臨床心理学雑記

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ホラーファンは共感力が低い?ーダークエンパスはチンパンジーの夢を見るか

心理を操る人に共通する4つの手口ーガスライティングとはに続いて同じくPsychology Todayから「ホラーファンは共感力が低い?」という記事を読んでみました。DeepLで翻訳して斜め読みです。

 

Do Horror Fans Have Low Empathy?

They might have dark minds, but they also have soft hearts.

Posted May 23, 2022 |  Reviewed by Devon Frye

https://www.psychologytoday.com/intl/blog/morbid-minds/202205/do-horror-fans-have-low-empathy

 

概要は、

・多くの人が、ホラーファンは共感力が低いと信じている。

・ホラーファンには共感力がないという主張は、2005年に行われたメタ分析の欠陥解釈に根ざしている。

・病的なほど好奇心が強い人の中には、共感力が高い人もいる。

・ホラーファンや病的な好奇心の強い人は、平均的な人よりも冷淡ではないかもしれない、という研究結果がある。

 

というものでした。

2005年のメタアナリシスというのは、

 

1. Hoffner, C. A., & Levine, K. J. (2005). Enjoyment of mediated fright and violence: A meta-analysis. Media Psychology, 7(2), 207-237.

https://www.researchgate.net/publication/247503439_Enjoyment_of_Mediated_Fright_and_Violence_A_Meta-Analysis

 

という論文のことですね。

 

これもアブストラクトだけ読んでみると、「分析の結果、男性の視聴者、共感性の低い人、感覚希求と攻撃性の高い人が、恐怖や暴力をより楽しんでいると報告したことが確認された」が、「しかし、研究のデザインや測定方法は非常に多様であり、根本的なプロセスを特定することは困難だった」とも記されています。

 

Psychology Todayの記事では、このメタアナリシスを詳しく見てみると、「ホラーファンは共感能力が低い可能性が高い」という主張に疑問を抱かせるものが3つあったとのことです。

 

1.研究数の少なさ

2.年齢層が限られていたこと

多くの研究の対象は高校生か大学生だったとのこと。

3.刺激選択の乏しさ

メタ分析で共感を調べた6つの研究のうち、最も相関が高かった2つは、拷問や残忍な殺人などの映像がどれくらい楽しいかを調査したもので、そこから共感性の有無について言及するのはいささか無理があるのではないか、とメタ分析をした著者自身が考えているようです。

 

というわけで、ホラーファンは無感情だっていう主張は、実証されていないようです。

最近の研究では、むしろ一部のホラーファンはいくらか高いレベルの共感性を持っているかもしれないことが示唆されています。

 

このエッセイを書いたColtan Scrivnerさんは、ホラーと病的好奇心の心理学のエキスパートだそうで、それっぽい記事をたくさん書いておられます。ご本人が好きなんでしょうねきっと。

 

考えてみたら、ホラー映画って、共感するから怖いんですよね。

犬や猫がホラー映画を見たらどんな反応をするんでしょう?

チンパンジーも怖がるホラー映画を制作することはできるのでしょうか?

ホラーで恐怖するには、ミラーニューロンがたくさん働かないといけない気がします。

 

続いて、ダークエンパス(Dark Empaths)という言葉が取り上げられていました。

 

Dark Triad (narcissism, psychopathy, and Machiavellianism) と共感性がどちらも高い一群の人々がダークエンパスと呼ばれているのだそうです。

ナルシシズムサイコパス傾向とマキャベリアニズム傾向(他者を操作し、搾取する)の三つの闇傾向ですね。

 

Dark Triadの尺度は、日本語版もありましたね。

 

日本語版Dark Triad Dirty Dozen (DTDD-J) 作成の試み

 

この尺度の名称の闇感がカッコイイです。

ダークトライアドダーティダズンだよ。

 

このトライアッドにサディズム傾向の質問を加えたDark Tetrad(ダークテトラッド!)を使って調べた調査では、ダークテトラッド傾向が強い人の方が「病的好奇心」も高い傾向があったとのことです。しかし同時に、病的な好奇心が強い人とホラー映画好きは、「冷淡さ」とは負の相関があったといいます。一般的な人よりも、どっちかというと情に厚いのですね。

 

ついでに、

人間と猿が同じ映像を見ると仲良しになれることが判明|Gigazine

という記事も読んでみました。

 

デートの定番に映画があるように、同じ映像を二人で観ると親密になることが多いと言えます。同じ景色でも、物でもいいですよね(北山修先生の『共視論』参照)。

 

”マックス・プランク進化人類学研究所の所長を務めるマイケル・トマセロ氏らの研究グループは、17匹のチンパンジーと7匹のボノボに映像を見せる2種類の実験を通じて、「共通の経験が形成する絆」のルーツを探りました。”

という研究だそう。

 

だったら、一緒にホラー映画を観たらどうなるのか、少し興味がありますね。