治療可能な認知症: 甲状腺機能低下症や正常圧水頭症など、原因疾患の治療によって認知症症状が改善する可能性があるタイプです。
- 心理学的支援(回想法、認知リハビリテーション、心理教育、芸術療法、介護者支援、パーソンセンタード・ケア):
- 回想法: 高齢者が過去の経験を語り合うことで、精神の安定や自己肯定感の向上を図る心理療法です。
- 認知リハビリテーション: 認知機能の維持・向上を目指す訓練です。
- 心理教育: 認知症の本人や家族に、病気に関する知識や対処法を提供します。
- 芸術療法: 絵画や音楽などを通じて自己表現を促し、感情の安定を図ります。
- 介護者支援: 認知症患者を介護する家族の心理的負担を軽減するためのカウンセリングやグループ支援です。
- パーソンセンタード・ケア: 認知症の本人を「一人の人」として尊重し、その人の個性や価値観、ニーズを理解し、その人らしく生きることを支えるケアの理念です。
- 本人・家族・介護者の心理: 認知症は本人だけでなく、その家族や介護者にも大きな心理的負担をかけます。診断への衝撃、今後の不安、介護疲れ、葛藤など、それぞれの立場の心理を理解し、適切なサポートを行うことが重要です。
学習アドバイス: 福祉分野は対象が広く、関連法規も多いため、主要な制度と支援方法を体系的に理解することが重要です。各障害の特性や、高齢者の加齢に伴う変化を具体的に把握し、それに応じた支援方法を多角的に学ぶことが求められます。特に虐待と認知症は、その定義、影響、そして支援の具体例を詳細に理解しましょう。
2.18 教育に関する心理学 (約9%)
教育に関する心理学は、学習者の発達、学習プロセス、教育環境、そして学校現場で生じる様々な心理社会的問題に焦点を当てます。公認心理師は、子どもたちの健やかな成長と学習を支援し、学校全体が心の健康を育む場となるよう貢献します。
(1) 教育現場において生じる問題とその背景
学校は子どもたちが多くの時間を過ごし、発達していく重要な場所ですが、そこでは学習や人間関係、様々な社会背景に起因する多様な問題が生じます。
- 動機づけ、自己効力感、原因帰属:
- 動機づけ: 学習者が学習行動を開始し、維持し、目標達成へと向かう心の状態やエネルギーのことです。内発的動機づけ(知的好奇心など)と外発的動機づけ(報酬など)があります。
- 自己効力感: 特定の行動や課題を成功裏に遂行できるという自分自身の能力に対する信念のことです。自己効力感が高いと、困難な課題にも積極的に挑戦し、粘り強く取り組む傾向があります。
- 原因帰属: 成功や失敗などの出来事の原因を何に求めるかという心の働きです。例えば、テストで良い点が取れた時、自分の努力(内的・安定)に帰属するか、たまたま運が良かった(外的・不安定)に帰属するかで、次の学習行動に影響を与えます。
- 適性処遇交互作用: 学習者の「適性」(学習スタイル、認知能力、パーソナリティなど)と、教育的「処遇」(指導方法、教材、学習環境など)との間に、最適な組み合わせが存在するという考え方です。学習者の個性に応じた指導の重要性を示唆します。
- 学力、学習方略、アクティブラーニング:
- 学力: 学習によって習得される知識、技能、思考力、判断力、表現力などの総合的な能力です。
- 学習方略: 学習を効果的に進めるための具体的な方法や技術です。例えば、記憶術、ノートの取り方、時間管理などが含まれます。
- アクティブラーニング: 学習者が能動的に学習に参加し、思考力や表現力、問題解決能力などを養うことを重視する学習方法です。グループワーク、ディスカッション、PBL(問題解決型学習)などが含まれます。
- 不登校、いじめ、非行:
- 不登校: 病気や経済的理由以外の要因で、年間30日以上学校を欠席する状況を指します。背景には、人間関係、学習のつまずき、家庭環境など多様な要因があります。
- いじめ: 特定の児童生徒が、他の児童生徒から、心身の苦痛を与える行為を継続的に受けることです。被害者の心身に深刻な影響を与えます。
- 非行: 少年が法に触れる行為や、健全な社会生活を阻害する行為を行うことです。家庭環境、友人関係、学習状況など、複数の要因が絡み合って生じます。
- 生徒指導、進路指導、キャリアガイダンス:
- 生徒指導: 生徒一人ひとりの個性や発達段階に応じ、学校生活における規範意識や社会性を育み、自立を促す指導です。
- 進路指導: 生徒の興味・関心、適性、能力などを踏まえ、将来の進路選択を支援する指導です。
- キャリアガイダンス: 生涯にわたるキャリア形成を支援するために、職業観や勤労観を育み、自己理解や職業理解を深める指導です。
- 学校文化、教師-生徒関係:
- 学校文化: その学校に特有の慣習、価値観、規範、雰囲気などを指します。学校文化は、生徒や教師の行動、学習環境に大きな影響を与えます。
- 教師-生徒関係: 教師と生徒の間の信頼関係や相互作用の質です。良好な関係は、学習意欲や学校適応を高めます。
(2) 教育現場における心理社会的課題と必要な支援
学校現場で生じる様々な問題に対して、公認心理師は専門的な心理学的知見と技術を用いて多様な支援を提供します。
- 特別支援教育: 障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて、適切な教育を行うことです。通常の学級での個別指導(通級指導)や、特別支援学級、特別支援学校など、多様な教育の場と支援形態があります。
- スクールカウンセリング: 学校に配置されたスクールカウンセラー(公認心理師など)が、児童生徒や保護者、教職員からの相談に応じ、心理的な問題の解決や心の健康の保持増進を支援する活動です。
- 教育関係者へのコンサルテーション: スクールカウンセラーなどが、教職員に対して、児童生徒の心理的課題への対応方法、学級運営、保護者対応などについて、専門的な知識や助言を提供する活動です。直接的な支援ではなく、教職員の支援能力を高めることを目的とします。
- コラボレーション: 複数の専門職や機関(例:スクールカウンセラー、養護教諭、スクールソーシャルワーカー、医療機関)が、共通の目標に向かって対等な立場で協力し合うことです。複合的な問題を抱える児童生徒への支援において特に重要です。
- 学校におけるアセスメント: 児童生徒の心理状態、学習状況、発達特性、家庭環境などを把握するために行われる心理的評価です。面接、観察、心理検査などを組み合わせて実施され、個別支援計画の策定に役立てられます。
- 学校危機支援: いじめによる自殺、災害、大規模な事故など、学校全体に大きな影響を与える危機的出来事が発生した際に、児童生徒、保護者、教職員の心のケアや、学校機能の早期回復を支援する活動です。
- チーム学校: 教師だけでなく、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、地域人材など、多様な専門性を持つ人々が連携し、学校全体として子どもたちを支援する体制を指します。
- 学生相談: 大学や専門学校などの高等教育機関において、学生が抱える学業、進路、人間関係、心の健康に関する問題に対して、心理専門職が相談に応じ、支援を提供する活動です。
- 教育評価: 学習者の学力や学習成果、教育プログラムの効果などを客観的に測定・評価することです。テスト、ポートフォリオ、パフォーマンス評価など、多様な方法があります。
- 教職員のメンタルヘルス: 教職員が抱えるストレス、バーンアウト、精神疾患などに対して、相談支援、ストレスマネジメント研修、職場環境改善への提言などを通じて、心の健康をサポートすることです。教職員の心の健康は、子どもたちへの教育の質にも影響します。
学習アドバイス: 教育心理学の基本的な概念に加え、学校現場での具体的な問題(不登校、いじめ、非行など)と、それらに対するスクールカウンセラーの役割、多職種連携の重要性を理解しましょう。教育関連の法規や制度も併せて学習することで、より実践的な知識が身につきます。
2.19 司法・犯罪に関する心理学 (約5%)
司法・犯罪に関する心理学は、犯罪や非行、犯罪被害、そして家事事件といった司法の領域において、心理学の専門知識と技術を応用する分野です。公認心理師は、犯罪者の更生支援、被害者の心のケア、司法手続きにおける心理的支援などを通じて、公正な社会の実現と人々の心の健康に貢献します。
(1) 犯罪、非行、犯罪被害及び家事事件に関する基本的事項
司法・犯罪分野の心理学を理解するためには、まずその対象となる事象と関連する制度の基礎知識が必要です。
- 犯罪、少年非行:
- 犯罪: 法律に違反し、刑罰の対象となる行為全般を指します。
- 少年非行: 未成年者(原則として20歳未満)が、犯罪行為、触法行為(14歳未満で刑罰法令に触れる行為)、ぐ犯行為(保護者の監督を離れるなど、将来犯罪を犯すおそれのある行為)を行うことを指します。少年法により、成人の犯罪とは異なる手続きが適用されます。
- 犯罪予防、再犯予防:
- 犯罪予防: 犯罪が起こることを未然に防ぐための取り組みです。環境整備、地域安全活動、教育的アプローチなどが含まれます。
- 再犯予防: 犯罪を犯した者が再び犯罪に手を染めることを防ぐための取り組みです。心理的介入、社会復帰支援、就労支援などが含まれます。
- 犯罪捜査場面における心理学: 犯罪捜査の過程で心理学の知見を応用するものです。例えば、プロファイリング(犯罪者の行動パターンや心理的特徴から人物像を推測する)、供述分析、証言の信頼性評価などが含まれます。
- 裁判員裁判、医療観察制度:
- 裁判員裁判: 一般市民が裁判員として刑事裁判に参加し、有罪・無罪の判断や量刑に加わる制度です。心理学的には、裁判員の意思決定プロセスや、証人・被告人の心理に与える影響などが研究対象となります。
- 医療観察制度: 心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った者に対し、適切な医療を受けさせ、社会復帰を支援するための制度です。精神医療と司法が連携する点で特徴的です。
- 犯罪被害者支援、面会交流:
(2) 司法・犯罪分野における問題に対して必要な心理的支援
司法・犯罪分野における心理的支援は、個人の特性や状況に応じた多様なアプローチが求められます。
- 非行・犯罪の理論: なぜ人が非行や犯罪に走るのかを説明する様々な理論があります。例えば、社会学習理論、認知発達理論、愛着理論、遺伝的・生物学的要因、社会的剥奪理論などが含まれます。これらの理論は、非行・犯罪の理解と予防・更生支援の基礎となります。
- 非行・犯罪のアセスメント: 非行少年や犯罪者の行動の背景にある心理的要因(パーソナリティ、認知特性、精神状態、発達履歴、家庭環境、対人関係など)を多角的に評価するプロセスです。リスク要因と保護要因を特定し、再犯リスクや適切な処遇を検討します。
- 施設内処遇と社会内処遇:
- 施設内処遇: 少年院、刑務所、少年鑑別所などの施設内で、矯正教育や治療、職業訓練などを行うことです。
- 社会内処遇: 保護観察、仮釈放、更生保護施設への入所など、地域社会の中で更生を支援する処遇です。心理的支援は、どちらの処遇においても重要な役割を果たします。
- 各種処遇プログラム: 非行・犯罪からの回復と再犯防止のために、施設内および社会内で実施される様々な心理的・教育的プログラムです。例えば、アンガーマネジメント(怒りの制御)、ソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST)、薬物・アルコール依存症回復プログラム、被害者感情理解教育などが含まれます。
- 非行・犯罪の心理発達的背景: 非行や犯罪行為が、個人の発達段階における特定の心理的課題や、幼少期の経験、発達の偏りなどとどのように関連しているかを理解することです。例えば、愛着の問題、トラウマ体験、認知の歪みなどが背景にある場合があります。
- 被害者の視点を取り入れた教育: 犯罪を犯した者に対して、自身の行為が被害者にどのような影響を与えたかを理解させることを目的とした教育です。これにより、加害者の責任感を促し、共感性を高め、再犯防止に繋げます。
- 動機づけ面接: 変化への抵抗がある非行少年や犯罪者に対して、その人自身の内的な動機づけを引き出し、行動変容を促すための面接技法です。強制ではなく、自発的な変化を促すことを目指します。
- 司法面接: 子どもが被害者となる虐待や性犯罪などの事件において、子どもに心的負担を与えず、正確な証言を引き出すための専門的な面接技法です。子どもの発達段階や心理特性に配慮し、質問の仕方や環境設定が厳密に定められています。
学習アドバイス: 司法・犯罪心理学特有の専門用語や制度を正確に理解し、支援の具体例を学ぶことが重要です。犯罪の原因や再犯防止に関する理論、そして加害者・被害者双方への心理的支援のあり方について、多角的な視点から学習を進めましょう。
2.20 産業・組織に関する心理学 (約5%)
産業・組織に関する心理学は、働く人々の心の健康、職場の人間関係、組織の生産性向上といったテーマを心理学の視点から探求する分野です。公認心理師は、企業や組織において、従業員のメンタルヘルス支援、キャリア形成、職場環境改善など、多岐にわたる心理的支援を提供します。
(1) 職場における問題に対して必要な心理的支援
現代の職場では、多様な心理的課題が生じており、それらに対する適切な支援が求められます。
- 過労死・過労自殺、ハラスメント、労働災害:
- 過労死・過労自殺: 長時間労働や過重な業務ストレスが原因で、心身の健康を損ない、死に至る、あるいは自殺に至る悲劇的な事態です。公認心理師は、過重労働によるストレス反応の早期発見と介入、職場環境の改善提案などを通じて予防に貢献します。
- ハラスメント: 職場におけるいじめや嫌がらせ、差別など、個人の尊厳を傷つけ、労働環境を悪化させる行為全般を指します(例:パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント)。被害者への心理的ケア、ハラスメント相談窓口の運営、予防のための研修実施などが公認心理師の役割となります。
- 労働災害: 業務に起因して、労働者が負傷、疾病、死亡することです。精神疾患による労災認定も増えており、公認心理師は心理的な影響を受けた労働者への支援や、職場における安全衛生管理体制への心理学的視点からの助言を行います。
- 職場復帰支援、障害者の就労支援:
- 職場復帰支援: 精神疾患などで休職した従業員が、心身の準備を整え、円滑に職場に復帰できるようサポートすることです。リワークプログラムへの参加支援、職場環境調整、復帰後のフォローアップなどが含まれます。
- 障害者の就労支援: 障害を持つ人々が、その能力と特性を活かして職場に就き、働き続けることができるようサポートすることです。就職活動の支援、職場での合理的配慮の調整、職場定着支援などが含まれます。
- キャリア形成、キャリア支援、人的資源管理:
- キャリア形成: 個人が生涯を通じて、仕事や役割、学習などを経験し、自己の職業人生を構築していくプロセスです。
- キャリア支援: 個人のキャリア形成を、自己理解、職業理解、意思決定、行動計画の立案といった側面からサポートすることです。
- 人的資源管理: 企業が従業員を「人という資源」として捉え、その能力を最大限に引き出し、組織の目標達成に貢献させるための戦略的な管理活動です。公認心理師は、採用、配置、育成、評価などのプロセスに心理学的知見を提供します。
- 働き方改革、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、両立支援(仕事と家庭、治療と仕事):
- 働き方改革: 長時間労働の是正、多様な働き方の推進、生産性の向上などを目指す、国の政策的な取り組みです。
- ダイバーシティ: 性別、年齢、国籍、障害の有無など、様々な属性を持つ人々が職場に共存し、それぞれの個性を尊重し活かすことです。
- ワーク・ライフ・バランス: 仕事と私生活(家庭、育児、介護、自己啓発など)の調和を図り、どちらも充実した状態を目指すことです。
- 両立支援(仕事と家庭、治療と仕事): 育児や介護と仕事を両立するための支援、あるいは病気の治療と仕事を両立するための支援です。公認心理師は、心理的な負担の軽減や調整に貢献します。
- ポジティブメンタルヘルス: 精神疾患の予防や治療だけでなく、働く人々の心の健康を積極的に増進し、幸福感やウェルビーイングを高めることを目指すアプローチです。ストレス耐性の向上、レジリエンスの育成、ポジティブ感情の促進などが含まれます。
- 関係者へのコンサルテーション、コラボレーション:
- コンサルテーション: 産業医、保健師、人事労務担当者、管理職など、企業内の関係者に対して、従業員のメンタルヘルス問題への対応、職場環境改善などに関する心理学的知見や助言を提供することです。
- コラボレーション: 企業内の関係者だけでなく、外部の医療機関、EAP(従業員支援プログラム)機関、労働基準監督署など、多様な組織や専門職と連携し、協力体制を築いて問題解決にあたることです。
- 職場のメンタルヘルス対策、ストレスチェック制度:
- 職場のメンタルヘルス対策: 従業員の心の健康を保持増進し、精神疾患を予防するための職場全体での取り組みです(例:メンタルヘルス教育、相談体制の整備)。
- ストレスチェック制度: 労働安全衛生法に基づき、事業者に義務付けられている、従業員のストレス状況を定期的に検査する制度です。高ストレス者への面接指導や、職場環境改善に繋げることを目的とします。
(2) 組織における人の行動
組織心理学では、組織全体やその中で働く人々の行動パターン、力学を心理学的に分析します。
- リーダーシップ: 組織や集団において、目標達成のためにメンバーを方向づけ、動機づけ、影響を与える能力や行動のことです。様々なリーダーシップ理論(特性論、行動論、状況適応理論など)があります。
- 労働安全衛生マネジメント: 労働者の安全と健康を守るための、組織的な管理システムです。危険源の特定、リスク評価、対策の実施、効果の評価といったPDCAサイクルを通じて、安全で健康的な職場環境を構築します。メンタルヘルス対策もこの一部に含まれます。
- 動機づけ理論: 組織における従業員のモチベーションを理解し、向上させるための理論です。マズローの欲求段階説、ハーズバーグの二要因理論、期待理論、公平理論などが代表的です。
- 職場組織の人間関係: 職場における上司と部下、同僚間、部署間の人間関係のあり方です。良好な人間関係は、従業員の満足度、生産性、チームワークに大きく影響します。
学習アドバイス: 労働者のメンタルヘルスに関わる問題と、それに対する産業心理師の役割、関連法規を理解しましょう。特に、ストレス、ハラスメント、職場復帰支援といった具体的な課題への介入方法や、ストレスチェック制度のような制度的な側面を深く理解することが重要です。組織論や動機づけ理論といった基礎概念も併せて学習しましょう。
2.21 人体の構造と機能及び疾病 (約4%)
「人体の構造と機能及び疾病」に関する知識は、公認心理師が要支援者の心身の状態を包括的に理解し、適切な支援を行う上で不可欠です。身体の疾患が心の健康に与える影響や、心理的な側面からの介入の重要性を把握することが求められます。
(1) 心身機能、身体構造及びさまざまな疾病と障害
- 人体の解剖と生理: 人体の解剖学は身体の各部位の構造を、生理学はそれらの部位がどのように機能するかを扱う学問です。公認心理師は、神経系、内分泌系、循環器系など、心の働きに深く関わる主要な臓器やシステムの構造と基本的な生理機能について理解する必要があります。これにより、心身の相互作用をより深く理解し、身体的な問題が心理状態に与える影響を適切にアセスメントすることができます。
- 加齢(身体・心理・精神機能の変化): 加齢は、身体的、心理的、精神的な様々な変化を伴います。身体機能では、筋力や骨密度の低下、視力・聴力の衰え、循環器系の機能低下などが挙げられます。心理機能では、情報処理速度の低下、特定の記憶機能(短期記憶など)の衰えが見られる一方で、経験に基づく知識や判断力は維持されやすい傾向があります。精神機能では、うつ病や認知症のリスクが増加する可能性がありますが、一方で「エイジング・パラドックス」のように幸福感が増す側面もあります。これらの変化を理解することは、高齢者支援の基盤となります。
- 主要な症候(めまい、倦怠感、呼吸困難): これらは、様々な身体疾患や精神的ストレスによって引き起こされる一般的な症状です。
(2) 心理的支援が必要な主な疾病
特定の疾病においては、心理的側面からの支援が特に重要となります。
- がん、難病:
- がん: 身体的苦痛に加え、診断の衝撃、治療の副作用、再発・進行への不安、死への恐怖、家族への影響など、多大な心理的負担を伴います。公認心理師は、がん患者の心理的苦痛の軽減、QOL向上、家族支援、医療スタッフとの連携を通じて、包括的なケアに貢献します。
- 難病: 治療法が確立されておらず、長期にわたり療養を必要とする希少な疾患群です。身体的苦痛に加え、病気の進行、将来への不安、経済的負担、社会生活上の制約など、心理社会的課題が非常に大きいです。
- 遺伝性疾患: 遺伝子の異常によって発症する疾患です。診断、発症リスク、遺伝の様式、治療法などに関する心理的負担が大きく、特に遺伝カウンセリングが重要となります。公認心理師は、遺伝カウンセリングチームの一員として、患者や家族の心理的苦痛を軽減し、意思決定プロセスをサポートします。
- 後天性免疫不全症候群<AIDS>: HIV感染症やAIDSを持つ人々は、病状への不安だけでなく、社会的な偏見や差別、秘密保持の困難さ、将来への絶望感など、特有の心理社会的課題に直面します。公認心理師は、心理カウンセリングや情報提供を通じて、これらの課題への対処を支援し、QOL向上に寄与します。
- 脳血管疾患: 脳卒中(脳梗塞、脳出血など)に代表される疾患で、急性期医療後も、脳卒中後遺症として、身体麻痺、言語障害(失語)、認知機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害など)、感情障害(うつ病など)など、多様な後遺症を伴うことがあります。公認心理師は、神経心理学的アセスメント、認知リハビリテーション、心理療法、家族支援などを通じて、機能回復と社会適応をサポートします。
- 循環器疾患、内分泌代謝疾患:
- 循環器疾患: 心臓病や高血圧など、循環器系に生じる疾患です。ストレスが発症や悪化に影響を与えることが多く、心臓リハビリテーションにおける心理的側面からの支援や、生活習慣改善への行動変容支援が重要となります。
- 内分泌代謝疾患: 糖尿病や甲状腺疾患など、ホルモンの分泌異常や代謝機能の障害による疾患です。病状管理のための自己管理が不可欠であり、公認心理師は患者の自己効力感向上やストレス対処能力の強化を支援します。
- 依存症(薬物、アルコール、ギャンブル): 物質(薬物、アルコール)や行為(ギャンブル)へのコントロール不能な渇望と使用を特徴とする精神疾患であり、心身の健康、社会生活、人間関係に甚大な影響を及ぼします。公認心理師は、動機づけ面接、認知行動療法、心理教育、家族療法、自助グループへの接続などを通じて、回復と再発防止を支援します。
- 移植医療、再生医療:
- 移植医療: 臓器移植など、他者の臓器や組織を移植することで生命を救う医療です。患者やその家族は、提供者への感謝、拒絶反応への不安、ドナーの家族への配慮など、倫理的・心理的に複雑な課題に直面します。
- 再生医療: iPS細胞などを用いて、失われた組織や臓器を再生させる医療です。新たな治療法としての期待が大きい一方で、倫理的側面や患者の心理的準備など、公認心理師の関与が求められる場面があります。
- サイコオンコロジー<精神腫瘍学>:がん患者とその家族の心理的苦痛や精神医学的問題を専門的に扱う学際領域です。公認心理師は、がん医療チームの一員として、患者の精神症状のスクリーニング、心理療法、支持的カウンセリング、家族支援などを行います。
- 緩和ケア、終末期ケア(グリーフケアを含む。):
学習アドバイス: 身体疾患が心理面に与える影響を理解し、各疾患に対する心理的支援のポイントを把握しましょう。特に、がん、難病、脳血管疾患、依存症といった、公認心理師が関わる機会の多い疾病については、その疾患の概要、患者が抱えやすい心理的問題、そして具体的な心理的介入方法を深く学習することが重要ですげられています。医療倫理やチーム医療といった概念も併せて理解しましょう。
2.22 精神疾患とその治療 (約5%)
精神疾患とその治療に関する知識は、公認心理師が心の健康問題を抱える人々を支援する上で核となる部分です。精神疾患の理解、適切なアセスメント、多岐にわたる治療法、そして患者や家族への支援について深く学ぶことが求められます。
(1) 代表的な精神疾患の成因、症状、診断法、治療法、経過、本人や家族への支援
精神疾患は、心の機能に様々な形で影響を及ぼし、思考、感情、行動に特徴的な症状を呈します。診断は国際的な分類基準に基づいて行われ、治療は多角的なアプローチが取られます。
- 主な症状と状態像 (抑うつ、不安、恐怖、幻覚、妄想):
- 抑うつ: 気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、意欲の低下、集中困難、不眠、食欲不振、倦怠感などが持続する状態です。
- 不安: 特定の対象や状況がないにもかかわらず、漠然とした心配や恐怖を感じる状態、あるいは過剰な心配が持続する状態です。
- 恐怖: 特定の対象や状況に対して、過度な恐れを感じ、回避行動を伴う状態です。
- 幻覚: 実際には存在しないものを、あるかのように知覚する体験です(例:幻聴、幻視)。
- 妄想: 事実に基づかない、訂正困難な誤った確信や考えです(例:被害妄想、関係妄想)。
- 精神疾患の診断分類・診断基準<ICD-10、DSM-5>: 精神疾患の診断には、世界的に広く用いられる標準化された分類と診断基準があります。
- ICD-10(国際疾病分類第10版): 世界保健機関(WHO)が作成した疾病および関連保健問題の国際統計分類で、精神および行動の障害(F分類)も含まれます。
- DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版): アメリカ精神医学会(APA)が作成した精神疾患の診断基準であり、特定の症状パターンと時間経過に基づいて診断を下すための具体的な基準が示されています。
- 症状性を含む器質性精神障害(F0): 脳の疾患や損傷、その他の身体疾患(例:脳腫瘍、認知症、甲状腺機能低下症)が原因となって生じる精神症状を伴う障害です。
- 精神作用物質使用による精神及び行動の障害 (F1): アルコール、薬物(違法薬物、処方薬)、カフェイン、ニコチンなどの精神作用物質の使用によって引き起こされる精神的な問題や行動の障害です。
- 統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害(F2):
- 統合失調症: 幻覚(特に幻聴)、妄想、思考の混乱、意欲の低下、感情の平板化などが特徴的な精神疾患です。
- 統合失調型障害及び妄想性障害: 統合失調症に似た症状を持つが、その程度や期間が診断基準を満たさない場合や、妄想が主症状である場合を指します。
- 気分(感情)障害(F3): 気分の著しい変動が主症状となる精神疾患です。
- 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(F4):
- 神経症性障害: 不安、恐怖、強迫観念など、本人が苦痛を感じているにもかかわらず、その原因や病態が器質的なものではないと診断される状態です。
- ストレス関連障害: 強いストレス体験(例:トラウマ)の後に生じる精神的・身体的反応です(例:心的外傷後ストレス障害<PTSD>、適応障害)。
- 身体表現性障害: 身体症状があるにもかかわらず、医学的な説明が困難であり、心理的要因が深く関与していると診断される障害です。
- 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F5): 摂食障害(拒食症、過食症)、睡眠障害(不眠症、過眠症)、性機能不全など、生理的機能や身体的要因が関わる行動の障害です。
- 成人のパーソナリティ及び行動の障害 (F6): 個人の思考、感情、対人関係、衝動制御などのパターンが、社会規範から著しく逸脱しており、長期にわたって適応上の困難を引き起こしている状態です。特定のパーソナリティ障害(例:境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害)が含まれます。
- 精神遅滞[知的障害] (F7): 知的機能(推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学業学習、経験からの学習など)と、適応行動(概念的、社会的、実用的領域の行動)の両方に、発達期から有意な制限がある状態です。
- 心理的発達の障害 (F8): 自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症など、特定の認知機能や社会性、行動の発達に偏りや遅れが見られる障害です。
- 小児期及び青年期に通常発症する行動並びに情緒の障害、特定不能の精神障害(F9): 小児期や青年期に特徴的に現れる行動の問題(例:行為障害、反抗挑戦性障害)や情緒の問題(例:分離不安障害)、あるいは診断基準を完全に満たさない「特定不能の精神障害」が含まれます。
- 行動観察、評定尺度: 精神疾患の診断や症状評価において用いられるアセスメント方法です。
- 行動観察: 患者の言動、表情、姿勢、対人交流の様子などを直接観察し、症状や状態像を把握する方法です。
- 評定尺度: 精神症状や行動の重症度、頻度などを数値化して評価するための標準化された質問票や評価用紙です(例:抑うつ尺度、不安尺度)。
- 知能検査、神経心理学的検査、脳波検査、神経画像検査、発達検査、認知機能検査: 精神疾患の鑑別診断や病態理解に役立つ検査です。
- 知能検査: 知的能力の全体的な水準を評価します。
- 神経心理学的検査: 特定の脳機能(記憶、注意、遂行機能など)の障害の有無や程度を評価します。
- 脳波検査: 脳の電気活動を記録し、てんかんや意識障害などの診断に用います。
- 神経画像検査: MRIやCTなどで脳の構造や機能を画像化し、脳の器質的異常を確認します。
- 発達検査: 発達の遅れや偏りを評価します。
- 認知機能検査: 記憶、注意、思考などの認知機能の具体的な側面を評価します。
- 薬物療法、作業療法、心理療法: 精神疾患の主要な治療法です。
- 薬物療法: 向精神薬を用いて、精神症状を緩和したり、脳の神経伝達物質のバランスを調整したりする治療です。
- 作業療法: 精神疾患を持つ人が、日常生活動作や社会生活技能の向上、ストレス対処能力の強化などを目指し、目的のある作業活動を通じて心身の回復を図る治療です。
- 心理療法: 心理学的な理論と技法を用いて、心の病や問題を抱える人々の苦痛を軽減し、適応能力を高め、自己成長を促す専門的な治療的介入です(例:認知行動療法、精神分析療法)。
- 地域移行、自助グループ: 精神疾患からの回復を支える社会的な支援の形態です。
- 地域移行: 精神科病院に入院している患者が、地域社会で生活できるよう支援することです。
- 自助グループ: 共通の体験や問題を抱える人々が自発的に集まり、相互に支え合い、回復を目指すグループです(例:AA、NA、家族会)。
- アドヒアランス: 患者が、医療従事者と合意した治療方針(服薬、心理療法、生活指導など)を、積極的に守り、継続していくことです。治療効果を最大化するために非常に重要です。
(2) 向精神薬をはじめとする薬剤による心身の変化
向精神薬は精神症状の改善に有効ですが、その作用機序や副作用、適切な使用法を理解することが重要です。
- 薬理作用、薬物動態:
- 薬理作用: 薬剤が体内でどのように作用し、精神症状を改善するメカニズムです(例:神経伝達物質の再取り込み阻害)。
- 薬物動態: 薬剤が体内に吸収され、分布し、代謝され、排泄されるまでの過程です。個々の患者への適切な用量設定に影響します。
- 有害事象、副作用(錐体外路症状、抗コリン作用、依存耐性、賦活症候群):
- 有害事象: 薬剤の服用中に生じる好ましくないすべての事象です。
- 副作用: 薬剤の主作用以外に生じる、意図しない薬理作用です。
- 向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬、気分安定薬、抗認知症薬、精神刺激薬):
- 抗うつ薬: うつ病や不安症の治療に用いられ、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスを調整します。
- 抗不安薬: 不安や緊張を和らげる薬で、ベンゾジアゼピン系などが一般的です。
- 睡眠薬: 不眠症の治療に用いられ、睡眠を促進します。
- 抗精神病薬: 統合失調症の幻覚や妄想などの精神病症状を抑える薬です。
- 気分安定薬: 双極性障害の躁状態とうつ状態の波を抑える薬です。
- 抗認知症薬: アルツハイマー型認知症などの認知症の進行を遅らせることを目的とした薬です。
- 精神刺激薬: AD/HDなどの治療に用いられ、集中力や注意力を高める効果があります。
- 薬剤性精神障害: 薬剤の副作用や乱用によって、精神症状や精神疾患が引き起こされる状態です。
(3) 医療機関への紹介
公認心理師は、自身の専門性を理解し、必要に応じて他の専門職や医療機関へ要支援者を紹介する責務があります。
学習アドバイス: 各精神疾患の診断基準、症状、治療法、使用される薬剤について詳しく学習する必要があります。特に、DSM-5やICD-10の主要な診断カテゴリーを理解し、それぞれの疾患がどのような症状を呈し、どのような治療が用いられるかを把握しましょう。向精神薬の基本的な作用と副作用、そして適切な医療機関への連携の判断基準も重要です。
2.23 公認心理師に関係する制度 (約6%)
公認心理師は、多岐にわたる分野で活動するため、関連する法律や制度の知識が不可欠です。これらの制度は、公認心理師の業務の枠組みを定め、要支援者への適切な支援を保障する基盤となります。各分野の重要な制度を理解し、実践に活かす能力が求められます。
(1) 保健医療分野に関する法律、制度
保健医療分野は、公認心理師が最も多く関わる領域の一つであり、多様な法律や制度が連携して機能しています。
- 医療法、医療計画制度、診療録、保険診療制度:
- 医療法: 医療機関の開設・運営、医療従事者の役割などを定めた基本的な法律です。
- 医療計画制度: 各都道府県が、地域における医療提供体制を計画的に整備するための制度です。
- 診療録: 医師やその他の医療従事者が、患者の診療経過や治療内容を記録するものです。公認心理師も、診療の一部として心理に関する記録を残すことがあります。
- 保険診療制度: 医療費の一部を公的医療保険で賄う制度で、公認心理師の心理支援が保険適用となる場合があります。
- 高齢者の医療の確保に関する法律: 高齢者の医療費の適正化や、後期高齢者医療制度などを定めた法律です。高齢者の心の健康支援にも関連します。
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>: 精神障害者の医療、保護、社会復帰の促進、自立と社会参加の支援などを定めた重要な法律です。公認心理師が精神科医療機関や精神保健福祉センターで業務を行う際の法的基盤となります。
- 自殺対策基本法: 自殺総合対策の推進に関する基本的な事項を定めた法律です。公認心理師が自殺予防活動や、自殺のハイリスク者への支援を行う際の法的根拠となります。
- 健康増進法: 国民の健康の増進に関する基本的な事項を定めた法律です。心の健康増進に関する活動にも関連します。
- 地域保健法、母子保健法:
- 地域保健法: 地域住民の健康の保持増進を目的とし、保健所の設置や機能などを定めた法律です。公認心理師は地域保健活動に携わることがあります。
- 母子保健法: 母子の健康の保持増進を図るための法律です。妊娠・出産・育児期の女性や子どもの心理的支援に関連します。
- 民法(説明義務、注意義務、過失):
- 説明義務: 専門家が、相手方に対して、必要な情報を分かりやすく説明する義務です。インフォームド・コンセントの法的根拠となります。
- 注意義務: 専門職として、当然払うべき注意を怠らない義務です。
- 過失: 注意義務を怠った結果、損害を与えてしまうことです。公認心理師も、専門職としての過失責任を問われる可能性があります。
- 医療保険制度、介護保険制度:
- 医療保険制度: 疾病や負傷の際に医療費の一部を国や保険者が負担する制度です。
- 介護保険制度: 高齢者が介護サービスを受ける際に費用の一部を公的に負担する制度です。公認心理師は、両制度下での心理支援に関わることがあります。
- 医療の質、医療事故防止、院内感染対策: 医療機関全体で患者の安全を確保し、質の高い医療を提供するための取り組みです。公認心理師も、チーム医療の一員としてこれらの対策に貢献します。
(2) 福祉分野に関する法律、制度
福祉分野は、障害者、高齢者、児童など、多様な対象者の生活支援に関わる法律や制度が整備されています。
- 児童福祉法: 児童の健全な育成を目的とし、児童福祉施設や児童相談所などの設置、サービスの提供を定めた法律です。公認心理師が児童を支援する際の重要な法的基盤です。
- 老人福祉法: 高齢者の福祉に関する基本的な事項を定めた法律です。高齢者施設の運営や、在宅福祉サービスの提供などに関わります。
- 児童虐待の防止等に関する法律<児童虐待防止法>: 児童虐待の防止、早期発見、迅速な対応、保護、自立支援などを定めた法律です。公認心理師が虐待ケースに関わる際の重要な法的根拠です。
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律<障害者総合支援法>: 障害者(児)の日常生活や社会生活を総合的に支援するための各種サービス(障害福祉サービスなど)を定めた法律です。公認心理師が障害者の支援を行う際の中心的な法律です。
- 障害福祉計画: 障害者総合支援法に基づき、各市町村や都道府県が策定する障害福祉サービスの提供に関する計画です。
- 発達障害者支援法: 発達障害のある人々の早期発見、早期支援、地域生活支援、就労支援などを定めた法律です。
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律<障害者差別解消法>: 障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務付けた法律です。
- 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律<障害者虐待防止法>: 障害者への虐待防止や、虐待を行う養護者への支援などを定めた法律です。
- 障害者基本法: 障害者の自立と社会参加に関する基本的な理念を定めた法律です。
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律<高齢者虐待防止法>: 高齢者への虐待防止や、養護者への支援などを定めた法律です。
- 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律<DV防止法>: 配偶者からの暴力(DV)の防止、被害者の保護、自立支援などを定めた法律です。
- 生活保護法: 憲法第25条に基づき、生活に困窮する国民に対し、最低限度の生活を保障する制度です。
- 生活困窮者自立支援法: 生活困窮者の自立を促進するための各種支援策(就労支援、家計相談など)を定めた法律です。
- 成年後見制度の利用の促進に関する法律: 認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な人の権利を擁護するための成年後見制度の利用を促進する法律です。
- 配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、福祉事務所、地域包括支援センター: これらは、各分野の福祉サービスを提供する主要な機関です。公認心理師はこれらの機関と連携し、専門性を活かして支援を行います。
(3) 教育分野に関する法律、制度
教育分野では、児童生徒の健全な発達と学習を保障するための様々な法律や制度が定められています。
- 教育基本法、学校教育法:
- 教育基本法: 教育の目的や理念、基本原則を定めた法律です。
- 学校教育法: 小・中学校、高等学校など、学校の種類や設置基準、教育課程などを定めた法律です。
- 学校保健安全法: 学校における児童生徒の健康の保持増進と安全の確保を目的とした法律です。学校における心の健康教育や、ストレスチェックなども関連します。
- いじめ防止対策推進法: いじめの防止、早期発見、いじめに対する対処などに関する対策を総合的に推進するための法律です。公認心理師がいじめ問題に関わる際の法的根拠となります。
- 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律<教育機会確保法>: 不登校児童生徒など、義務教育の段階で学校に通うことが困難な子どもたちの学習機会を確保するための法律です。
- 教育相談所、教育支援センター: 児童生徒の心理的・教育的課題に関する相談に応じ、指導や支援を行う機関です。スクールカウンセリングなどと連携します。
- 特別支援教育、通級:
(4) 司法・犯罪分野に関する法律、制度
司法・犯罪分野における公認心理師の業務は、犯罪者の更生や被害者の支援、少年非行への対応など、法的な枠組みの中で行われます。
- 刑事法、刑事司法制度、少年司法制度:
- 刑事法: 犯罪と刑罰について定めた法律の総称です。
- 刑事司法制度: 犯罪の捜査、起訴、裁判、刑の執行などに関する一連の制度です。
- 少年司法制度: 未成年者の非行事件を扱うための特別な司法制度です。少年法に基づき、保護を重視した手続きがとられます。
- 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律<医療観察法>: 心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為を行った者に対し、適切な医療を受けさせ、社会復帰を支援するための制度を定めた法律です。公認心理師もこの制度下で関与することがあります。
- 犯罪被害者等基本法: 犯罪被害者等の権利の尊重と支援に関する基本的な理念を定めた法律です。
- 更生保護制度、裁判員裁判:
- 更生保護制度: 犯罪を犯した者が再び犯罪に手を染めることを防ぎ、社会復帰を支援するための制度です。保護観察、仮釈放などが含まれます。
- 裁判員裁判: 一般市民が裁判員として刑事裁判に参加する制度です。公認心理師は、裁判員の心理や証言の信頼性評価などに関わることがあります。
- 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約<ハーグ条約>: 国際的な子の連れ去りに関する民事上の側面について定めた国際条約です。離婚・別居に伴う親権や面会交流問題に関連します。
- 家庭裁判所、保護観察所、刑事施設、少年鑑別所、少年院、児童自立支援施設: これらは、司法・犯罪分野において公認心理師が支援を行う可能性のある機関です。
- 更生保護施設、地域生活定着支援センター、自立更生促進センター: 更生保護制度において、社会復帰を支援するための施設です。
(5) 産業・労働分野に関する法律、制度
産業・労働分野では、労働者の健康と安全、働き方の多様性を保障するための法律や制度が定められています。
- 労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法:
- 労働基準法: 労働条件に関する最低基準を定めた法律です。
- 労働安全衛生法: 労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成を目的とした法律です。ストレスチェック制度などが含まれます。
- 労働契約法: 労働契約の原則や成立・変更・終了などに関する事項を定めた法律です。
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律<労働者派遣法>: 労働者派遣事業の適正な運営と、派遣労働者の保護を目的とした法律です。
- 障害者の雇用の促進等に関する法律<障害者雇用促進法>: 障害者の雇用の促進と職業の安定を図るための法律です。障害者雇用率制度などが含まれます。
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律<男女雇用機会均等法>: 雇用の分野における男女の差別を禁止し、均等な機会と待遇を確保するための法律です。ハラスメント対策なども関連します。
- 労働者の心の健康の保持増進のための指針: 厚生労働省が定めた、事業場における労働者のメンタルヘルス対策に関する指針です。
- 心理的負荷による精神障害の認定基準: 業務による心理的負荷が原因で精神障害を発症した場合の労災認定に関する基準です。
- 職場におけるハラスメント防止対策: 職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどの防止に関する事業主の義務や対策を定めています。
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律<労働施策総合推進法>: 労働者の雇用安定、職業生活の充実、能力開発などを総合的に推進するための法律です。
学習アドバイス: 各分野の関連法規は非常に多いため、公認心理師の業務に直結する重要な法律・制度を中心に押さえましょう。特に、精神保健福祉法、障害者総合支援法、児童福祉法、労働安全衛生法、そして関連する虐待防止法などは、その目的と主な内容を理解することが必須です。具体的なケースと関連付けて、どの法律が適用されるかを考えると理解が深まります。
2.24 その他 (心の健康教育に関する事項等) (約2%)
この項目は、公認心理師が専門職として、実践を通して得られた知見を概念化し、理論的に整理する能力、そして広く一般の人々に対して心の健康に関する知識を普及・啓発する役割を果たすことの重要性を示しています。出題割合は低いものの、公認心理師が社会に貢献する上で不可欠な、応用的かつ統合的な側面を問うものです。
(1) 具体的な体験、支援活動の専門知識及び技術への概念化、理論化、体系化
公認心理師は、日々の支援活動の中で得られる個別のケース体験を、単なる個人的な経験として終わらせるのではなく、普遍的な「専門知識」や「技術」へと昇華させることが求められます。これは、以下のようなプロセスを通じて行われます。
- 概念化: 個々のケースで観察された現象や、クライエントの訴え、介入の反応などから、共通するパターンや本質的な要素を見出し、それを心理学的な「概念」として捉え直すことです。
- 理論化: 概念化された要素間の関係性を、既存の心理学理論や新たな視点を用いて説明し、「理論」として構築することです。これにより、個別のケースがなぜそのように進行したのか、なぜその介入が効果的だったのかを、より一般的に理解できるようになります。
- 体系化: 概念化・理論化された知識や技術を、他の専門家が学び、応用できるよう、整理された「体系」としてまとめることです。例えば、効果的な介入プロトコルの開発や、アセスメントツールの改善などがこれにあたります。
この能力は、公認心理師が単なる技術者ではなく、科学者-実践者モデルに基づき、常に自身の専門性を深化させ、心理学全体の発展に寄与するために不可欠です。
(2) 実習を通じた要支援者等の情報収集、課題抽出及び整理
公認心理師養成課程における「実習」は、座学で得た知識を実際の支援現場で応用し、統合する重要な機会です。実習を通じて、以下の能力を養います。
- 要支援者等の情報収集: 実際の要支援者やその関係者から、面接、観察、心理検査などを通じて多角的な情報を収集する実践的なスキルを習得します。情報の種類(生育歴、家族構成、社会的背景、心理状態、身体状況など)とその収集方法を現場で学びます。
- 課題抽出: 収集した膨大な情報の中から、要支援者の抱える中核的な問題や、支援が必要なポイントを的確に特定する能力です。これは、情報の中から重要な要素を選び出し、その意味を理解する分析的な思考力が求められます。
- 整理: 抽出した課題や情報を、支援計画の立案に役立つよう、論理的かつ体系的にまとめる能力です。ケース・フォーミュレーションなど、問題を図式化したり、優先順位をつけたりするスキルが含まれます。
実習は、倫理的配慮や多職種連携の実践を学ぶ場でもあり、知識を応用し、具体的な問題解決へと繋げるための実践力を高めます。
(3) 心の健康に関する知識普及を図るための教育、情報の提供
公認心理師は、個別の支援だけでなく、広く国民の心の健康の保持増進に貢献するため、啓発活動を行うことも重要な役割です。
- 健康日本21、こころの健康対策 [うつ病、薬物依存症、心的外傷後ストレス障害<PTSD>]:
- うつ病: 気分の落ち込み、意欲低下などの症状を持つ精神疾患。
- 薬物依存症: 薬物の使用をコントロールできなくなる状態。
- 心的外傷後ストレス障害<PTSD>: 強いトラウマ体験の後に生じる精神症状。
 
- 健康日本21: 厚生労働省が推進する国民の健康づくり運動で、心の健康も重要な柱の一つです。公認心理師は、この目標達成に寄与するため、心の健康に関する情報発信を行います。
- こころの健康対策: うつ病、薬物依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった特定の精神疾患や問題に対する、早期発見、早期介入、予防、回復支援などの対策を指します。公認心理師は、これらの疾患に関する正しい知識を広め、偏見をなくし、適切な支援に繋がるよう啓発活動を行います。
- 自殺予防: 自殺は深刻な社会問題であり、公認心理師は、自殺に関する正しい知識の普及、自殺のサインに気づき、適切な専門機関に繋ぐ「ゲートキーパー」の養成、地域住民への啓発活動などを通じて、自殺予防に貢献します。
- 心理教育: 精神疾患や心理的問題を抱える本人やその家族に対し、病気や問題の性質、症状、治療法、対処法などに関する正しい知識を体系的に提供することです。心理教育は、病気の理解を深め、治療へのアドヒアランス(服薬や治療の継続)を高め、再発予防や生活の質の向上に繋がります。
- 支援者のメンタルヘルス: 医師、看護師、介護士、教師、ソーシャルワーカーなど、他者の支援に携わる専門職は、高いストレスやバーンアウトのリスクに晒されやすいです。公認心理師は、これらの支援者に対して、ストレスマネジメントに関する情報提供、研修、カウンセリングなどを通じて、自身の心の健康を保つためのサポートを行います。
学習アドバイス: 知識の応用力や、心の健康教育・啓発活動に関する理解が問われます。特に、実践から学びを得て知識を深化させるプロセス、そして多様な対象者(一般住民、特定の疾患を持つ人々、支援者など)に応じた心の健康教育・情報提供の方法について、具体的にイメージしながら学習することが重要です。
第3章:ブループリントを活用した効果的な学習戦略
公認心理師試験の合格には、ただ漫然と学習するのではなく、ブループリントを最大限に活用した戦略的なアプローチが不可欠です。限られた時間の中で効率的に学習を進めるための具体的な方法を紹介します。
3.1 出題割合を意識した学習配分
ブループリントの大きな特徴は、各大項目ごとの「出題割合」が明記されている点です。この情報を最大限に活用することで、学習の優先順位を明確にし、効率的な時間配分が可能になります。
- 重点科目の見極め(心理に関する支援、健康・医療、福祉、教育、心理状態の観察・分析など): ブループリントの出題割合表を見ると、「心理に関する支援(相談、助言、指導その他の援助)」(約9%)、「健康・医療に関する心理学」(約9%)、「福祉に関する心理学」(約9%)、「教育に関する心理学」(約9%)、「心理状態の観察及び結果の分析」(約8%)などが高い割合を占めています 1。これらの科目は、公認心理師の主要業務に直結する内容であり、得点源となる可能性が高いため、特に重点的に学習時間を割く必要があります。高い割合の科目を優先的に、かつ深く学習することで、得点効率を最大化できます。
- 苦手分野の克服と得意分野の強化: 出題割合を意識しつつも、自身の得意・苦手分野を客観的に把握することも重要です。苦手分野は、基本的な理解が不足している可能性が高く、基礎固めから始める必要があります。一方で、得意分野は、さらに知識を深め、確実な得点源とすることで、全体の合格率を高めることができます。模擬試験や過去問演習を通じて、自身の弱点と強みを定期的に分析し、学習配分を柔軟に調整しましょう。
3.2 過去問分析の重要性
過去問は、試験の「羅針盤」とも言える重要な学習資料です。ブループリントと合わせて分析することで、出題傾向を具体的に把握できます。
- ブループリントと過去問の照らし合わせ方: まず、ブループリントの大項目、中項目、小項目を確認します。次に、過去問を解く際に、それぞれの問題がブループリントのどの項目に該当するかを特定します。これにより、「この項目からはこのような形で出題されるのか」「この用語は〇〇の概念と関連付けて問われることが多い」といった具体的な出題イメージが湧き、ブループリントの抽象的な項目がより実践的な知識へと繋がります。
- 出題形式と傾向の把握: 過去問を分析することで、選択肢の構成、問題文の長さ、図表の有無、事例問題の傾向など、具体的な出題形式を把握できます。また、毎年繰り返し問われる重要テーマや、特定の概念がどのような視点から問われることが多いかといった「出題傾向」を掴むことができます。これにより、効率的な対策を立て、本番で戸惑うことなく問題に取り組む力を養うことができます。
3.3 参考書・問題集の選び方と活用法
適切な学習教材の選定と活用は、学習効率を大きく左右します。
- 選び方: 自身の学習スタイルやレベルに合った参考書・問題集を選びましょう。網羅性の高い基本書で全体像を掴み、その後、過去問解説が充実した問題集や、特定の科目に特化した参考書で知識を深めるのが効果的です。最新のブループリントに対応しているか、専門用語の解説が分かりやすいかなども確認しましょう。
- 活用法: 参考書は一度読むだけでなく、何度も繰り返し読み込み、知識の定着を図りましょう。問題集は、ただ答え合わせをするだけでなく、なぜその選択肢が正解で、他の選択肢が間違いなのかを、ブループリントや参考書と照らし合わせながら理解することが重要です。間違えた問題は必ず復習し、類似問題が出た際に正解できるよう対策しましょう。
3.4 効率的な暗記術と理解を深める方法
公認心理師試験は専門用語が多く、暗記も必要ですが、単なる丸暗記ではなく「理解」を伴うことが重要です。
- 効率的な暗記術:
- 関連付けて覚える: 単語単体ではなく、関連する概念や理論、提唱者、具体例などと結びつけて覚えることで、記憶の定着が促されます。
- 視覚的に覚える: 図やイラスト、マインドマップなどを活用して、情報を視覚的に整理することで記憶しやすくなります。
- アウトプットする: 参考書を読み込むだけでなく、自分で説明してみる、問題を解いてみる、まとめノートを作成するなど、積極的にアウトプットすることで記憶が強化されます。
- 反復学習: エビングハウスの忘却曲線にもあるように、繰り返しの学習は記憶の定着に不可欠です。定期的に復習するサイクルを取り入れましょう。
- 理解を深める方法:
- 具体例と結びつける: 理論や概念が実際の臨床現場や社会現象とどのように関連するのか、具体例を考えることで、表面的な暗記に終わらず、深い理解に繋がります。
- 他者に説明する: 学んだ内容を他者に説明しようとすると、自分の理解が曖昧な点が明らかになり、より深く掘り下げて学習するきっかけになります。
- 異なる視点から学ぶ: 複数の参考書を読んだり、論文に目を通したりすることで、多角的な視点から物事を捉え、理解を深めることができます。
3.5 スケジュール管理と学習計画の立て方
長期的な学習には、計画的なスケジュール管理が不可欠です。
- 年間・月間・週間計画: まず試験日から逆算して、合格までに必要な総学習時間を算出し、それを年間、月間、週間単位に細分化します。特にブループリントの出題割合を考慮し、重点科目に十分な時間を割り当てましょう。
- 具体的な学習内容の明記: 各学習期間で何を、どの程度まで学習するのかを具体的に計画します。例えば、「〇月は〇〇心理学の△△理論までを参考書で読み込み、□□問題集の該当範囲を解く」といったように、具体的な行動レベルで計画を立てると実行しやすくなります。
- 進捗の確認と調整: 計画はあくまで目安です。週ごとや月ごとに進捗を確認し、計画通りに進んでいない場合は、原因を分析し、学習時間や内容を調整するなど、柔軟に対応しましょう。無理のない計画を立てることも重要です。
3.6 模擬試験の活用と本番への準備
模擬試験は、本番の試験に臨む上での貴重な練習の場となります。
- 模擬試験の活用:
- 実力把握: 模擬試験は、現時点での自分の実力を客観的に把握する絶好の機会です。得点だけでなく、どの分野で点数が取れていないか、どの問題形式に苦手意識があるかなどを分析しましょう。
- 時間配分の練習: 本番と同じ時間制限の中で問題を解く練習をすることで、適切な時間配分を身につけることができます。
- 本番の雰囲気への慣れ: 模擬試験を本番さながらの環境で受けることで、試験の緊張感や集中力の維持に慣れることができます。
- 本番への準備:
- 体調管理: 試験日までの期間、規則正しい生活を送り、十分な睡眠と栄養を確保して体調を万全に整えましょう。
- 試験会場の確認: 事前に試験会場へのアクセス方法や所要時間を調べておきましょう。
- 持ち物の準備: 受験票、筆記用具、身分証明書など、必要な持ち物を前日までに確認し準備しておきましょう。
- 心の準備: 試験当日は緊張するものですが、これまでの努力を信じ、落ち着いて問題に取り組むことが大切です。
第4章:合格への道のり:具体的な対策と心構え
公認心理師試験の合格は、単に知識を詰め込むだけでなく、その知識を統合し、実践的な視点をもって臨むことが重要です。ここでは、試験合格に向けた具体的な対策と、本番で力を発揮するための心構えについて解説します。
4.1 各分野の横断的な知識の定着
公認心理師試験は、心理学の多岐にわたる分野から出題されます。それぞれの分野を個別に学習するだけでなく、それらの知識を横断的に結びつけ、体系的に理解することが合格への鍵となります。
- 知識の相互関連性の理解: 例えば、「発達」の知識は「教育」や「福祉」の支援対象者の理解に不可欠であり、「精神疾患」の知識は「保健医療」現場での「心理支援」に直結します。また、「倫理」や「関係法規」はすべての業務の土台となります。各分野で学んだ概念や理論が、他の分野のどのような課題や支援に活用できるのかを意識しながら学習を進めましょう。
- 事例問題への対応力強化: 公認心理師試験では、複数の分野の知識を統合して解決を要する事例問題が多数出題されます。日頃から、様々な事例を想定し、複数の視点から問題を分析し、適切な介入方法を多角的に検討する練習を積むことが、横断的な知識の定着に繋がります。
4.2 臨床現場を意識した知識の活用
公認心理師試験は、単なる学術知識の有無を問うだけでなく、その知識が臨床現場でどのように活用されるかを重視しています。
- 理論と実践の橋渡し: 参考書や講義で学んだ理論や概念が、実際のカウンセリング、心理検査の実施、多職種との連携といった具体的な業務場面でどのように応用されるかを常に意識しましょう。例えば、ある心理検査の目的や特徴を覚えるだけでなく、その検査結果が実際のケースのどこで、どのように役立つのかを考えることが重要です。
- アセスメントから介入への流れの理解: 要支援者の情報収集(アセスメント)から、課題の抽出、支援計画の立案、具体的な介入の実施、そしてその効果の評価という一連の流れを、頭の中でシミュレーションしてみましょう。それぞれの段階でどのような知識が必要で、どのように判断を下すべきかを具体的にイメージすることで、実践的な思考力が養われます。
4.3 倫理観と多職種連携の重要性
公認心理師の業務は、常に高い倫理観に基づき、多様な専門職との連携の中で行われます。これらは、単独の科目としてだけでなく、すべての分野に共通する重要な視点です。
- 倫理原則の徹底理解: 秘密保持義務、インフォームド・コンセント、多重関係の回避、クライエントの自己決定権の尊重など、公認心理師が遵守すべき倫理原則を深く理解し、具体的な事例において倫理的ジレンマに直面した際にどのように判断すべきかを練習しましょう。
- 多職種連携の意義と実践: 医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といった各分野で、公認心理師がどのような専門職と連携し、どのような役割を果たすのかを具体的に理解することが重要です。チームの一員として、自身の専門性を発揮しつつ、他の専門職の役割を尊重し、円滑なコミュニケーションを図る能力が求められます。支援者のケアや、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)といった概念も、多職種連携の文脈で理解を深めましょう。
4.4 試験当日の心構えと注意点
万全の準備をしていても、試験当日の精神状態や行動が合否を左右することがあります。
- 体調管理の徹底: 試験日までの期間、規則正しい生活を送り、十分な睡眠と栄養を確保しましょう。特に試験直前は無理な徹夜学習を避け、心身ともにリラックスできる状態を保つことが重要です。
- 試験会場と時間の確認: 事前に試験会場へのアクセス方法、公共交通機関の運行状況、所要時間などを調べておきましょう。試験当日は時間に余裕を持って会場に到着することで、焦りを減らせます。
- 持ち物の最終確認: 受験票、写真付き身分証明書、筆記用具(鉛筆、消しゴム)、時計(スマートウォッチ不可の場合あり)、眼鏡、常備薬、飲み物、軽食など、必要な持ち物を前日までにリストアップし、準備しておきましょう。
- 問題への冷静な対応: 試験中に分からない問題に直面しても、焦らず、一旦飛ばして他の問題に進むなど、冷静に対処する練習をしておきましょう。見直し時間も考慮し、時間配分を意識することが大切です。
- これまでの努力を信じる: 合格は、これまでの学習の積み重ねの結果です。試験当日は、これまでの努力を信じ、自信を持って問題に取り組みましょう。過度な緊張はパフォーマンスを低下させる原因となります。適度な緊張感を保ちつつ、落ち着いて臨むことが重要です。
- 解答用紙への記入ミス防止: 解答用紙のマークシートの記入ミスは、努力を無駄にしてしまう可能性があります。マークする際には、問題番号と解答箇所が一致しているか、丁寧に確認しましょう。
これらの対策と心構えを実践することで、試験本番で最大限の力を発揮し、公認心理師資格の取得に繋がることを願っています。
おわりに:公認心理師としての未来へ
公認心理師試験の合格は、専門職としてのスタートラインに立つことを意味します。この資格は、心理の専門家として社会に貢献するための大きな一歩であり、その後のキャリアにおいて多様な可能性を切り拓くものです。
試験合格後の展望
公認心理師の資格を取得すると、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働といった多岐にわたる分野で活躍する道が開かれます。
- 保健医療分野: 精神科病院や総合病院の精神科・心療内科、がん拠点病院、地域精神科クリニックなどで、心理アセスメント、心理療法、精神科リエゾン、緩和ケアなどを行います。
- 福祉分野: 児童相談所、障害者支援施設、高齢者施設、地域包括支援センターなどで、心理相談、生活支援、家族支援、虐待対応などを行います。
- 教育分野: 学校(スクールカウンセラー)、教育センター、大学・専門学校の学生相談室などで、児童生徒や学生の心理支援、教職員へのコンサルテーション、保護者支援などを行います。
- 司法・犯罪分野: 少年鑑別所、少年院、刑務所、保護観察所、家庭裁判所などで、非行少年や犯罪者の心理アセスメント、更生支援、被害者支援などを行います。
- 産業・労働分野: 企業内の健康管理室、EAP(従業員支援プログラム)機関、産業保健総合支援センターなどで、従業員のメンタルヘルス支援、ストレスチェック後の面接指導、職場復帰支援、ハラスメント対策などを行います。
これらの専門分野に加え、個人で心理オフィスを開業する道や、大学・研究機関で心理学研究や教育に携わる道も考えられます。公認心理師は、どの分野においても、クライエントの心の健康の保持増進に貢献し、社会のニーズに応える重要な役割を担います。
継続的な学習と自己研鑽の重要性
公認心理師の資格取得は、学習の終わりではなく、むしろ生涯にわたる「継続的な学習と自己研鑽」の始まりを意味します。
- 知識と技術の陳腐化への対応: 心理学や関連分野の知見は日々進歩しており、新しい理論、診断基準、治療法、支援技術が常に開発されています。これらの最新情報を学び続けなければ、自身の知識や技術が陳腐化し、質の高い支援を提供することが困難になります。
- 多様化するニーズへの対応: 現代社会は急速に変化しており、それに伴い人々の心の健康に関するニーズも多様化・複雑化しています。新たな社会問題(例:インターネット依存、孤独・孤立問題)や、災害・パンデミックといった予期せぬ事態への対応能力も求められます。
- 専門職としての責任と倫理: 公認心理師には、国民の心の健康に寄与するという大きな社会的責任があります。常に倫理綱領を意識し、自身の専門性を高める努力を怠らないことが、専門職としての信頼性を維持し、クライエントに安全かつ効果的な支援を提供するための義務となります。
- 具体的な自己研鑽の方法:
- 研修会・セミナーへの参加: 最新の知見や特定のスキルを学ぶために、学会や関連団体が主催する研修会に積極的に参加します。
- スーパービジョンの継続: 経験豊富なスーパーバイザーから定期的に指導を受けることで、自身の支援を客観的に振り返り、専門的視点と技術を向上させます。
- 学会活動への参加: 関連学会に所属し、研究発表や情報交換を通じて、専門家コミュニティとの連携を深めます。
- 論文・専門書の購読: 最新の研究論文や専門書を読み、知識をアップデートします。
- ケース検討会への参加: 他の専門家との意見交換を通じて、多角的な視点からケースを検討し、問題解決能力を高めます。
- セルフケアの実施: 心理支援は精神的な負担が大きいため、自身の心の健康を維持するためのセルフケアも重要な自己研鑽の一部です。
公認心理師としての未来は、自ら学び、成長し続けることで無限に広がっていきます。資格取得後も、生涯にわたる学習と自己研鑽を惜しまず、社会に貢献し続ける専門家でありましょう。
キーワードリスト
ブループリント、公認心理師試験、令和7年版、出題基準、合格戦略、学習ロードマップ、出題傾向、対策、大項目、中項目、小項目、出題割合、学習アドバイス
心理学基礎:
心理学、臨床心理学、要素主義、ゲシュタルト心理学、精神分析学、行動主義、新行動主義、認知心理学、認知神経科学、科学者-実践者モデル、生物心理社会モデル、心理力動アプローチ、認知行動アプローチ、人間性アプローチ、ナラティブ・アプローチ、社会構成主義、感覚、知覚、記憶、学習、言語、思考、動機づけ、感情、情動、個人差、社会行動、発達
研究法・統計:
実証的研究法、研究倫理、実験法、調査法、観察法、検査法、面接法、実践的研究法、分散分析、因子分析、重回帰分析、構造方程式モデリング、多変量解析、テスト理論、メタ分析、尺度水準、度数分布、代表値、散布度、相関係数、仮説検定、点推定、区間推定、ノンパラメトリック検定、確率、確率分布、標本分布
脳・神経科学:
脳神経系、中枢神経、ニューロン、シナプス、グリア、脳脊髄液、末梢神経、機能局在、大脳皮質、辺縁系、視床、視床下部、自律神経、交感神経、副交感神経、睡眠、摂食行動、情動行動、性行動、サーカディアンリズム、神経伝達物質、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン、オピオイド類、高次脳機能障害、失語、失行、失認、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、社会的行動障害、リハビリテーション
- Piaget、L. S. Vygotsky、知能指数、多重知能、心の理論、メンタライゼーション、共感性、向社会的行動、協調性、自己制御、実行機能、感情制御、感情知性、道徳性、規範意識、アタッチメント、内的作業モデル、相互規定的作用モデル、社会化、個性化、自己概念、自我同一性、ジェンダー、セクシャリティ、生涯発達、ライフサイクル論、胎児期、乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、中年期、老年期、キャリア発達、生成継承性、非定型発達、神経発達症群、ASD、AD/HD、SLD、知的能力障害、アタッチメント障害、早産、低出生体重児、成長障害、高齢者、認知症、ADL、QOL、ウェルビーイング、エイジング・パラドックス、サクセスフルエイジング、老年的超越
障害者心理学・支援:
身体障害、知的障害、精神障害、ICIDH、ICF、精神疾患診断分類、ICD-10、DSM-5、発達障害、障害者総合支援法、発達障害者支援法、精神保健福祉法、合理的配慮、療育、特別支援教育、就労支援、SST、応用行動分析、認知行動療法、TEACCH、ペアレント・トレーニング
アセスメント:
心理的アセスメント、テストバッテリー、ケース・フォーミュレーション、機能分析、インフォームド・コンセント、診断的評価、半構造化面接、インテーク面接、査定面接、司法面接、行動観察、自然観察法、実験観察法、心理検査、質問紙法、投影法、描画法、作業検査法、神経心理学的検査、知能検査、発達検査、フィードバック
心理支援・カウンセリング:
心理療法、カウンセリング、心理力動理論、認知行動理論、人間性アプローチ、集団療法、アウトリーチ、緩和ケア、終末期ケア、グリーフケア、自殺予防、災害時支援、地域包括ケアシステム、コミュニティ・アプローチ、コンサルテーション、援助要請、転移、逆転移、エビデンスベイスト・アプローチ、エンパワメント、ストレングス、共感的理解、傾聴、作業同盟、動機づけ面接、負の相補性、効果研究、個人情報保護法、個人の尊厳、自己決定
各分野の心理学と制度:
健康・医療: ストレス、心身症、予防、Caplanモデル、精神疾患、遺伝カウンセリング、がん、難病、AIDS、医療倫理、医療安全、感染対策、チーム医療、多職種連携、リエゾン精神医学、QOL、保健活動、発達相談、うつ、自殺対策、職場復帰支援、依存症、認知症高齢者、ひきこもり、妊娠・出産・育児、被災者支援、心理的応急処置、医療・保健領域の災害支援チーム、支援者のケア
福祉: 障害者福祉、児童福祉、高齢者福祉、社会福祉、少子高齢化、貧困、DV、IPV、権利擁護、アドボカシー、意思決定支援、社会的インクルージョン、エコロジカル・モデル、心理教育、回想法、遊戯療法、芸術療法、家族療法、社会的養護、里親制度、生活保護
教育: 動機づけ、自己効力感、原因帰属、適性処遇交互作用、学力、学習方略、アクティブラーニング、不登校、いじめ、非行、生徒指導、進路指導、キャリアガイダンス、学校文化、スクールカウンセリング、学校危機支援、チーム学校、学生相談、教育評価、教職員のメンタルヘルス
司法・犯罪: 犯罪、少年非行、犯罪予防、再犯予防、犯罪捜査、裁判員裁判、医療観察制度、犯罪被害者支援、面会交流、非行・犯罪の理論、司法面接
産業・組織: 過労死、ハラスメント、労働災害、職場復帰支援、就労支援、キャリア形成、人的資源管理、働き方改革、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、両立支援、ポジティブメンタルヘルス、ストレスチェック制度、リーダーシップ、労働安全衛生マネジメント、動機づけ理論
関連法規:
公認心理師法、医療法、精神保健福祉法、自殺対策基本法、健康増進法、地域保健法、母子保健法、民法、介護保険制度、児童福祉法、老人福祉法、児童虐待防止法、障害者総合支援法、発達障害者支援法、障害者差別解消法、障害者虐待防止法、障害者基本法、高齢者虐待防止法、DV防止法、生活保護法、生活困窮者自立支援法、成年後見制度、教育基本法、学校教育法、学校保健安全法、いじめ防止対策推進法、教育機会確保法、刑事法、医療観察法、犯罪被害者等基本法、更生保護制度、ハーグ条約、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、労働者派遣法、障害者雇用促進法、男女雇用機会均等法
その他:
健康日本21、こころの健康対策、薬物依存症、PTSD、心理教育、支援者のメンタルヘルス