臨床心理学雑記

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サリヴァン(H. S. Sullivan) の「関与しながらの観察」ー公認心理師試験過去問

 

問17 H. S. Sullivan の「関与しながらの観察」を深めていくために必要な ことについて、最も適切なものを1つ選べ。

1 自分の中立的な立ち位置が揺れ動かないよう努めること

2 自分のその場での言動と関係付けてクライエントの反応を捉えること

3 自分の主観に現れてくるイメージをもとにしてクライエント理解を進めること

4 観察の精度を高める道具として、標準化された検査の導入を積極的に進めること

5 これまでのやりとりの流れから切り離して、今ここのクライエントの感情を理解すること

4公認心理師試験

 

1は、古典的な精神分析の中立性(ブランク・スクリーン)の考え方に近いので、むしろサリヴァンらが批判した姿勢ですね。

正解は2です。

 

ハリー・スタック・サリヴァン(1892-1949)は、統合失調症精神分裂病)の心理療法に大きく貢献したアメリカの精神科医です。

精神分析の中でも、カレン・ホーナイやエーリッヒ・フロム、クララ・トンプソンといった人たちとともに「ネオ・フロイディアン」と呼ばれる流れを創った人物でもあります。

 

『精神医学は対人関係論である』(中井久夫訳、みすず書房)という著作のタイトルにもあるように、精神疾患を「対人関係」という視点から捉え、関わろうとしました。

そのため、サリヴァンらのアプローチは「対人関係学派」とも呼ばれています。

 

関与しながらの観察 (participant observation)

サリヴァンは、「精神医学のデータは関与的観察をとおしてのみ獲得できるものである」と述べ、精神科医の主要観察用具はその自己であり、個人としての人格だと言いました。そして、「観察者と被験者とのあいだに創造される場(situation)」において、さまざまなデータが得られると考えました。

統合失調症のみならず「精神医学の対象範囲は対人関係の世界である。いかなる事情の下にある対人関係かは問わない。とにかく一個の人格を、その人がその中で生きそこに存在の根を持っているところの対人関係複合体から切り離すことは、絶対にできない(Sullivan, 1940)」と、人間というものが、関係性を離れて客観的に存在するということは不可能であるとし、「不適切不十分なコミュニケーションが、精神障害の相当部分の原因であり回復阻止要因である(Sullivan, 1940)」と、他者との関係性において派生した精神疾患は、また対人関係を通して修復されていくということを主張した。

[PDF] < 論文> 精神分析における治療関係のあり方を概観する

岡村裕美子 - 京都大学大学院教育学研究科附属臨床教育 …, 2019 - repository.kulib.kyoto-u.ac.jp

 

[PDF] HS サリヴァンの生涯と対人関係論

中野明德 - 福島大学総合教育研究センター紀要, 2011 - ir.lib.fukushima-u.ac.jp
には、サリヴァンの生涯について次のようにまとめられていました。
サリヴァンの生涯とその理論に通底するものは「移民」である。サリヴァンアイルランド系移民の三世であったが,幼少時代にニューヨーク州の寒村に孤立して住んだために,アメリカ文化への同化(acculturation)に著しく不利であった。その上,①父親の影がとても薄く,祖母,母,叔母という女性の影響を強く受け,②小さな村に住んだために同級生に恵まれず,チャムシップが不完全であり,③青春期に入って親密欲求と性欲衝動が衝突して人格の解離を引き起こした。しかし彼の天才たるゆえんは,自身の統合失調症的経験を徹底的に関与観察できる能力があったことにある。とはいえ,サリヴァン自身が安全保障感に脅かされやすく,彼の体験が対人関係論として定式化されるためには,保護的な陸軍と父親像が必要であった。サリヴァンは対人関係論を通して力動精神医学や精神衛生に貢献し,最後はアメリカ人として生涯を終えた。
 

サリヴァンやエーリッヒ・フロム、フロム=ライヒマンらが、1943年に設立したウィリアム・アランソン・ホワイト研究所は、硬直化してきたアメリカの精神分析に異議を申し立て、より人と人の関係性に注目する精神療法を目指しました。日本からもたくさんの先生がここで学びました。

www.wawhite.org