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公認心理師試験過去問解説:性犯罪再犯防止指導における動的リスク要因の評価

 


35歳の男性Aは14歳の時に初めて性犯罪を起こし、その後も性犯罪で3度逮捕され、さらに暴行罪で検挙されたことがある人物です。過去に2回の服役経験があり、現在は社会復帰中です。しかし、飲酒がきっかけでいら立ち、痴漢行為をして再逮捕されました。Aが更生するための働きかけにおいて、動的リスク要因として適切なものを2つ選んでください。

選択肢

  1. 飲酒
  2. 暴行罪
  3. 初発非行
  4. 犯罪に対する認識
  5. 幼児期の親子関係

正解
1. 飲酒
4. 犯罪に対する認識


詳細な解説

動的リスク要因と静的リスク要因について

再犯リスク評価において、リスク要因は「動的リスク要因」と「静的リスク要因」に分類されます。

  • 動的リスク要因:変更可能な要因で、再犯防止のための介入が可能です。例として、物質使用(アルコールや薬物)、態度や認知の歪み、犯罪への認識などが含まれます。
  • 静的リスク要因:過去の非行歴や犯罪歴など、変更が困難な要因です。これらは再犯リスクを示す指標として用いられるものの、介入によって改善できるものではありません。

選択肢ごとの解説

  1. 飲酒

    • 動的リスク要因です。Aが再犯を犯したのは、飲酒がきっかけでいら立ちを感じたためであり、飲酒が再犯リスクを高める要因となっています。物質使用の問題は治療や介入によって改善できるため、再犯リスク低減を目指す介入が可能です。
  2. 暴行罪

    • 静的リスク要因です。Aの暴行罪の過去は変更不可能であり、再犯リスクの評価には影響するものの、介入の対象としては適切ではありません。
  3. 初発非行

    • 静的リスク要因です。初めての非行が14歳であったことは動的要因ではなく、再犯防止のための介入対象とはなりません。
  4. 犯罪に対する認識

    • 動的リスク要因です。Aが「ちょっと触っただけ」と認識していることは、犯罪への理解や責任の自覚が欠如していることを示唆しています。認知の歪みが再犯のリスク要因とされるため、認知行動療法などでの介入が有効です。
  5. 幼児期の親子関係

    • 静的リスク要因です。幼少期の親子関係は、Aの人格形成に影響を与えるものの、動的な要因ではなく、現在の行動変容に直接的な介入が難しい要因です。

最新の研究

近年、性犯罪者の再犯防止には、認知行動療法(CBT)を基盤とした治療が効果的であることが明らかにされています。とくに「動的リスク要因」への介入においては、認知の歪みを修正するための介入や、物質使用への対応が不可欠です。また、2021年の研究では、刑事施設内でのメンテナンスプログラムが再犯抑制に有効であると示されています。動的リスク要因に特化した治療が増えることで、再犯防止プログラムの精度が向上しています。

 

文献リスト

  1. 嶋田 洋徳(2021). 性犯罪再犯防止指導の現状と課題. 法務省.

    • 日本国内における性犯罪者処遇プログラムの現状をまとめ、認知行動療法が果たす役割や改善点について論じています。再犯リスクのある人に対する動的リスク要因の評価と、その軽減に向けた介入の重要性に焦点を当てています。
  2. 野村 和孝(2017). 再犯防止を目的とした認知行動療法の現状と課題―健康心理学によるエンパワメントの果たす役割―. Journal of Health Psychology Research, 29, 95-102. https://doi.org/10.11560/jhpr.160712043

    • この研究では、日本の司法矯正領域での認知行動療法の実施現状や課題が論じられ、健康心理学のアプローチがエンパワメントを通じて再犯防止に貢献する可能性について検討しています。