第一回公認心理師試験(2018年)の過去問ふりかえりです。
問18は「ケースフォーミュレーション」についてでした。
ケース・フォーミュレーションについて、正しいものをつ選べ。
という設問です。
ケースフォーミュレーション(case formulation)は、日本語に訳すと「事例定式化」となります。クライエントから話を聞いたり、心理アセスメントをしながら、「見立て」をして、支援の方針を定めるといった意味合いです。
「見立て」は、心理師が持っているパーソナリティ観に基づいて行われるものなので、
「精神分析的なケースフォーミュレーション」とか
「認知行動療法的ケースフォーミュレーション」
あるいは「森田療法的ケースフォーミュレーション(という言葉はあまり聞きませんが)」といったさまざまな視点がありうるわけですね。
例えば認知行動療法のケースフォーミュレーションについては、次のように記述されていました。
認知行動療法において、相談者の心理的問題に関し、引き起こした要因、維持している要因、症状の特徴、相談者の特性を、個別に心理アセスメントし、効率的に理解するプロセスのこと。症状や問題を引き起こした直接的出来事、その出来事に対しての相談者自身のとらえ方、生い立ちや社会環境の影響、問題となって現在抱えている症状を、認知面、感情面、行動面、身体反応面に分けて、1枚のシートに記述する。
出来事に対する相談者の捉え方や症状などを「認知面」「感情面」「行動面」「身体反応面」に分けて記述する、といったことが「認知行動療法らしさ」ということになるのでしょう。
精神分析的なケースフォーミュレーションは、防衛機制や転移といった視点から建てられることになります。
精神分析的なケースフォーミュレーションについては、ナンシー・マックウイリアムズの名著『ケースの見方・考え方:精神分析的ケースフォーミュレーション』などが参考になります。
各章で、「発達の問題のアセスメント」「防衛のアセスメント」「感情のアセスメント」「同一化のアセスメント」「関係のパターンのアセスメント」「セルフエスティームのアセスメント」「病因となる信念のアセスメント」などについて触れられています。第3章の「変えられないものをアセスメントする」という視点は、心理療法でできることとできないこと、治療者の限界を見極める上でも重要だと思われます。
精神分析的(心理力動的)なケースフォーミュレーションでは、フロイト以来の「治療同盟」が重視されます。
認知行動療法においてもケースフォーミュレーションは、クライエントとの共同作業であることが重視されています。
Googleで検索してみたところ、下山晴彦先生の「臨床心理学の現在」というスライドで、認知行動療法の枠組みから見た事例のフォーミュレーションが取り上げられていました。
「人から声をかけられると笑いながら逃げてしまう女児」のケースで、軽度の知的障害があり(IQ=69)、「追いかけられることで対人関係を持て、快感情を得る」といった見立てに基づいて介入しています。
「笑いながら逃げる」のは、「注意を引き、対人関係をもつための手段」という機能を持っていると推測されるので、「生活技能訓練を用いて行動に介入し、声をかけられたときに逃げる替わりに時候の挨拶をして雑談する方法を教える」といった介入が検討されたとのことでした。
「臨床心理フロンティア」というサイトでは、下山先生の
認知行動療法ケース・フォーミュレーション入門:下山晴彦 | 公認心理師カリキュラム対応 臨床心理フロンティア講義動画シリーズ | 臨床心理フロンティア
という講義の動画が視聴できるようですね(登録が必要とのこと)。
というわけで、問題に戻ります。
選択肢は、
①一度定式化したものは修正しない。
② できるだけ複雑な形に定式化する。
③ 全体的かつ安定的な心理的要因を検討する。
④ クライエントと心理職との共同作業を重視する。
⑤ 症状を維持するメカニズムや診断名を考慮しない。
の5つでした。
ケースフォーミュレーションはあくまで「仮説」ですので、クライエントとの共同作業の中で適時修正されることもあります。
また、お互いに理解できる言葉で行われる必要がありますので、過度に複雑にすべきではないでしょう。
③の「全体的かつ安定的な心理的要因」というのは、なんのことかよくわからないですね。
⑤の「症状を維持するメカニズム」は当然検討しますし、診断するわけではないですが、医学的な診断も念頭に置いておくことが求められます。医師との連携(あるいは医師の指示)の中でクライエントの支援に当たることも多いということを考えると、医師との共通言語も踏まえておく必要があります。
というわけで、正解は④の「クライエントと心理職との共同作業を重視する」となります。