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過去問解説:J.O. プロチャスカの「行動変容ステージ」に基づく支援

問題
40歳の男性Aが飲酒問題について、開業している公認心理師Bのもとを訪れました。Aは「妻が強く勧めるので仕方なく相談に来ただけだ」と言い、仕事上のストレスからアルコールを過剰に摂取することがあるが、大きな問題ではないと考えています。
J. O. プロチャスカの行動変容ステージに基づくBの初期対応として、不適切なものを1つ選びなさい。

選択肢

  1. 飲酒行動の利点について尋ねる。
  2. 飲酒行動をスモールステップで減らしていく計画を立てる。
  3. 飲酒行動が生活に及ぼす否定的影響についての気づきを促す。
  4. 相談に来たという行為そのものを肯定する。
  5. 問題認識を回避するためにAが行っていることに気づかせる。

正解
2. 飲酒行動をスモールステップで減らしていく計画を立てる。


解説

行動変容ステージモデルについて

J.O. プロチャスカらが提唱した「行動変容ステージモデル」は、人が行動を変えようとするプロセスを5つのステージに分類したものです。各ステージごとに支援者の対応が異なり、クライエントの準備度に応じて適切な介入が必要です。

  1. 無関心期(Precontemplation)
    問題を認識しておらず、変化する意欲もない段階。Aさんのように「自分には問題がない」と感じている場合が該当します。

  2. 関心期(Contemplation)
    問題の存在に気づき始め、行動を変えようと考える段階です。

  3. 準備期(Preparation)
    行動を変えようと決意し、具体的な行動プランを立てる段階。

  4. 実行期(Action)
    新たな行動を始め、計画に沿って取り組む段階。

  5. 維持期(Maintenance)
    新たな行動を維持し、長期的に取り組む段階。

問題の背景と初期対応

Aさんはまだ無関心期にあり、自身の飲酒行動が問題であると認識していません。したがって、いきなり「スモールステップで減らす計画」を立てるのは不適切です。この段階では、行動変容の準備が整っていないため、無理に行動計画を立てようとすると、抵抗が生じる可能性が高いです。

各選択肢の解説

  1. 飲酒行動の利点について尋ねる

    • 飲酒のポジティブな側面に注目することで、Aさん自身が飲酒行動の動機を理解しやすくする方法です。無関心期の対応として適切です。
  2. 飲酒行動をスモールステップで減らしていく計画を立てる

    • 不適切です。計画を立てるのは準備期以降であり、無関心期のAさんにとって早すぎる介入です。
  3. 飲酒行動が生活に及ぼす否定的影響についての気づきを促す

    • 問題認識を促す対応で、無関心期に適したアプローチです。
  4. 相談に来たという行為そのものを肯定する

    • 相談に来た行動を評価することで、関心を持ち始めるきっかけを作ることができます。
  5. 問題認識を回避するためにAが行っていることに気づかせる

    • Aさんが問題から目をそらす行動について問いかけることは、無関心期に適した対応です。

最新の心理学研究:動機づけと行動変容

最近の研究では、無関心期にある人に対し「動機づけ面接」が効果的であるとされています。動機づけ面接は、クライエントが内面的な変化に気づき、自ら行動変容を望むようにサポートする方法で、特に依存症分野で有効です。行動変容ステージモデルとの併用により、心理的支援の効果が高まることが示唆されています​。

 

行動変容ステージモデルに関する文献

  1. Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C. (1983). Stages and processes of self-change of smoking: Toward an integrative model of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390–395. https://doi.org/10.1037/0022-006X.51.3.390

  2. Prochaska, J. O., Norcross, J. C., & DiClemente, C. C. (1994). Changing for good: A revolutionary six-stage program for overcoming bad habits and moving your life positively forward. William Morrow and Company.

  3. Prochaska, J. O., & Velicer, W. F. (1997). The transtheoretical model of health behavior change. American Journal of Health Promotion, 12(1), 38–48. https://doi.org/10.4278/0890-1171-12.1.38

日本語文献

  1. 動機づけ面接〈第3版〉
    著者: ウイリアム・R・ミラー(William R. Miller)とステファン・ロルニック(Stephen Rollnick)
    監訳: 原井 宏明
    訳者: 原井 宏明、岡嶋 美代、山田 英治、黒澤 麻美
  2. 動機づけ面接法実践入門
    著者: ステファン・ロルニック、ウィリアム・R・ミラー、クリストファー・C・バトラー
    監訳・訳者: 後藤 恵、荒井 まゆみ