問 20は、次のような問題でした。
対象喪失に伴う悲嘆反応に対する心理的支援について、正しいものを1つ選べ。
① 悲嘆を悪化させないためには、喪失した対象を断念することを勧める。
② 理不尽な喪失体験に遭遇したときは、現実検討ではなく気分の転換を優先する。
③ 喪失した対象に対する悲嘆過程を共に体験し、その意味を共に探ることが目標である。
④ 悲嘆が病的な反応へと陥らないように、健康な自我の働きを支えることが目標である。
⑤ 悲嘆反応の中で出てくる喪失した対象への罪悪感は、病的悪化の要因になりやすいため、心理的支援の中で扱うことは避ける。
「第1回公認心理師試験(平成30年9月9日実施分)の合格基準及び正答について」によると、「正しいものを問う問題として、複数の選択肢が正解と考えられるため」、「③又は④を複数正解とする」ことになっています。
試験直後のツイッターなどの議論?を見ると、いわゆる「不適切問題」はもっとあるような印象でしたが、蓋を開けてみるとこの問20と問58の2問だけでした。
フロイトは「悲哀とメランコリー」(1917)で、愛する対象の喪失による悲嘆とメランコリーの類似点、相違点について論じました。
リンデマン(1944)は、
- ショックと不信
- 激しい悲嘆
- 和解
の3段階の視点で悲嘆・グリーフを捉えました。
ウォーデンは、『グリーフカウンセリング』(2008)という本の中で、大切な人を亡くした後で、取り組むべき課題を4つ挙げています。
- 喪失の事実を受容する
- 喪失の苦痛を経験する
- 故人のいない環境に適応する
- 故人を情緒的に再配置し自分の生活を続ける
こうした視点から、問20の選択肢を見てみます。
①の「断念することを勧める」ということは、ショック・不信・悲嘆といった状態にある人に対してふさわしい支援とは言えないでしょう。
②の「気分の転換を優先」は、「喪失の事実を受容」し、「苦痛を経験する」ことと反します。
③にあるように「悲嘆過程を共に体験し、その意味を共に探る」ことが目標となります。
また、④の「健康な自我の働きを支える」は、病的悲嘆に陥らないために(あるいはそこからの回復のために)適切な支援だと考えられます。
山本力「死別と悲哀の概念と臨床」(pdf)
⑤「悲嘆反応の中で出てくる喪失した対象への罪悪感」は、しばしば認められるものであり、心理支援の対象となります。