2018年7月19日、「カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案」が参院内閣委員会で自民、公明両党と日本維新の会の賛成多数で可決されました。20日には参議院本会議で可決、成立しています。海外でも多くのカジノが倒産しており、大した経済効果もなさそうだとも言われています。また、「ギャンブル依存症が増える」という問題も指摘されています。ここでは、ギャンブル依存症と、2019年に誕生する公認心理師に期待されている役割についてまとめます。
カジノ法案とギャンブル依存症
日本にはパチンコやスロット、あるいは競馬・競輪・競艇といった賭博の場がすでにたくさんあります。パチンコ店はローソンよりも多い1万2000館もあるのだそうです。
そして、日本におけるギャンブル障害の有病率は、5.6%(男性9.6%、女性1.6%)と、諸外国と比べても非常に多いのが特徴です(2008年の厚生労働省助成の研究班による調査)。
2014年には、厚生労働省は、国内のギャンブル障害の有病者数を536万人(北海道の人口と同じ)と推測したといいます。
政府は、ギャンブル依存症への対策として、入場回数の制限と入場料金を設けようとしています。
しかし、こうした対策が果たして効果があるのか、という疑問もあります。
朝日新聞の記事では、「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表を挙げていました。
土日の2日間に集中的に開催される競馬で依存症患者が後を絶たないことを理由に、「なぜ7日間に3回で依存症にならないといえるのか。入場料をとれば、元を取ろうとカジノに長く居座る。依存症対策として実効性があるのか」と話す。
もっともな話です。
ギャンブル依存症とは
ギャンブル依存症(Gambling addiction)とは、行為・過程アディクション(嗜癖障害)の一種で、ギャンブルをやめたくてもやめられない状態に陥ってしまうことです。
DSM−5では、「ギャンブル障害(Gambling Disorder)」、ICD-10では「病的賭博(Pathological gambling)」という名称で定められています。
ギャンブル依存症は、
「持続し反復する問題賭博行動によって臨床的に意味のある機能障害や苦痛が生じている状態」(DSM−5)、
「貧困になる、家族関係が損なわれる、個人的な生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続的に繰り返され、しばしば増強する賭博行為」(ICD-10)
といった特徴を持っています。
次の動画は、精神科医によるギャンブル障害の解説です。
ギャンブル障害の診断基準(DSM-5)
DSM-5では、ギャンブル障害の診断基準が定められています。
A.臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。
- 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする欲求
- 賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ
- 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
- しばしば賭博に心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
- 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い
- 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)
- 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく
- 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
- 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む
B.その賭博行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。
▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる)
▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない)
▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)
ギャンブル依存症と公認心理師の役割
ギャンブル依存症、ギャンブル障害と言われるような状態になってしまったときの治療や支援にはどのようなことが必要でしょうか。
HUFFPOSTの記事には、政府の「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」での依存症対策として次のような意見が紹介されていました。
依存症に有効な治療方法を確立し診療報酬で評価すること、精神保健福祉センターの相談体制を強化することと並び、人材養成を重要な論点とした。
具体的には医師、保健師・看護師、精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師を挙げ、養成教育の依存症関連事項を充実したり国家試験の出題基準に明確に位置付けたりする必要があるとした。
医師やソーシャルワーカーと並んで「公認心理師」も挙げられています。ギャンブル依存症に対するアセスメントや心理支援を担うことが期待されているのでしょう。
しかし、そもそもの問題として、わざわざギャンブル依存症者を増やすような政策を行うことの是非がもっと問われるべきでしょう。
最後に、「オペラント条件づけ」の間欠強化という視点でギャンブルへの依存を説明しているスキナーの動画を貼っておきます。