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人はなぜ自分に都合のいい情報だけ信じてしまうのか?──確証バイアスがもたらす思考のワナ

確証バイアス

 


はじめに:確証バイアスとは?

私たちは日々、膨大な情報に囲まれています。その中で、どうやって「信じる情報」と「信じない情報」を選び取っているのでしょうか?その選択を左右するものの一つが「確証バイアス」です。確証バイアスとは、自分の信じていることや期待していることを支持する情報ばかりを集め、反対する情報を無視したり軽視したりする傾向のことを指します。

例えば、「Aというダイエット法は絶対に効果がある」と信じている人は、その方法を推奨する記事や体験談を探して安心する一方で、効果がないとするデータや批判的な意見には目を向けません。このように、私たちの脳は無意識に「自分が正しいと思いたい」という欲求に従って情報を選び取ってしまうのです。


確証バイアスが起こる理由

確証バイアスがなぜ発生するのかを理解するには、人間の思考プロセスに少し踏み込んでみましょう。私たちの脳は、非常に効率的な情報処理装置です。限られたエネルギーと時間の中で、効率よく意思決定を行うため、脳はしばしば「ショートカット」を使います。このショートカットの一つが、確証バイアスです。

思考の省エネ

情報量が膨大な現代社会では、すべての情報を公平に処理することは不可能です。そのため、私たちの脳は「知っている情報」「信じたい情報」を優先し、反対する情報を無視することで、思考のエネルギーを節約します。これは、人間がストレスや混乱を避け、精神の安定を保つための本能的なメカニズムです。

自己防衛の心理

人間は、自分の信念や価値観が否定されることに対して非常に敏感です。それが自分のアイデンティティに関わるような信念であればあるほど、反論する情報に対して防衛的になります。確証バイアスは、こうした自己防衛の心理からも生まれるのです。


確証バイアスがもたらす影響

確証バイアスは、個人の意思決定だけでなく、社会全体にも大きな影響を及ぼします。以下に具体例を挙げて、どのような問題が生じるかを見ていきましょう。

具体例1:政治的な偏向

政治の世界は、確証バイアスが顕著に表れる領域です。例えば、ある政党を支持する人は、その政党の政策を称賛するニュースや、反対する政党の批判を積極的に受け入れますが、逆に自分の支持する政党への批判や、反対政党の良い面には目をつむりがちです。このバイアスが助長されると、社会の分断が進み、対立が深まる要因になります。

最新の研究
名古屋工業大学の研究によると、誤情報に対する訂正記事を意図的に避ける人が多く見られました。調査では、参加者の43%が自身の信念に反する情報をクリックしない選択的回避行動を示しました。このような行動は、政治的意見の固定化や対話の欠如を助長する可能性があります。

具体例2:健康・医療情報への影響

健康に関する情報は、私たちの生活に直結するため、感情的に捉えられやすい分野です。例えば、「〇〇サプリメントは健康に良い」という話を信じたい人は、肯定的なレビューや宣伝にばかり注目し、科学的根拠に基づく批判や警告を無視することがあります。このような偏った情報収集は、最悪の場合、健康を損ねる危険な行動につながります。

最新の研究
ワクチン有効性に関する2023年の研究では、確証バイアスが個人の情報選択にどのように影響するかが調査されました。この研究は、ワクチン接種に対する態度に確証バイアスがどの程度影響するかを示し、誤った情報が公共の健康施策に及ぼす影響を示唆しています。

具体例3:教育現場での科学的思考のゆがみ

確証バイアスは、教育現場でも問題になります。理科の実験授業などでは、生徒が自分の仮説を支持するデータだけに注目し、それに反するデータを軽視することが報告されています。こうしたバイアスは、科学的探究の本質を理解する妨げになります。

最新の研究
日本体育大学の研究では、学生が実験データを意図的に改ざんする傾向が明らかになっています。このような行動は、科学的思考を正しく学ぶことを妨げるため、教育現場での新しい指導法が求められています。

具体例4:災害時の行動判断への影響

災害時には、確証バイアスが避難判断に大きく影響します。たとえば、危険な状況でも「この地域は安全だ」という信念が強いと、避難指示を無視する傾向があります。

最新の研究
災害時の同調バイアスに関する研究では、確証バイアスが避難の遅れにつながることが示されています。災害情報を適切に伝えるためには、人々がバイアスに囚われずに行動できるよう、工夫した情報提供が必要です。


確証バイアスを克服するには?

確証バイアスは無意識のうちに発生するため、完全に克服することは難しいですが、意識的に対策を取ることでその影響を減らすことは可能です。以下は、そのための実践的な方法です。

1. 反対意見に耳を傾ける

意識的に自分の信念に反する意見やデータを探し、それに向き合うことが大切です。「自分が間違っているかもしれない」という心構えを持つことで、偏見の少ない意思決定が可能になります。議論の場では、相手の視点を理解しようとする姿勢が重要です。

2. 批判的思考を鍛える

確証バイアスを防ぐには、情報の信頼性を批判的に考える習慣を身につけることが効果的です。たとえば、情報源の信頼性やデータの客観性を疑うクセをつけると、バイアスに惑わされにくくなります。

3. デビルズ・アドボケイトを活用する

職場などの意思決定の場では、「デビルズ・アドボケイト(反論者)」を意図的に設けると効果的です。これは、意見に反対する役割の人を指し、彼らが異なる視点を提供することで、確証バイアスを抑えることができます。


おわりに

確証バイアスは、誰もが持っている心理的傾向です。しかし、それに気づき、克服しようと努力することは、より良い意思決定を下すための第一歩です。次に何かを信じたいと思ったときには、少し立ち止まって「反対する情報はないだろうか?」と考えてみましょう。そのひと手間が、あなたの見方を大きく広げるかもしれません。


文献

  1. 名古屋工業大学. (2023). 誤情報に対する訂正記事のクリック行動の研究. URL
  2. 日本体育大学. (2023). 理科教育における確証バイアスの影響に関する研究. URL
  3. ワクチン有効性評価における確証バイアスの研究. (2023). URL
  4. 災害時の避難判断における同調バイアスの影響. (2023). URL