第2回公認心理師試験の問題(これもすでに過去問)から、いくつか取り上げてみたいと思います。
午前の試験の問16は「神経心理学的テストバッテリー」についての問題でした。
問16 神経心理学的テストバッテリーについて、正しいものをつ選べ。
① 各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。
② Luria-Nebraska 神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。
③ 固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられ る。
④ 多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用い られる。
⑤ 可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見 するために用いられる。
① 各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。
「信頼性」とは、同じ検査を何度か実施したとき、同じような安定した結果が出るということです。その尺度がどれくらい信頼できるかという意味合いですね。
体重計に乗ったとき、朝測ったら60キロだったが、お昼に測定したら80キロだった、という場合には「信頼性」がないと判断されます。
もしこんなことがあれば、私たちは「うわ、体重が3時間で20キロも増えた」と考えるのではなく、「この体重計、壊れてるんじゃない」と見なしますよね。
「妥当性」とは「測定しようとしているものが正しく測れているかどうか」を表します。体重計に乗って「170センチ」と結果が出たら、これは身長を測っているのであって、体重計としては妥当性に欠けることになります。
ですので、「妥当性」がないということは、そもそも心理検査としての目的を達成していないわけです。
選択肢①は誤りとなります。
② Luria-Nebraska 神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。
ルリア・ネブラスカ神経心理学バッテリー(LNNB)は、基本尺度として、「運動」「リズム」「触覚」「視覚」「受容言語」「表出言語」「書字」「読み」「計算」「記憶」「知的能力」の11の尺度と149の検査項目から構成されているテストバッテリーです。
成人版と小児版がありますが、幼児用ではありません。3時間くらいかかる検査だそうで、幼児には向いていないのでしょうね。
選択肢②も誤りです。
③ 固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。
「固定的なバッテリー」「可変的なバッテリー」という言葉がよくわからなかったのですが、検索してみると
「固定的なバッテリー(fixed battery)」とは,一つの検査をフルで固定して行うことであり,
「可変的なバッテリー(flexible battery)」とは,
必要に応じて検査の下位尺度を取り出して組み合わせた テストバッテリーのことを言います。
固定的なバッテリーは,それひとつで測定したいものを ひととおり測定できているわけですから, それを補完する必要はありません。
http://blog.livedoor.jp/kosakayasumasa/archives/55685868.html
とありました。和光大学の高坂先生のブログです。
fixed batteryで検索すると、次のページが引っかかりました。
Neuropsychological Assessment: Flexible or Fixed?
https://clmmag.theclm.org/home/article/neuropsychological-assessment-flexible-or-fixed
ざっと読むと、フレキシブルなバッテリー、固定的なバッテリーそれぞれのメリット、デメリットが書かれているようです。
神経心理学検査は、「注意」「記憶」「言語」「空間機能」「実行機能」などを測定しますが、固定的で包括的なバッテリーは時間がかかりすぎるのがデメリットだと。
Halstead-Reitan Neuropsychological Test Batteryが用いられることが多いとのことですが(アメリカのサイトのよう)実施になんと12時間もかかるのだそうです。
日本では、「固定的なバッテリー」としてウェクスラー知能検査が用いられることが多いと思われます。
選択肢③も誤りとなります。
④ 多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。
上記の理由から、選択肢④が正解となります。
⑤ 可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見するために用いられる。
時計描画テスト(Clock Drawing Test)は、気分障害ではなく、認知症のスクリーニング検査などとして前頭葉機能をアセスメントするために用いられます。
時計描画によるアセスメントの動画がありました。
リハビリ医療における認知機能スクリーニングについて ― 時計描画検査(CDT)を中心に―