臨床心理学雑記

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公認心理師関連ニュース:期待と問題点、医師との関係など

新年になり、公認心理師関連のニュースがいくつか見つかりました。

一般の人たちの多くは、これから「公認心理師」という言葉をメディアなどで耳にするようになるのだと思います。

 

www.asahi.com

 

朝日新聞デジタルでは、公認心理師という新しい国家資格について紹介されると同時に、これまで一般によく知られてきた臨床心理士との関係や、公認心理師への期待と問題点などについて、関係者の意見が取り上げられています。

 

日本心理臨床学会の鶴光代・前理事長は、「やがて公認心理師が心理職の主たる資格になっていく」と述べているとのこと。

 

スクールカウンセラー (SC)については、文部科学省はSCの資格として公認心理師を加えたものの「当面は従来通り」との見解を示しています。スクールカウンセラー 制度は臨床心理士の広がりと共に活用されてきたという経緯がありますので、国家資格ができたからといって急に方向転換もしにくいということでしょうか。しかし「当面は」とありますので、今後、どうなっていくかはわかりません。

公認心理師養成のための実習先として、各地の教育委員会に打診が始まっているという話も聞くので、教育現場で公認心理師を育て、そこで仕事をしていくという流れも生まれると思います。

 

医療などを監督する厚生労働省は、

カウンセリングを健康保険の対象に加えるかについて「一定の有効性があるというデータが集まってから、検討が始まる」といいます。

とのこと。

公認心理師国家試験の問題点・疑問点

2018年に第一回公認心理師国家試験が実施されましたが、試験についての問題点や疑問点も各方面から指摘されています。

高坂康雅・和光大教授(教育心理学)も疑問を持った一人です。例えば、末期がんで緩和ケアを受ける55歳の男性が最近いらだちやすくなったという事例で、患者の状態を評価する項目として、最も優先すべきものを選べ、という問題。発表された正解は、認知症の症状のひとつ「見当識障害」でした。高坂さんは「医師ならそれが正解だろうが、心理職の態度としては『不安』という選択肢も正しいはず」と疑問視します。

医学的な知識を問うているのか、心理職としての見方が尋ねられているのか、確かに迷った問題でした。

 

丹野義彦・東京大教授(臨床心理学)は、事例問題の中には国語力だけで正解できるものも多く、「国語力で合否が決まるなら、試験自体が無意味になる」と述べています。丹野先生は、2018年11月に開催された公認心理師関連シンポジウム | 日本心理学会の話題提供で、臨床心理士公認心理師はまったく違う資格であり、その国家試験に当たってはより基礎心理学に関する問題を増やすべきであると主張しています。

ツイッターなどで、臨床心理士をディスりすぎではないかとの批判も聞かれましたね。というか、臨床心理士を潰しにかかっているような。

 

受験資格をめぐる混乱として、「受験資格や必要書類についてきちんとした情報開示がないことが問題」との指摘もありました。開業領域の心理職で、運営側のはっきりしない規定によって受験を認められなかった例がありました。

 

こうした試験問題や受験資格に関する問題点は、今後、議論され、より妥当なものに修正されていくことが望まれます。

公認心理師制度への期待と課題

公認心理師制度へのポジティブな声としては、

  • 学部から大学院までの6年間の教育となったことで質の向上が期待される

ということが挙げられています。公認心理師「推進派」の奥村茉莉子氏の意見です(日本臨床心理士会専務理事)。

 

公認心理師制度への批判としては、伊藤良子帝塚山学院大教授(臨床心理学)の意見が紹介されていました。

  • 試験がマークシートのみで、面接や論述がないため不十分
  • 臨床心理士のような更新制度がない
  • 5年間の特例措置によって心理学の教育や訓練を受けていない人も受験可能

といったことが挙げられていました。

 

記事では、公認心理師の上位資格としてより専門的な資格が作られていく可能性についても、指摘されています。医療や教育といった複数の現場で働く心理職は、たくさんの資格を取らなくてはならなくなるかもしれません。

 

医師との関係についての問題

医師との関係についての問題点も取り上げられています。

京都市内で開業する臨床心理士平井正三さん(55)は昨年、精神科医らでつくる日本精神神経学会が、文科省厚労省あてに提出した文書を見て驚きました。文書では、公認心理師によるケアは主治医の指示によって行われるものだから、心理師が主治医と連絡をとる際に患者の「同意は必要としない」とあり、患者に「『守秘義務』は限定的であることを説明し、理解を得ることが必要」とも記されています。

ここで言及されているのは、2018年5月の日本精神神経学会の「声明・見解」のことですね。

公認心理師法第 42 条第 2 項に係る主治の医師の指示に関する運用基準についての見解

 

厚生労働省によって平成 30 年 1 月 31 日に発出された「公認心理師法第 42 条第 2 項に係る主治の医師 の指示に関する運用基準について」に対する見解です。

 

ごくかいつまんで説明すると、厚生労働省が「単発の相談や、クライエントが求めていないときなどは、無理に主治医の指示を仰ぐこともないですよ」と言っていることに対して、精神神経学会(精神科医の団体)が「例外なく医師の指示に従うべき」と主張しているということです。

 

心理学領域からは、精神神経学界の見解に対して、次のような意見も。

www.cocolabo.me

blog.livedoor.jp

 

 

朝日新聞のこの記事は、新しく生まれた国家資格制度について、期待だけでなく問題点や課題なども指摘して、さまざまな意見・視点を紹介してくれています。最近、公認心理師に関心を持った人や、「心理の仕事をしてきたけれど、業界が今どんなことになってるのかよくわからなくて」という人にとっても、いい見取り図になるのではないでしょうか。